第35話 王女様2

「僕を王都に連行ですか?」


「あっ! いえ……。国王様より、英雄の孫を招待するように仰せつかっております」


 言い方を変えて来たけど、話が繋がらない気がする。


「それで、何で追われていたのですか?」


「……白い髪は、不吉と言われていて、避けられています。一応は、王位継承権は持っていたのですが、剥奪されました。いえ、辞退しました。

 それで、地方領主に任命されたのですが……、私を見た民衆が石を投げ付けて来ました」


 感じる……。この人は、昔の僕と同じかもしれない。

 人目を避けて生きて来たのかもしれないな。

 でも、他人とコミュニケーションは取れている。信頼出来る人がそばにいたんだと思う。

 いや、王族なんだ。引きこもりは出来なかったのかもしれない。


『サクラさん。白い髪が不吉と言う理由を教えてください』


『人族が、他種族に襲われた時に白い髪の一軍に蹴散らされたのが原因ですね。ちなみに白虎です。

 その時に、神樹を切り倒されています。

 もう、百年以上前の話で誰も知りませんが、恐怖の対象として語り継がれています。

 それに、アルビノが発現する確率は、とても低いので、迫害し易いというのもありますね。

 アンネリーゼさんは、それこそ暗殺に怯えて生きて来ました。まあ、助けてくれる人も多かったとだけ言っておきます』


 希少な存在を迫害か……。


『ちなみに、黒髪は何かありますか?』


『とりあえずは、ないですね。優未さんが黒髪だったので逆に優遇されるかもしれません』


 まあ、何処の世界でもこの辺は同じかな?

 過去に世界に貢献したかどうかで待遇が決まる。

 さて、どうしようか……。


『僕は王都に行った方が、良いですか?』


『今行くと、継嗣問題に巻き込まれて、長期間拘束されることになりますね。

 元の世界に戻れなくなるので、お勧めはしません』


 即決! 行けないな。


「……長期間拘束されるのは、僕には受け入れられません。王都へは行けそうにないですね」


「そうですか……。それではお願いがございます。

 〈万病に効く薬〉をお持ちでしたら頂けないでしょうか?

 もしくは、長寿薬などございましたらお願いしたいです」


『サクラさん。エリクサーで合っていますか?』


『合っていますが、説明しておいた方が良いですね。

 エリクサーで〈肉体改造〉は出来ません。それでも良いのであれば渡してください』


 目的を聞いた方が良いのかもしれないけど、まあ渡してしまうか。

 ストアより、エリクサーを購入する。

 エリクサーは、結構高い。ゴールドの残りが本当に心もとなくなって来た。

 それと空中から、小瓶が現れたので皆驚いている。モニカさんだけが笑っているけど。


「エリクサーです。ただし、肉体改造は出来ません。体を最適化するとだけ考えてください」


「……譲って頂けるのですね。ありがとうございます。

 代金は、どうしましょうか? お金ではありませんよね?」


 そう言われるとそうか。僕は、ダルクに住んでいる訳じゃない。

 お金は不要だ。

 というか彼女達から貰える物で、僕に有益になる物などあるのかな?

 祖母の遺産は突出しており、今の僕はチートと言っても良い。


『モニカさんを……』


 却下。サクラさんは無視する。


「ダルクの街を安定させて欲しいのが希望です。僕が後見人にでもなりましょうか?」


「……モニカさんとシノンさんの協力を得ても、私の白い髪を見ただけで、追い出されたのです。

 このまま、王都に帰ろうと思っています。

 エリクサーを献上すれば、何処か神樹のない小さな街で暮らせると思いますので」


 ダメだな。それは、僕が望まない。

 少し前まで自分が行っていたことだけど、他人と関わらないようになると精神が病んで行く。

 このままでは、再起不能になってしまうだろう。

 この人は、お飾りでもダルクの領主になった方が良いと思う。行政は大臣達が行えば良い。

 モニカさんとシノンさんもいるのだし。


「ちなみにですけど、神樹の声は聞けますか?」


 アンネリーゼさんが顔を上げる。


「聞けます! 神樹の声は、誰よりも良く聞けます!」


 アドバンテージはあるのか。


「何か有益な情報は、持っていませんか?」


「今は、水の種族が力を蓄えていて、版図を広げているそうです。

 もうすぐ、神樹の領域まで来そうと言うことだけは分かっています」


「その辺が分からないですね。絶滅に追い込めないのに、領土争いだけは続けている?」


「各種族が、守護する〈根源なる物〉からは、さまざまな恩恵が受けられます。

 他種族の〈根源〉を破壊すると、自国が豊かになります。

 この話は、他言無用でお願いします。人族では、王族しか知らない話なので」


 根源なる物? 祖母は、根源なる〈者〉と言った。各種族で守っているモノが異なるのかな?

 それと『恩恵』ね……。ぼやかして伝えて来ている。だけど多分、良いモノなんだろうな。

 書物があれば、〈称号:解読師〉の出番だけど、極秘扱いみたいだから、見せて貰えないと思う。

 詳細は、今は諦める。後回しだ。


 さて、どうしようか。人数は護衛を含めて十人か。

 とりあえず、全員をログハウスには連れ帰りたくはないかな。

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