第7話 ナビゲート

 元の世界に戻って来て、お腹が『ぐ~』っと鳴った。

 緊張の糸が切れたみたいだ。


「オーガじゃなくて、食べられる魔物とかが良かったな。そうすれば、お肉が食べられたのに」


『食糧庫にありましたよ? 取りに戻りますか?』


「え!? サクラさん? こちらの世界でも話せるの?」


『はい! ステータスを受け取ってくれたので、可能となりました。でも、ずっと話しかけていたのですよ?』


「はは……。そうだったんだ。気のせいではなかったんですね」


 苦笑いが出た。幽霊だと思ったけど、あながち間違いでもなかったのか。


『とりあえず、先立つ物を得てから動きましょう。先ほどのオーガから出て来た鎖を鞄に入れて出かけましょうか』


 本当にナビゲートしてくれるんだな。

 逆らう理由もない。鞄に鎖を入れて出かけることにした。





 今は、家の近くの古物商に立ち寄っている。質屋と言った方が良いかもしれない。

 目の前には、強面の男性が、オーガの鎖を調べていた。


「……兄さん。これを何処で手に入れた?」


「え~と。祖母の家に眠っていました。一応、家は僕が貰ったので所有権は、僕にあると思うのですが」


 少し嘘を混ぜる。誤魔化せるかな? でも、異世界品と言っても信じてはくれないだろうし。


「質は悪いが、純金の鎖だ……。しかし、こんな物見た事ないぞ? まるで手作りしたかのようだ……」


 高いのかな……。

 質屋の店員が電卓を叩いた。そして、僕の前に出す。


「……え? 三十万円?」


「今は貴金属が高騰している時期でな。今後も値上がりすると予測されている。

 鋳潰して、インゴットにしても良いが、芸術性も感じられるので、オークションに出せばそれなりの値が付くだろう。

 今日は、金の値段と少し色を付けてこの値段を提示させて貰った」


 汗が止まりません。適正価格なのかな?


『優莉さん。今の金のレートだと、その鎖は、四十万円ほどになります。だたし、そこから加工費を引かないと、使い物になりません。アクセサリー……、ネックレスとして売れば、最高値で五十万円前後といったところです。

 適正価格だと思いますよ?』


 サクラさんを信じるか。

 その後、契約書にサインして、振り込みを待つ。

 スマホが鳴った。ネット銀行の残高を確認して契約終了だ。


「……即金なのですね」


「ああ。今は、貴金属類は奪い合いと言っても良い。それに商売は信用が第一だ。

 こんな良い品は、なかなかお目に掛かれないしな。

 打算となるが、何か見つけたら、また来て欲しいのもある」


 そう言うと、手を出して来た。そして、笑顔だ。

 握手して別れる。

 こうして、僕は大金を手に入れて、古物商を後にした。





『さて、次は食事にしましょうか。そこのバイキングのお店に入りましょう』


 サクラさんの指定した店を見る。


「一時間食べ放題で1,980円か……」


 出来れば一日の食費は、千円以下に抑えたい。

 少し躊躇ってしまった。


『懐も温かいのに、食費を削る意味はありませんよ。さあさあ、お腹いっぱい食べちゃいましょう』


 それもそうか。長い期間ダイエットを目的として、小食を続けて来た。

 でも、たまには良いかもしれない。

 そういえば、引っ越しそばとか食べていなかったな。今更だけど。

 そんなことを考えながら、お店に入った。


「いらっしゃいませ。お一人ですか?」


「はい。一人です」


「こちらのテーブルにどうぞ」


 四人掛けのテーブルに案内される。その後、このお店の説明を受けた。

 周りを見渡すと、僕以外にお客は三人しかいない。時計を見ると、十五時だった。

 この時間帯は空いているんだな。当たり前か、平日だし。

 さっそく、料理を取りに行く。

 テーブルには、各お皿に美味しそうな料理が盛り付けられていた。

 僕は、こんなオシャレなお店は始めてだ。少し嬉しくなった。


『お肉八割、野菜一割、炭水化物一割でお皿に盛り付けてください』


 ローストビーフとソーセージ。焼き上がっているサイコロステーキ。それと、海鮮丼を選んでみた。

 サラダも盛り付ける。

 自分の席に戻り、箸を取った。


「取りすぎたかな?」


 何時も小食の僕では考えられない行動だった。

 大皿一杯の料理を見て、少し恥ずかしくなる。でも、残す方が恥ずかしい。

 少しずつ、口に運ぶ。


「……美味しい」


 箸が止まらなかった。モリモリと食べて行く。

 そして、十分もしないで全部平らげてしまった。


『まだまだ、時間はありますよ。さあ、二周目に行きましょう!』


 サクラさんは、何か企んでいるのかな?

 でも、全然満腹感がない。

 そのまま席を立ち、また、大皿一杯の料理を運んで来た。

 今度は、中華料理を中心に選んでみる。

 そして、全部平らげた。

 美味しい以外に感想はないのだけど……。

 お腹に溜まっている感覚がない。何かがおかしい。


『気にせずに、ドンドン食べてくださいね~』


 美味しかったので、止まらなかった。

 最終的に、四周してかなりの量を食べてしまった。

 時間となったので、会計を済ませる。


「ありがとうございました。またのご来店をお待ちしております」


 嫌な感じはしなかったな。

 十人前くらい食べたと思うのだけど。迷惑じゃないのかな?


『クスクス。優莉さんが食べなければ、廃棄になっていましたね。あの時間帯で追加注文が来たのは久々でした。

 それに、美味しそうに食べる優莉さんは、とっても印象が良かったですよ~。

 それと、バイキング方式で元を取るのは無理があるのです。全然迷惑ではないのですよ』


 そうか、常にお客が来るというわけではないんだな。時間帯もあるし。

 今日は、空いている時間を狙って、サクラさんが誘導してくれたのか。そして、食材が無駄にならずに済んだと。

 こんな間の良い行動は、久々だった。

 色々と満足して家路に着く。

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