第11話 探索2
オーク族は、二手に分かれた。
賢明だと思う。僕は一手しか相手に出来ない。しかも、分散して、僕を取り囲むような布陣を取って来た。
一瞬で理解する。一対多の基本戦術なんだろうな。
この時点で僕に退路はなく、人族の救援にも行けない。
乾坤圏と金磚を左右に投げる。二匹の魔物に対して、攻撃が当たった。仕留めることは出来ないけど、脚を吹き飛ばしたので、とりあえず二体は行動不能にしたと思う。
でも、武器を失った僕に、三体のオークが襲って来る。囲まれないように移動だ。
陰陽剣を抜いて、移動しながら、攻撃を躱して行く。
『腰の籠を使用してください!』
反射的に、籠にオークに襲い掛かるように命令を出した。
二対の籠が、巨大な大きさになり三体のオークを捕獲した。これは強いな。
眼に見えない速さで動いて、突如巨大になったんだ。初見では回避不可能かもしれない。
『籠に捕らえた魔物は、炎と雷にて焼き尽くすことが出来ます! イメージしてください!』
言われた通りにイメージする。次の瞬間、籠の中のオークが息絶えたのが分かった。灰も残っていないかもしれない。
「この籠すごいですね。捕縛だけでなく、攻撃力も金磚以上だ」
『〈九竜神火罩〉と言います。優未さんの最高傑作の一つですよ』
最高傑作か。これに対応出来る魔物はそうそういないと思う。かなりのスピードだ。拘束力があり、火力は灰さえ残らない。
それよりも、人族だ。短時間だけど、目を離してしまった。状況が気になる。
僕は、人族を追いかけたオーク族を追った。
◇
結果として、人族は死体の山を築いていた。何人逃げ延びられたのかも分からない。いや、全滅かもしれないな。
オークは一体だけ、重傷を負っていたけど、五体全て生きている。
理由はなかった。僕は、憎悪に駆られて、オークを駆逐した。
「はあ、はあ」
『……優莉さん。大丈夫ですか?』
今の僕では、どう行動しても助けられなかったのかもしれない。それでも、悔やんでしまう。
人族の死体を見ただけで、激高してしまった。知力を上げないとな。
今回も僕は怪我を負わなかった。正直、雑魚だったけど、罠を使うタイプの魔物が出て来た時点で危ないと思う。
もう少し、慎重にいかないとな。
ここで音を拾った。多分、馬の足音だ。
すぐさま距離を取り隠れる。
遠くから、相手が来るのを観察する。
現れたのは、騎兵五騎と馬車一台だった。
彼等は、死体の前で、止まり調べ始めた。多分、あの道を進めば、人族の国に着くのだと思う。
だけど、今は不要な接触は避けたい。僕は彼等を知らない。何が起きるか分からない。
ここで、血の匂いがした。辺りを見渡すと、崖の下に、一人隠れていた。だけど、出血が酷いな。
あの馬車の一団とは、敵対関係にあると考えられる。
十分程度で、馬車の一団はその場を後にした。調査が終わったみたいだ。
僕は、崖下に隠れていた人に近づいた。
「出血が酷いな……」
隠れた人は、気を失っていた。生きてはいる。だけど、数時間で命を落としてしまうと思う。
僕に躊躇いはなかった。ストアでハイポーションを購入して、傷口にかけた。瞬時に出血が止まる。
さすが、異世界定番だけのことはある。元の世界に持ち帰りたいくらいだ。
後は、飲ませれば良いと思う。僕は、隠れていた人の仮面を取った。
「え!?」
若い女性だった。僕と同じくらいか、もしくは若いくらいだ。
支えていた手が、震え出した。女性にこんなにも触れたのは初めてだったからだ。
ゆっくりと寝かせる。僕の手は、ものすごい汗をかいていた。
「サクラさん。この人はもう大丈夫でしょうか?」
『……このまま放置するのであれば、気が付く前に魔物の餌食ですね。見つかった時点で殺されると思います。保護することを勧めます』
「さっきの馬車の一団は何ですか?」
『近くの街の領主と、その護衛ですね。この人は、襲撃しようとして失敗した人です』
「領主? 国内で対立でもしているのですか?」
『それは……、私にも分からない内容です。私の
選択肢はないな。ハイポーションの残りをマジックバッグに仕舞って、若い女性を担ぎ上げる。
そのまま、街道から離れた。
◇
少し平らな場所を見つけたので、そこでキャンプすることにした。
視認出来る範囲では、魔物は近くにいない。まあ、サクラさんもいるし、不意打ちはないと思う。
若い女性を寝せて、焚火を起こす。一応ストアから、おにぎりを購入して枕元に置いた。
今は、日が暮れている。整備された街道を移動するのであれば問題ないけど、山道を移動するのは危険だ。
女性を抱えていては、武器も使えない。
魔物は、夜間は活動が鈍るみたいだけど、先ほどのオーク族は活動していた。若い女性を抱えての、無駄な戦闘は避けたい。
僕は、夜が明けるまで待つことにした。
──ピク
何かが近づいて来る気がする。サクラさんからの無言の指示も来た。
武器を抜いて構える。
少し待つと、大きな蛇が現れた。毒液を滴り落としながら、こちらを伺っている。不意打ちを見抜かれて警戒しているみたいだ。
「魔物は、夜間には動かないのではなかったのですか?」
『血の匂いに釣られていますよ。魔物はアークスネークですね。毒に注意してください!』
毒持ちか。初めてだな。そして危なそうだ……。
数秒の対峙の後、蛇が動いた。その巨体で体当たりして来たのだ。
乾坤圏と金磚を投げる。陰陽剣は自動で鞘から抜けて、蛇に襲い掛かった。
だけど、突進は止まらない。蛇は切りつけられても止まらなかったのだ。
最終的に、九竜神火罩で閉じ込めて、突進を止めた。蛇は、籠の中で暴れ回ったけど、数分後に出血多量で死んでしまった。灰にすることはしなかった。
ドロップアイテムは、肉と牙、それと毒液。回収して、マジックバッグに仕舞う。
この蛇は強かったな。毒があるのでオーガウォーリアよりも強かったと思う。
まだ何とかなるけど、余裕がなくなって来ている気がする。これ以上強い魔物が出てきたら、帰還石を使う場面も出て来そうだ。その前に、レベル上げが必要だな。
全ての武器を仕舞って、焚火の場所に戻ると、女性が起きていた。
驚愕の表情で僕を見ている。
どうやら、さっきの蛇との戦闘を見ていたようだ。
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