第15話 再会
祖母の家に帰って来た。
家の門の前には、サクラさんが言ったように誰かがいる。だけど僕のことは見えていないようだ。これもサクラさんの効果かな。
後ろを振り返ったので、ここで近づき、声をかけた。
「あの……。何か御用でしょうか?」
「っひゃ!? え!? あ、いらっしゃったのですか?」
「……別な入口から入って来ました」
嘘は言っていない。っと言うか、咄嗟に出た回答としては、良かったと自画自賛する。
これも、ステータスの影響かもしれないな。
訪ねて来た人を見る。若い女性だ。
あの時の記憶を思い出す。顔は見なかったけど、明るいベージュ色の髪は覚えていた。
受け止めた時に肩を触ったので、その骨格も覚えている。体系も記憶と合っている。
あの時のあの人で間違いないと思う。
でも、右腕を吊っている。折れているのかな?
「あ、あの……」
「あ、すいません。右腕大丈夫ですか? 階段で落ちた時に痛めたのでしょうか?」
女性の表情が、パッと明るくなる。
そして、マジマジと僕を見て来た。それと、顔が少し赤くなったな。
「やっぱり、あの時助けてくださった方なのですね。お礼も言えずに去ってしまったので、探していたんです。
救急車を呼んでくれた時の電話番号で探そうとしたのですけど、教えてくれなくて……。
目撃者を探して、似顔絵作って町中を探したら、コンビニの店員が見たことあると名乗り出てくれて、家を教えてくれました。
でも似顔絵も当てになりませんね。全然似てないじゃないですか!」
え? 何か怖いこと言っていない?
似顔絵を見る。確かに僕だ。良く特徴を捉えている。糸目と低い鼻など、写真みたいだ。
特に歯並びの悪い点は、良く書けていると思う。
「それだけで、良く見つけられましたね。
今日、手紙を見つけて、親御さんに会いに行ったのですけど、何か不備がありましたか?」
女性は、ムッと唇を結んだ。
「この数日、何度か来たのですが、何時も留守でしたね。何処かに行かれていたのですか?
それと、お礼くらいは言わせてください!」
本当に何しに来たんだろう? お礼を言いに来て、怒っている。
『クスクス。優莉さん。家に上げてお茶でも出してあげた方が良いですよ』
無理無理。会話が続くわけがない。
穏便に早く帰って欲しい。
「右腕は大丈夫ですか? 折れていそうですけど……」
「あ、折れてはいないんです。ピアノのことがあるので、一週間ほど固定することになっただけなんです」
ピアノか……。うん、似合っている。
お嬢様と言った感じだ。
その後会話を続けるけど、帰りそうな気配はなかった。
押し負けた感じで、家に上げることにした。
◇
祖母の家には、車二台分の駐車スペースがある。そこに車を停めて貰う。
いかにも執事と言った感じの人が出て来た。メイド服もそうだけど、現実にこんな服装をする日本人はいるんだな。
感心してしまう。
そのまま三人で家に入った。
──コポコポ
緑茶を入れた。コンビニで茶葉を買っておいて良かった。
でも、こういう場合は、ペットボトルの方が、良いんだろうか?
今日は、水道水を沸騰させたお茶だ。せめてミネラルウォーターで淹れたかった。
来客時のことも、今後考えておこう。
「粗茶ですが、どうぞ」
「「ありがとうございます」」
「お茶受けですが、貰い物で申し訳ありません」
「そんなお気遣いなく……」
席に着く。
……飲んでくれた。お茶請けは、社長さんから貰った物をそのまま出したので少し後ろめたい。
さて何を話そうか。共通の話題などない。あの事故の時の話などしたくないし。
「えっと、二階堂優莉さんで良いのですよね。それで、父の会社への就職は考えて頂けましたか?」
いきなり振るな……。
「……西園寺麗華さんでしたよね。まだ、検討中です。忙しくてパンフレットも読めていません」
名前は、手紙に書かれていたので、知っています。
「ぜひ来てください! 父のお眼鏡にかなう人など滅多にいないのですよ。
優莉さんは、この地に来て間もないかもしれませんが、地元密着型の優良企業なんです!」
大企業なのは、知っています。
でも、自分の親の会社を『優良企業』と言うのはどうかと思う。
まあ、良いか。突っ込みは入れない。
「そういえば、今日は車なのですね。事故の時は、一人だったのですか?」
「……私だって、車以外で通学することくらいあるんです!」
プイっと横を向いた。お嬢様扱いはされたくないみたいだ。
どっからどう見ても、箱入り娘なんだけど。『令嬢』という言葉が似合いそうな人だ。
しかもそれで絡まれていては、元も子もない。
ここで、執事さんが口を開いた。
「お嬢様は、いきなり電車で通学したいと言い出しまして。それで三日目にあのようなことに巻き込まれてしまいました」
大人しく、車で通学すれば良いのに。いや、それこそ浮世離れしてしまうかもしれないな。
共学の学校であれば、異性の誘いもあるだろうし。
そう言えば、西園寺麗華さんは、高校生なんだろうか? いや大学生?
……感じる。ここで間違った質問すると、怒られる。
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