第11話 探索2

 オーク族は、二手に分かれた。

 賢明だと思う。僕は一手しか相手に出来ない。しかも、分散して、僕を取り囲むような布陣を取って来た。

 一瞬で理解する。一対多の基本戦術なんだろうな。

 この時点で僕に退路はなく、人族の救援にも行けない。

 乾坤圏と金磚を左右に投げる。二匹の魔物に対して、攻撃が当たった。仕留めることは出来ないけど、脚を吹き飛ばしたので、とりあえず二体は行動不能にしたと思う。

 でも、武器を失った僕に、三体のオークが襲って来る。囲まれないように移動だ。

 陰陽剣を抜いて、移動しながら、攻撃を躱して行く。


『腰の籠を使用してください!』


 反射的に、籠にオークに襲い掛かるように命令を出した。

 二対の籠が、巨大な大きさになり三体のオークを捕獲した。これは強いな。

 眼に見えない速さで動いて、突如巨大になったんだ。初見では回避不可能かもしれない。


『籠に捕らえた魔物は、炎と雷にて焼き尽くすことが出来ます! イメージしてください!』


 言われた通りにイメージする。次の瞬間、籠の中のオークが息絶えたのが分かった。灰も残っていないかもしれない。


「この籠すごいですね。捕縛だけでなく、攻撃力も金磚以上だ」


『〈九竜神火罩〉と言います。優未さんの最高傑作の一つですよ』


 最高傑作か。これに対応出来る魔物はそうそういないと思う。かなりのスピードだ。拘束力があり、火力は灰さえ残らない。

 それよりも、人族だ。短時間だけど、目を離してしまった。状況が気になる。

 僕は、人族を追いかけたオーク族を追った。





 結果として、人族は死体の山を築いていた。何人逃げ延びられたのかも分からない。いや、全滅かもしれないな。

 オークは一体だけ、重傷を負っていたけど、五体全て生きている。

 理由はなかった。僕は、憎悪に駆られて、オークを駆逐した。


「はあ、はあ」


『……優莉さん。大丈夫ですか?』


 今の僕では、どう行動しても助けられなかったのかもしれない。それでも、悔やんでしまう。

 人族の死体を見ただけで、激高してしまった。知力を上げないとな。

 今回も僕は怪我を負わなかった。正直、雑魚だったけど、罠を使うタイプの魔物が出て来た時点で危ないと思う。

 もう少し、慎重にいかないとな。


 ここで音を拾った。多分、馬の足音だ。

 すぐさま距離を取り隠れる。

 遠くから、相手が来るのを観察する。


 現れたのは、騎兵五騎と馬車一台だった。

 彼等は、死体の前で、止まり調べ始めた。多分、あの道を進めば、人族の国に着くのだと思う。

 だけど、今は不要な接触は避けたい。僕は彼等を知らない。何が起きるか分からない。


 ここで、血の匂いがした。辺りを見渡すと、崖の下に、一人隠れていた。だけど、出血が酷いな。

 あの馬車の一団とは、敵対関係にあると考えられる。


 十分程度で、馬車の一団はその場を後にした。調査が終わったみたいだ。

 僕は、崖下に隠れていた人に近づいた。


「出血が酷いな……」


 隠れた人は、気を失っていた。生きてはいる。だけど、数時間で命を落としてしまうと思う。

 僕に躊躇いはなかった。ストアでハイポーションを購入して、傷口にかけた。瞬時に出血が止まる。

 さすが、異世界定番だけのことはある。元の世界に持ち帰りたいくらいだ。

 後は、飲ませれば良いと思う。僕は、隠れていた人の仮面を取った。


「え!?」


 若い女性だった。僕と同じくらいか、もしくは若いくらいだ。

 支えていた手が、震え出した。女性にこんなにも触れたのは初めてだったからだ。

 ゆっくりと寝かせる。僕の手は、ものすごい汗をかいていた。


「サクラさん。この人はもう大丈夫でしょうか?」


『……このまま放置するのであれば、気が付く前に魔物の餌食ですね。見つかった時点で殺されると思います。保護することを勧めます』


「さっきの馬車の一団は何ですか?」


『近くの街の領主と、その護衛ですね。この人は、襲撃しようとして失敗した人です』


「領主? 国内で対立でもしているのですか?」


『それは……、私にも分からない内容です。私の領域テリトリーは森だけなので……。詳細は、その人に聞いた方が良いでしょう』


 選択肢はないな。ハイポーションの残りをマジックバッグに仕舞って、若い女性を担ぎ上げる。

 そのまま、街道から離れた。





 少し平らな場所を見つけたので、そこでキャンプすることにした。

 視認出来る範囲では、魔物は近くにいない。まあ、サクラさんもいるし、不意打ちはないと思う。

 若い女性を寝せて、焚火を起こす。一応ストアから、おにぎりを購入して枕元に置いた。

 今は、日が暮れている。整備された街道を移動するのであれば問題ないけど、山道を移動するのは危険だ。

 女性を抱えていては、武器も使えない。

 魔物は、夜間は活動が鈍るみたいだけど、先ほどのオーク族は活動していた。若い女性を抱えての、無駄な戦闘は避けたい。

 僕は、夜が明けるまで待つことにした。


 ──ピク


 何かが近づいて来る気がする。サクラさんからの無言の指示も来た。

 武器を抜いて構える。

 少し待つと、大きな蛇が現れた。毒液を滴り落としながら、こちらを伺っている。不意打ちを見抜かれて警戒しているみたいだ。


「魔物は、夜間には動かないのではなかったのですか?」


『血の匂いに釣られていますよ。魔物はアークスネークですね。毒に注意してください!』


 毒持ちか。初めてだな。そして危なそうだ……。


 数秒の対峙の後、蛇が動いた。その巨体で体当たりして来たのだ。

 乾坤圏と金磚を投げる。陰陽剣は自動で鞘から抜けて、蛇に襲い掛かった。

 だけど、突進は止まらない。蛇は切りつけられても止まらなかったのだ。

 最終的に、九竜神火罩で閉じ込めて、突進を止めた。蛇は、籠の中で暴れ回ったけど、数分後に出血多量で死んでしまった。灰にすることはしなかった。

 ドロップアイテムは、肉と牙、それと毒液。回収して、マジックバッグに仕舞う。

 この蛇は強かったな。毒があるのでオーガウォーリアよりも強かったと思う。

 まだ何とかなるけど、余裕がなくなって来ている気がする。これ以上強い魔物が出てきたら、帰還石を使う場面も出て来そうだ。その前に、レベル上げが必要だな。


 全ての武器を仕舞って、焚火の場所に戻ると、女性が起きていた。

 驚愕の表情で僕を見ている。

 どうやら、さっきの蛇との戦闘を見ていたようだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る