第43話 混乱2

 あっという間に一週間が終わってしまった。

 仕事のデータ収集は、単純作業だったので、特に問題はなかった。

 明日からまた休みだ。


 異世界でしなければならないことを考える。

 まず、アンネリーゼさんの確認からだな。これは、御祈祷酒をお土産にすれば問題ないはずだ。

 それと、ダルクの街だ。アンネリーゼさんに会いに行くのに、モニカさんかシノンさんを連れて行かなければならない。

 一人しか運べないけど、決まっているのかな?

 決まっていない場合は、どうしようかな……。最悪、九竜神火罩に入って貰い、二人を連れて行く……、かな。

 麗華さんの晩ご飯を頂き、明日に備えて早めに就寝する。

 トラブルが起きないことを祈るばかりだ。





 朝日と共に起き出して、ログハウスへ移動する。

 装備を整えて出発だ。

 まず、ダルクの街へ行くことにした。

 今は大森林の上空を飛んでいるのだけど、魔物が目に付いた。


「魔物が増えている? レオンさんとは関係なさそうだけど……。移動して来た?」


 多分、レオンさん以外の理由があるのだと思う。

 討伐するか、もしくは、レオンさんのところに連れて行くか……。

 少し考えたいので、放置とした。

 考えていると、ダルクの街が見えて来た。

 でも、城門を閉ざしている。数日前とは様子が異なるな。





 城門の前で降り立つと、太鼓が鳴った。

 門が開いて、兵士達が出て来る。そして、僕を取り囲んだ。

 何だろう?

 今は、僕の周りは槍の穂先で埋め尽くされている。

 自分自身の変化は、自覚している。とりあえず、落ち着こう。むやみに反撃してはいけない。


「……責任者の方はいますか?」


 僕の言葉を聞いて一人の騎兵が前に出て来た。


「英雄ユーミの孫だな。一緒に来て貰おうか」


 そういえば、アンネリーゼさんはそんなことを言っていたな。

 長期間拘束されるのを恐れて無視したけど。

 でも、そうなると……。


「モニカさんを人質とかにしていますか?」


 騎兵が、鼻で笑う。

 そして、城壁の上を見た。

 僕も視線を向けると、そこには縛られている、モニカさんとシノンさんがいた。

 瞬時に、金霞冠を発動して、気配遮断を発動する。

 この時点で、もう誰も僕を認識出来ない。

 いきなり消えたので、兵士達が慌て始めた。そのまま、城壁の上まで飛んで、二人の様子を確認する。

 顔を殴られた跡がある。傷が付いていた。


 僕は城壁の上の兵士を蹴散らした。ここで激情に駆られて大怪我を負わせてしまうと、二人の立場がより悪くなる。

 武器を破壊して、二人から遠ざけるだけに止めた。

 九竜神火罩を発動させて、二人を籠の中に保護する。そして、その場を立ち去った。

 二人を視認してから、十秒もかからない作業だった。


 兵士達は、三人が消えたので慌てている。怒号も飛んでいる。

 だけど、僕は無視して大森林へと向かった。





 大森林の入り口では、兵士達が陣を築いていた。行きは見なかったので、行き違いだったのかもしれない。

 僕の来る方向は、読まれているのか。だけど、姿を消す魔導具までは知られていなかったみたいだ。

 まあ、当たり前か。


 大森林の少し奥、人族が入って来られない場所で二人を開放した。縛られていたので開放すると、二人共に力が抜けたように座り込んだ。

 ストアでポーションを買い、 二人に飲ませると、顔の傷が治って行く。これは、便利だな。元の世界でも使いたい。

 二人共、少しは、落ち着いたかな?

 まず、僕から質問することから始めた。


「何があったのですか?」


「昨日、王都から兵士が来ました。

 神樹の声が聞こえなくなり、井戸が枯れたとのことです。

 どうやら、アンネリーゼ様を王都から追い出したことが原因と推測されて、連れ戻しに来たみたいなんです。

 ですが、アンネリーゼ様は、ユーリさんが連れて行ってしまったので……。行方不明と言ったのですが。

 ユーリさんと親しくしていた私達が投獄されて、ユーリさんが来るのを待っていたみたいです」


 馬鹿なのかな……。

 そもそも、アンネリーゼさんを追い出したのは王族のはずだ。そして移住先を認めなかったのはダルクの街の住民だ。二人を捕えても意味はない。

 しかし、連れ戻しか。もう現時点で無理がある。

 アンネリーゼさんを連れ戻せる理由がない。

 あの人達は、強制連行しか頭になかったのかもしれないな。

 とても嫌な気分になった。

 それと、ここで気になった。


『サクラさん。なんで教えてくれなかったのですか?』


『……拷問とかされそうであれば、教えようと思ったのですが、投獄まででしたので知らせないことにしました。

 今の優莉さんは、力を得ても制御出来ていません。

 最悪、ダルクの街を壊滅させかねないと判断したからです』


 ……反論は出来ないな。プッツン行ってたら、街を瓦礫の山にしていただろう。


『二人をレオンさんの元に連れて行きたいのですが、どう思いますか?』


『問題ないでしょう。シノンさんの家族に少し迷惑が掛かりますが、すぐに開放されると思います。

 ただし、一ヵ月くらいは、ダルクの街に近づかないでください。最近、手助けばかりしていたから目立っていましたね。私のミスです。ごめんなさい……』


 僕は、魅力を上げても間が悪いと言うことかな。いや、祖母の名前を出した事が、そもそも問題だったかもしれない。

 こうなると、アンネリーゼさんを連れて行く時に、二人も着いて来させるべきだったか。

 反省しないとな。

 再度、二人に向き直す。


「これから、アンネリーゼさんのところに向かいます。

 ただし、かなり変わったところです。驚くとは思うのですが、混乱しないように自覚を持ってください」


「「分かりました」」


 二人を、九竜神火罩に入れて、再度飛ぶ。一応、半開きにして風景を楽しめるようにした。

 目指すは、魔物の街……。レオンさんの元だ。

 今度、街の名前を聞いておこう。

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