第34話 王女様1

「新領主は、昨日のうちにダルクに着いているはずだよな……」


 あえて一日ずらした。

 僕は、結構目立っているし、新領主が何か言って来ることを警戒したからだ。

 モニカさんの人物評価を聞いてから、接触するかどうかを判断したかった。

 風火輪で飛びながら考える。


「ダルクの街だけで良いのかな……」


 祖母は国を救ったと言っていた。そして、それは神樹を守ることであり、神樹は複数ある。

 燃やされた神樹もあると聞いた。


「……異世界の方は、進展がないよな。このままで良いんだろうか?」


『優未さんも悩んでいましたね。防衛だけで良いのかと。

 それで、撃って出たのですが、結果として、停滞を招いてしまいました。

 複数の知的生命体がいる世界と言うのは、事情が複雑なのです。絶滅させようとすると、神からの干渉もありますしね』


 ……神の干渉ね。絶滅するほどの戦争が起きないのであれば、放っておいても良いんじゃないかな?

 装備はチートだし、ステータスは便利すぎる。強敵は今のところいない。

 多分、〈根源なる者〉に近づかなければ、現状で問題ない筈だ。

 今のところ、日に数時間、それと土曜日と日曜日に半日程度、大森林を見回りするだけで済んでいる。

 ダルクの街の混乱は、過干渉とも取れるし。

 モニカさんを助けたのは偶然だけど、世界的に見れば、些細なことだったとも思える。

 そんなことを考えている時だった。


『そのモニカさんがピンチですよ~。また、大森林に入ろうとしていますよ~』


 眼下を見る。

 遠くに馬車と騎兵が見える。ダルクから逃げるように大森林向けて走っているようだ。

 あれかな?

 とりあえず、高度を落として近づいてみるか。

 いやその前に、追手と思える兵士達を蹴散らすか……。


 まず、金磚を投げて、馬車の後方の地面を爆発させる。

 追手の馬が暴れ出した。

 馬車が、大森林に入ったのを確認して、追手の前に立つ。


「……あなたか。英雄ユーミの孫のユーリ殿でしたよね? ここでも、モニカ嬢の手助けですか?」


「とりあえず引いて貰えませんか? 状況を聞いて介入するかどうか判断します」


 兵士達が、小声で何かを話している。


「良いだろう。ただし、新領主は認められない。それがダルクの街の意思だ。内容は、モニカ嬢に聞いてくれ」


 それだけ言って、帰って行った。

 さて、追いかけるか。





「何があったのですか?」


 今は、大森林の手前で、モニカさん一行と座って話している。


「助けて頂いてありがとうございます。もう何度目かも分かりませんね」


 モニカさんが、頭を下げて来た。

 僕から言わせて貰えれば、モニカさんはトラブル体質と言える。何時も何かしらのトラブルに巻き込まれている気がする。

 お人良しなのかな?


「やはり、モニカを助けたのは、あなただったのですね」


 別な娘だ。でも見覚えがあるな。え~と、元領主の娘だったかな?


「あなたとは、一度会いましたね。王都に送ったと言うのに、戻って来たのですか……」


 少し怒らせてしまったようだ。それをモニカさんがなだめる。

 ここで自覚する。僕は少し怒っているのかもしれない。


「彼女が、前に話したシノンさんです。住民と領主の間を取り持って貰っていました」


「それで何で追われていたのですか?

 僕には、領民に反発されて追い出されたように見えるのですが」


 シノンさんが俯いて、プルプルと震えている。図星を突かれて言い返せないんだろうな。

 でも、危ない行動を取ったのは、彼女だ。

 それも、モニカさんまで巻き込んで……。


「あの……。あなたが、英雄ユーミの孫のユーリさんですか?」


 声の方を見る。

 白い肌に白い髪……。青い瞳が印象的だ。アルビノかな? 初めて見た。


「優莉です。え~と、始めましてですよね?」


「城塞都市ダルクの新領主のアンネリーゼと言います。助けて頂いてありがとうございました」


 頭を下げて来た。確か王女様じゃなかったのか?

 僕の中の貴族と言うか王族のイメージとは、違う人だった。


「あなたが、新領主ですか。僕は、祖母の想いを受け取って生活している……、英雄優未の孫です。優莉と言います。多少力を受け継いでおり、色々と出来ることがあります」


 とりあえず、壱岐優未の孫と言うことは隠しても意味がないと判断して教えることにした。

 まあ、頭のおかしい人と思われても仕方がないけど、僕の持つ不思議な力は理解して貰えると思う。


「シノンさんを助けて頂いた話は聞いています。それに、先ほど追手を追い返してくれたのも見ました。

 重症のモニカさんを救った話も聞いています。疑う余地もありません」


 話が早くて助かるな。


「早速ですが、追われていた理由を教えてください。理由があって、長くこちらの世界にはいられないのです。何を言っているのか分からないかもしれませんが、時間がない事だけは理解してください」


「……王命です。あなたを捉えて、王都に連行するように命令が出ました」


 ……はい?





 2022年ですね。

 新年あけましておめでとうございます。

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