第4話 祖母の手紙

 ドアを開けて、ログハウスに入った。

 部屋の中は、埃一つなかった。放置されていたとは思えない綺麗さだ。


『テーブルに手紙があります。取って読んでみてください』


 言われるがまま、手紙を拾い上げた。


『家の所有者を〈二階堂優莉〉に認定しました。

 スキルを譲渡します。

  〈スキル:ステータス〉を付与。〈称号:異世界人〉を獲得。

  〈スキル:言語理解〉を付与。〈称号:解読師〉を獲得。

  〈スキル:魔導具所持〉を付与。〈称号:道士〉を獲得。

  〈スキル:ストア〉を付与。〈称号:異界の顧客〉を獲得』


「え? なに今の?」


『優未さんからの贈り物です。まず始めに手紙を読んでください』


 祖母は、何をしていたんだろうか?

 とりあえず、手紙を開く。そこには、見たこともない文字が書かれていた。

 だけど感覚で分かる。文字に込められた想いが伝わって来た。

 そして、読めるような感覚が襲って来た。文字が徐々に理解出来る感覚。僕の体になにが起きているのだろう……。





 以下、手紙の内容


 私も死期を悟り、この手紙を残すことにしました。

 この手紙を読んでいる人は、多分ここが何処かも理解していないでしょう。

 正直に言うと、かなり危険な世界です。

 童話や小説に出て来る怪物が跋扈している世界です。くれぐれも準備せずに家の敷地から出ようとは考えないでください。

 樹木の精霊の声に従い、身の安全を確保してから行動してください。

 決して悪いようにはしないとだけ約束します。


 私は、『先生』に呼ばれてこの世界に来ました。

 とりあえず、元の世界とは往復出来るので、怪しまれずに生活を送ることが出来ました。

 先生は、【転移】と呼んでいたスキルです。【異世界転移】なのだそうです。

 何故私が呼ばれたのかを聞いたところ、討伐して欲しい魔物がいると言われました。

 この世界の人々……私は現地人と呼んでいましたが、彼等では生物としての差があり、なかなか勝てなかったと聞きました。

 だけど、私も戦闘など出来ない人間でした。

 でも、困っている人を救いたいと思う……。気が付くと、先生の話を聞いていました。

 そして、魔導具を作りました。

 神話に出るような魔法の効果を持った武器防具です。

 効果は絶大でした。次々に魔物と呼ばれる怪物を仕留めることが出来たのです。最終的には、近接武器も作りました。

 しかし、私以外には使えない……。元の世界から協力者を求めたのですが、私以外はこの世界に来られない。

 先生と二人で討伐を繰り返しました。

 そして、効率は悪かったかもしれませんが、一国を救うことは出来ました。


 ここで、先生は病に倒れて亡くなってしまいました。元々無理をしていたみたいです。

 悲しみに暮れていると、また魔物が襲って来ました。一人になりましたが、一度始めたことです。討伐は続けました。

 そして、知りました。〈根源なる者〉が、魔物を生み出しているのだと。

 言ってみれば、種族間による領土問題だったのかもしれません。

 ただ単に、互いに生理的に受け付けない相手だっただけなのかもしれない。

 どちかが、全滅するまでの戦争……。そんなことに加担してしまっていました。


 でも、私は強かった。

 魔物を退け続けて、近くの国だけは守り続けた。そして、〈根源なる者〉の撃退に成功しました。

 確実に止めを刺せたかは分かりません。でも、魔物は発生しなくなりました。

 国を挙げて、私を称賛してくれましたが、全てを辞退して私は先生の家で過ごしています。


 もう何年も魔物は見ていません。

 でも、不安がぬぐい切れませんでした。


 先生の想いと私の想いを託せる人を、樹木の精霊に探して貰うことにしました。

 私はこの世界の解決方法を見つけることが出来ませんでした。

 お願いします。共存共栄とは言いません。

 ですが、あの国を亡ぼす相手がいるのであれば、救って欲しいのです。

 無理なお願いとは理解していますが、よろしくお願い致します。





「祖母は何をしていたんだろう? 討伐? 戦闘? ……戦争?」


『この世界では、複数の知的生命体が存在します。相容れない相手と戦い続けています。そこで、ご協力をお願いしたいのです』


「魔物の討伐ですか? 僕は無能な人間ですよ? 知力も体力もないし……」


『その辺は、私がナビゲートします。成長補正を致しますのでご安心ください』


 良く分からないな。


「無理そうなので、キャンセルさせて貰っても良いですか?」


『……手紙の想いを受け取ってもその回答なのであれば、止めれません。ですが、方法だけでも聞いてみませんか?』


 心がズキンと痛んだ。

 手紙の想いか……。

 たしかに、『他人を救いたい』という想いは伝わって来た。でも、僕では邪魔にしかならない。

 もう、嫌と言うほど味わったことだ。


『何をしても上手くいかない。そんな人は、確かに存在します。

 優莉さんは、競争する社会で生まれたのです。兄や姉のように優秀な者がいれば、その反対の評価を受ける人もいます。

 でも、優未さんとその先生はそれを覆すシステムを発明しました』


 顔を上げる。何だろう……。とても興味を引かれた。システム?

 心臓が高鳴っている。


『うふふ。興味を持たれたみたいですね。今日だけでも手伝って頂けませんか?

 それで駄目なら、異世界転移の扉を閉じます。お土産を一つ選んで帰って貰っても構いません』


「え~と。樹木の精霊さん。僕は、何をすれば良いのですか?」


『私のことは、好きに呼んでください。この際、名前を付けて貰っても構いません』


「……桜の樹の精霊なので、サクラさんで良いですか?」


『はい! これからは、サクラと呼んでください。それでは、宝物庫に移動しましょう』

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