第21話 来訪者1
一週間ほど、魔物を狩り続けた。
魔物は、討伐されると、体が崩れ始めて灰のようになってしまう。
ドロップアイテムは、灰にならない部分だ。
爪だったり牙だったりする。斧や剣などの武器も残る場合がある。
後は、装飾品かな? 貴金属や宝石などがたまに出るので、これらはマジックバッグに入れている。
とにかく、ドロップアイテムをストアに投入してゴールドに換金する。
ドロップ率アップの方法はあるのかな? いや、ゲームの世界ではないんだ。便利すぎるアイテムがあるのも問題になると思う。でも欲しかったりする。
夕方に、城塞都市ダルクに戻り、万農薬をモニカさんに渡す。対価としてお弁当を受け取った。
これを繰り返した。
必要十分な量が溜まったので、この作業は本日で終わり。
成長の速い植物で検証されて、その効果も確認してくれた。
なんでも、発芽時点で根腐れを起こしていたらしい。
疑われたらどうしようとか考えていたけど、ダルクの人達も背に腹は代えられなかったみたいだ。
信じてくれて、結果も出せたので良かったと思う。
モニカさんは、ダルクで行政の役人に選ばれたとのこと。
これで、襲撃未遂事件での訴追はないと思う。
次期領主は分からないけど、まあ、派手に城壁を壊して脅したのだし、それなりの人が来るはずだ。
多分、きっと、恐らく……。
また圧政を敷く人であった場合は……、どうしようかな。
脅迫まがいのことは、したくないのが本音だ。
◇
この一週間は、ログハウスで寝食をとっていた。祖母の家には帰っていない。
食事は、モニカさんの手料理を食べていた。モニカさんのお弁当は、凄い手の込んだ料理でした……。
そんなことを考えていると、ログハウスに着いた。
「ふう~」
一息付いた。
〈風火輪〉は、とても便利だ。
特にこの世界では、飛べる人はいない。航空技術も発達していない。
飛べる魔物はいるそうなのだけど、今のところ見かけない。
僕だけのアドバンテージと言える。
ただし、魔法があった。火・風・水・土の奇跡の発現だ。時間が出来たら覚えても良いかもしれない。
その前に、魔力の解放からかな?
さて、お弁当を食べて寝よう。
『ちょっと待ってください!』
サクラさんからの突然のストップだった。 待つって、何を待つの?
「何ですか?」
『お弁当は食べずに、元の世界に戻ってください。待っている人がいますよ』
なんだろう? 僕を待つ人?
とりあえず体を拭いて、着替えた。そして、桜の樹を触る。
◇
『誰もいないじゃないですか?』
『この三日間、通ってくれている人がいますよ?
もうしばらくすれば来るので、お茶でも飲んで待っていてください』
誰だろう? 思い当たる人がいない……。
とりあえず、戸締りをして、しばらく待つと、玄関のノックが鳴った。
「はい、今行きます!」
ドアを開けると、そこには笑顔で怒っている社長令嬢がいた。
「西園寺麗華さん……」
「こんばんは、優莉さん。でも人をフルネームで呼ぶのは、失礼ですよ」
「……こんばんは。西園寺さん」
『下の名前で呼んであげた方が良いですよ~。とっても怒っているので』
僕にそんな度胸はありませんって。
とりあえず、家に上がって貰った。
「それでどうしたのですか? もう日も暮れたと言うのに」
笑顔の西園寺さんの表情に、青筋が追加される。
「優莉さん。この数日何処に行っていらしたのかしら? 時間を空けて訪ねて来ても何時も不在でしたよね?」
う……。しまった。
一人暮らしだからと油断していた。
「……住み込みのバイトというか、ちょっと遠くまでバイトに行っていました」
苦しい言い訳をする。でも、嘘はついていない。
──ピキ
西園寺さんから、怖いオーラが出ています。
汗が止まりません。
「父の会社への就職は、考えて頂けましたか?」
「え……と。その、忙しくて……」
「何が不満なのですか? 給料ですか? 待遇ですか? 明確に言ってください!」
どう答えようか。異世界生活が楽しくて、こちらの世界で過ごす時間が惜しいのが本音だ。
お金もドロップアイテムで何とかなりそうだし……。
『就職決めちゃった方が良いですよ~。麗華さんは、優莉さんが受けるまで、今日は引き下がりませんよ~』
ぐ……。サクラさんは楽しんでいるな。少し考える。
「えっと、僕はコミュ障というか対人恐怖症を患っているので、フルタイムでは働けそうにありません。
四時間程度のバイトであれば、可能なのですが……」
「分かりました。週五日の四時間ですね。時給三千円で契約します!」
ぶは! 時給高すぎじゃない!?
日当一万二千円? 一ヵ月で二十四万円? 正社員並みじゃない?
「明日の朝九時に、迎えを寄こしますので、準備をお願いします」
「……はい」
「それと、これを……」
なんか大きな箱を風呂敷で包んだ物を出して来た。
なんだろう?
「えっと? これは?」
「今日中に開けてくださいね」
麗華さんは、少し顔が赤くなった。
受け取ると、麗華さんは帰ってくれた。
しかし何だったんだろうか? とりあえず、風呂敷を解いて、箱を開けてみる。
「これ、お重箱というやつ? 正月料理を入れる箱じゃない?」
五段のお重箱にびっしりと、料理が詰まっていた。
「何人前ですか?」
『麗華さんはこの一週間、優莉さんを心配して、この街を探し回っていたのですよ。
そこで、バイキングのお店で優莉さんの話を聞けたのです。大食漢だったって。
それで、作って来てくれたのですよ。
モテる男は辛いですね~。さあ、全部食べないと明日が怖いですよ~』
僕はモテているの? いや信じられない。好意を寄せられることなど、した覚えはないのだけど。
階段から落ちる時クッションになったのと、先日少し話しただけだよ?
とりあえず、モニカさんのお弁当を冷蔵庫に入れた。
食べるか……。
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