第21話 来訪者1

 一週間ほど、魔物を狩り続けた。

 魔物は、討伐されると、体が崩れ始めて灰のようになってしまう。

 ドロップアイテムは、灰にならない部分だ。

 爪だったり牙だったりする。斧や剣などの武器も残る場合がある。

 後は、装飾品かな? 貴金属や宝石などがたまに出るので、これらはマジックバッグに入れている。


 とにかく、ドロップアイテムをストアに投入してゴールドに換金する。

 ドロップ率アップの方法はあるのかな? いや、ゲームの世界ではないんだ。便利すぎるアイテムがあるのも問題になると思う。でも欲しかったりする。


 夕方に、城塞都市ダルクに戻り、万農薬をモニカさんに渡す。対価としてお弁当を受け取った。

 これを繰り返した。

 必要十分な量が溜まったので、この作業は本日で終わり。

 成長の速い植物で検証されて、その効果も確認してくれた。

 なんでも、発芽時点で根腐れを起こしていたらしい。

 疑われたらどうしようとか考えていたけど、ダルクの人達も背に腹は代えられなかったみたいだ。

 信じてくれて、結果も出せたので良かったと思う。


 モニカさんは、ダルクで行政の役人に選ばれたとのこと。

 これで、襲撃未遂事件での訴追はないと思う。

 次期領主は分からないけど、まあ、派手に城壁を壊して脅したのだし、それなりの人が来るはずだ。

 多分、きっと、恐らく……。

 また圧政を敷く人であった場合は……、どうしようかな。

 脅迫まがいのことは、したくないのが本音だ。





 この一週間は、ログハウスで寝食をとっていた。祖母の家には帰っていない。

 食事は、モニカさんの手料理を食べていた。モニカさんのお弁当は、凄い手の込んだ料理でした……。

 そんなことを考えていると、ログハウスに着いた。


 「ふう~」


 一息付いた。

 〈風火輪〉は、とても便利だ。

 特にこの世界では、飛べる人はいない。航空技術も発達していない。

 飛べる魔物はいるそうなのだけど、今のところ見かけない。

 僕だけのアドバンテージと言える。

 ただし、魔法があった。火・風・水・土の奇跡の発現だ。時間が出来たら覚えても良いかもしれない。

 その前に、魔力の解放からかな?


 さて、お弁当を食べて寝よう。


『ちょっと待ってください!』


 サクラさんからの突然のストップだった。 待つって、何を待つの?


「何ですか?」


『お弁当は食べずに、元の世界に戻ってください。待っている人がいますよ』


 なんだろう? 僕を待つ人?

 とりあえず体を拭いて、着替えた。そして、桜の樹を触る。





『誰もいないじゃないですか?』


『この三日間、通ってくれている人がいますよ?

 もうしばらくすれば来るので、お茶でも飲んで待っていてください』


 誰だろう? 思い当たる人がいない……。

 とりあえず、戸締りをして、しばらく待つと、玄関のノックが鳴った。


「はい、今行きます!」


 ドアを開けると、そこには笑顔で怒っている社長令嬢がいた。


「西園寺麗華さん……」


「こんばんは、優莉さん。でも人をフルネームで呼ぶのは、失礼ですよ」


「……こんばんは。西園寺さん」


『下の名前で呼んであげた方が良いですよ~。とっても怒っているので』


 僕にそんな度胸はありませんって。

 とりあえず、家に上がって貰った。


「それでどうしたのですか? もう日も暮れたと言うのに」


 笑顔の西園寺さんの表情に、青筋が追加される。


「優莉さん。この数日何処に行っていらしたのかしら? 時間を空けて訪ねて来ても何時も不在でしたよね?」


 う……。しまった。

 一人暮らしだからと油断していた。


「……住み込みのバイトというか、ちょっと遠くまでバイトに行っていました」


 苦しい言い訳をする。でも、嘘はついていない。


 ──ピキ


 西園寺さんから、怖いオーラが出ています。

 汗が止まりません。


「父の会社への就職は、考えて頂けましたか?」


「え……と。その、忙しくて……」


「何が不満なのですか? 給料ですか? 待遇ですか? 明確に言ってください!」


 どう答えようか。異世界生活が楽しくて、こちらの世界で過ごす時間が惜しいのが本音だ。

 お金もドロップアイテムで何とかなりそうだし……。


『就職決めちゃった方が良いですよ~。麗華さんは、優莉さんが受けるまで、今日は引き下がりませんよ~』


 ぐ……。サクラさんは楽しんでいるな。少し考える。


「えっと、僕はコミュ障というか対人恐怖症を患っているので、フルタイムでは働けそうにありません。

 四時間程度のバイトであれば、可能なのですが……」


「分かりました。週五日の四時間ですね。時給三千円で契約します!」


 ぶは! 時給高すぎじゃない!?

 日当一万二千円? 一ヵ月で二十四万円? 正社員並みじゃない?


「明日の朝九時に、迎えを寄こしますので、準備をお願いします」


「……はい」


「それと、これを……」


 なんか大きな箱を風呂敷で包んだ物を出して来た。

 なんだろう?


「えっと? これは?」


「今日中に開けてくださいね」


 麗華さんは、少し顔が赤くなった。

 受け取ると、麗華さんは帰ってくれた。

 しかし何だったんだろうか? とりあえず、風呂敷を解いて、箱を開けてみる。


「これ、お重箱というやつ? 正月料理を入れる箱じゃない?」


 五段のお重箱にびっしりと、料理が詰まっていた。


「何人前ですか?」


『麗華さんはこの一週間、優莉さんを心配して、この街を探し回っていたのですよ。

 そこで、バイキングのお店で優莉さんの話を聞けたのです。大食漢だったって。

 それで、作って来てくれたのですよ。

 モテる男は辛いですね~。さあ、全部食べないと明日が怖いですよ~』


 僕はモテているの? いや信じられない。好意を寄せられることなど、した覚えはないのだけど。

 階段から落ちる時クッションになったのと、先日少し話しただけだよ?


 とりあえず、モニカさんのお弁当を冷蔵庫に入れた。

 食べるか……。

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