第8話 変化1
「……ただいま」
祖母の家の玄関を開けて、家に入った。
──クラ
一瞬地面が揺れた。壁に寄りかかる。壁に寄りかかってから、尻もちをつく。
「何だ……」
強烈な眠気が襲って来た。立っていられない。手足が震える。
体のどこかが痛いとかじゃない。手足に力が入らない感じだ。
『落ち着いて、ゆっくりと横になってください。条件を満たしたので、ステータス補正を開始します』
壁を背もたれにして、その場に座る。安定した体勢取った。
「はあ、はあ。ステータス補正……?」
呼吸が荒くなる。
『大丈夫です。そのまま、眠ってください』
眠気には逆らえなかった。横になり、そのまま意識を手放す。
でも、サクラさんは何かを企んでいたみたいだ……。
◇
「っは!?」
眼が覚めた。スマホの時間を確認する。
丸一日寝てたのか?
いや、何かがおかしい。これ、自分の手か? 指が長い。
腹を触る。割れた腹筋を確認して、手で触った。間違いない、自分の腹筋だ。
足も長い気がする。ズボンのサイズも合っていなかった。
『おはようございます。優莉さん、ご気分はいかがですか?』
「サクラさん。何が起きたのですか?」
『とりあえず、洗面所に行きましょうか。ステータス補正の確認です』
サイズの合わない服を引きずって、洗面台に移動する……。
鏡を見る。見知らぬ人物がそこに写っていた。
「え!?」
顔を触る。自分の顔だった。
これが自分の顔か? 歯を見ると、並びが良くなっていた。ただし、特徴的な八重歯はそのままだ。糸目と低い鼻も特徴を残しながら変わっている?
僕の顔の特徴を残しながら、整えられた感じだ。整形手術?
『魅力50%の効果ですね。それと歯並びを整えて、無駄な脂肪は消費しました。また、筋力と体力に合わせるために、身長が10センチメートルほど伸びています。
もっと細かい補正をしたいのであれば、ステータス画面から入力できますよ?』
魅力50%の効果……。見たくなかった自分の顔が、変わっていた。
元の特徴は、確かに残っている。確かに僕の顔だ。
醜いとは思わないけど、美形とも思えなかった。他人にはどう映るかは分からない。
そして、身長が10センチメートル伸びたのか。
服をどうしようか……。
特に腹回りだ。
◇
まず、近場の古本屋の隣に併設された古着コーナーに行き、サイズの合う上着とズボンを購入した。
身長は、10センチメートル程度で良かったかもしれない。20センチメートル伸びていたら、服装から明らかな不審者になっていた。
一度家に戻り、着替える。
そして、近くの小さな衣料店へ。男性用の売り場へ移動する。まず、シャツとズボンを選んだ。
次に下着を購入。それと、靴が合わなかったので、サンダルを購入した。これで、足の痛みから解放される。それと後で、スニーカーも買わないとな。
これで一応は、大丈夫だと思う。
明日は、駅前まで行って量販店で何着か買おう。デパートもあったはずだ。少しはお金を使おうと思う。
祖母の家に帰って来た。
着替えを済ませて、窓辺に座り込む。
庭の桜を見る。ほとんど散ってしまっていた。
「もう、葉桜なんだな……」
『気になっていますね。確認しに行きますか?』
そう、僕は魅力に極振りしたのだけど、その他の項目にも数字を振っていた。その効果が知りたい。
ここまで魅力的な報酬を提示してくれたんだ。疑う余地もない。
僕は再度、桜の樹を触った。
◇
また、八卦衣を着た。サイズはフリーサイズになるのかな? 長さは丁度良くなっていた。
それと、靴があったので、履いてみた。軍隊で使用しているようなブーツだ。
靴のサイズは自動調整……。もう驚きません。
「弓矢は威力高すぎて怖かったな……。別な物でお勧めはありますか?」
『それでは、左手前の〈銅の輪〉と〈ブロック〉などいかがでしょうか? 投げれば、操作可能です』
言われるがまま、手に取ってみる。
銅の輪は、1/4が握れるようになっている。3/4は刃が付いており触れない。
ブロックの方は、セラミックの塊と言った感じだ。
『〈乾坤圏〉と〈金磚〉という魔導具です。優未さんが作成しました。
神話の物とは、少し異なるかもしれませんが、強いですよ』
これ、神話を元に作成されているのかな? 武器防具のイメージを神話から貰った? そんな感じだ。
まあ考えても答えは出ないだろうな。とりあえず、二つを手に取る。
隣に飾られている剣や槍は、まだ恐怖心がある。今は選ばない。
『今日はもう一つ。〈一対の籠〉も持って行きましょう』
・乾坤圏……円環状の投擲武器であり刃が付いている。投擲後は操作可能となる。
・金磚……レンガの形をした投擲武器。爆発機能が付与されている。投擲後は操作可能となる。
・九竜神火罩……投げると大きさを自在に変えられる籠。閉じ込めると火と雷で攻撃出来る。
僕に鑑定の能力はないので、サクラさんに説明して貰った。スキルで作ってもいいのかもしれないけど、サクラさんがいれば不要だとも思う。
疑う必要もなかったので、サクラさんの提案に従う。右手に乾坤圏、左手に金磚を握り締める。それと籠を腰布にぶら下げて、ログハウスを出た。
符陣の外に出る。
感覚を研ぎ澄ます。解る……。この森には、無数の魔物がいる。
一番近い魔物に向かった。
「迅い……」
鈍足を誇った自分の脚は、もはや何処にも見当たらなかった。筋力に10%振っただけで、ここまで違うのか。
アクロバティックな動きを続けて、目的の魔物までの距離を詰める。
魔物が視認出来た。
昨日のオーガより大きい。武装もしている。
『トロールですね。普通は群れるのですが、偵察で一体だけ突出しているようです』
背後から金磚を投げて、脚に当てる。
崩れ落ちたところを、乾坤圏で切りつける。トロールは、ハンマーを手放した。
乾坤圏で両手を切りつけたので、もう武器は持てない。そして、片足も破壊している。
後は、止めを刺すだけだ。
──ピク
トロールが何かをしている。反射で距離を取った。
トロールの前で光が収束して行く……。そして、それが放たれた。
『魔法です! 火魔法が放たれたので八卦衣で受けるか、避けてください!』
火の玉が出現して、僕に襲い掛かって来た。
だけど、感覚で分かる。八卦衣の袖を振ると、火の玉は消えてしまった。
そのまま、乾坤圏を投げてトロールに止めを刺した。トロールは塵になる。
「昨日は、オーガウォーリアに近づくのも怖かったのにな……」
僕の中で何かが変わった。それだけは分かる。
ドロップアイテムは、腕甲だった。だたし、サイズが合わないので僕には使えない。仮に使うとしたら、太ももくらいの太さだ。
「もう少し、戦闘をしても良いけど、一度帰るか」
そう呟いて、ログハウスに戻ることにした。
欲を出して、失敗はしたくない。
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