第7話 ナビゲート
元の世界に戻って来て、お腹が『ぐ~』っと鳴った。
緊張の糸が切れたみたいだ。
「オーガじゃなくて、食べられる魔物とかが良かったな。そうすれば、お肉が食べられたのに」
『食糧庫にありましたよ? 取りに戻りますか?』
「え!? サクラさん? こちらの世界でも話せるの?」
『はい! ステータスを受け取ってくれたので、可能となりました。でも、ずっと話しかけていたのですよ?』
「はは……。そうだったんだ。気のせいではなかったんですね」
苦笑いが出た。幽霊だと思ったけど、あながち間違いでもなかったのか。
『とりあえず、先立つ物を得てから動きましょう。先ほどのオーガから出て来た鎖を鞄に入れて出かけましょうか』
本当にナビゲートしてくれるんだな。
逆らう理由もない。鞄に鎖を入れて出かけることにした。
◇
今は、家の近くの古物商に立ち寄っている。質屋と言った方が良いかもしれない。
目の前には、強面の男性が、オーガの鎖を調べていた。
「……兄さん。これを何処で手に入れた?」
「え~と。祖母の家に眠っていました。一応、家は僕が貰ったので所有権は、僕にあると思うのですが」
少し嘘を混ぜる。誤魔化せるかな? でも、異世界品と言っても信じてはくれないだろうし。
「質は悪いが、純金の鎖だ……。しかし、こんな物見た事ないぞ? まるで手作りしたかのようだ……」
高いのかな……。
質屋の店員が電卓を叩いた。そして、僕の前に出す。
「……え? 三十万円?」
「今は貴金属が高騰している時期でな。今後も値上がりすると予測されている。
鋳潰して、インゴットにしても良いが、芸術性も感じられるので、オークションに出せばそれなりの値が付くだろう。
今日は、金の値段と少し色を付けてこの値段を提示させて貰った」
汗が止まりません。適正価格なのかな?
『優莉さん。今の金のレートだと、その鎖は、四十万円ほどになります。だたし、そこから加工費を引かないと、使い物になりません。アクセサリー……、ネックレスとして売れば、最高値で五十万円前後といったところです。
適正価格だと思いますよ?』
サクラさんを信じるか。
その後、契約書にサインして、振り込みを待つ。
スマホが鳴った。ネット銀行の残高を確認して契約終了だ。
「……即金なのですね」
「ああ。今は、貴金属類は奪い合いと言っても良い。それに商売は信用が第一だ。
こんな良い品は、なかなかお目に掛かれないしな。
打算となるが、何か見つけたら、また来て欲しいのもある」
そう言うと、手を出して来た。そして、笑顔だ。
握手して別れる。
こうして、僕は大金を手に入れて、古物商を後にした。
◇
『さて、次は食事にしましょうか。そこのバイキングのお店に入りましょう』
サクラさんの指定した店を見る。
「一時間食べ放題で1,980円か……」
出来れば一日の食費は、千円以下に抑えたい。
少し躊躇ってしまった。
『懐も温かいのに、食費を削る意味はありませんよ。さあさあ、お腹いっぱい食べちゃいましょう』
それもそうか。長い期間ダイエットを目的として、小食を続けて来た。
でも、たまには良いかもしれない。
そういえば、引っ越しそばとか食べていなかったな。今更だけど。
そんなことを考えながら、お店に入った。
「いらっしゃいませ。お一人ですか?」
「はい。一人です」
「こちらのテーブルにどうぞ」
四人掛けのテーブルに案内される。その後、このお店の説明を受けた。
周りを見渡すと、僕以外にお客は三人しかいない。時計を見ると、十五時だった。
この時間帯は空いているんだな。当たり前か、平日だし。
さっそく、料理を取りに行く。
テーブルには、各お皿に美味しそうな料理が盛り付けられていた。
僕は、こんなオシャレなお店は始めてだ。少し嬉しくなった。
『お肉八割、野菜一割、炭水化物一割でお皿に盛り付けてください』
ローストビーフとソーセージ。焼き上がっているサイコロステーキ。それと、海鮮丼を選んでみた。
サラダも盛り付ける。
自分の席に戻り、箸を取った。
「取りすぎたかな?」
何時も小食の僕では考えられない行動だった。
大皿一杯の料理を見て、少し恥ずかしくなる。でも、残す方が恥ずかしい。
少しずつ、口に運ぶ。
「……美味しい」
箸が止まらなかった。モリモリと食べて行く。
そして、十分もしないで全部平らげてしまった。
『まだまだ、時間はありますよ。さあ、二周目に行きましょう!』
サクラさんは、何か企んでいるのかな?
でも、全然満腹感がない。
そのまま席を立ち、また、大皿一杯の料理を運んで来た。
今度は、中華料理を中心に選んでみる。
そして、全部平らげた。
美味しい以外に感想はないのだけど……。
お腹に溜まっている感覚がない。何かがおかしい。
『気にせずに、ドンドン食べてくださいね~』
美味しかったので、止まらなかった。
最終的に、四周してかなりの量を食べてしまった。
時間となったので、会計を済ませる。
「ありがとうございました。またのご来店をお待ちしております」
嫌な感じはしなかったな。
十人前くらい食べたと思うのだけど。迷惑じゃないのかな?
『クスクス。優莉さんが食べなければ、廃棄になっていましたね。あの時間帯で追加注文が来たのは久々でした。
それに、美味しそうに食べる優莉さんは、とっても印象が良かったですよ~。
それと、バイキング方式で元を取るのは無理があるのです。全然迷惑ではないのですよ』
そうか、常にお客が来るというわけではないんだな。時間帯もあるし。
今日は、空いている時間を狙って、サクラさんが誘導してくれたのか。そして、食材が無駄にならずに済んだと。
こんな間の良い行動は、久々だった。
色々と満足して家路に着く。
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