第37話 王女様4
補足
アンネリーゼは日本語が話せないので、元の世界にいる場合は異世界語を 【xxx】で表現します。
◇
アンネリーゼさんがいると、宝物庫を開けられなかったので、祖母の家で八卦衣を脱ぐ。
まあ、盗難の心配はないだろうけど、何を保管しているのか、見られるのを恐れた。
かなり貴重な物が多いので。
僕は武器防具を、マジックバッグに仕舞った。
今持っているのは、開天珠だけだ。
陰陽剣など、見つかったら通報されると思う。それほど怖い造形をしていた。
お茶を入れて一息ついた時だった。
【ユーリさん。もう少し食事を頂けないでしょうか? 私、大食漢なもので……】
ぶは!? ゴホゴホ。
盛大にお茶を噴き出した。口だけではない鼻からお茶も噴き出している。
熱い。というか痛い! 鼻の奥が、ツーンとする。
え? え? 何が起きているの?
【アンネリーゼさん!? どうしてここに?】
ベランダに洋服を着たアンネリーゼさんがいる……。
【え~と。ユーリさんを真似て桜の樹を触ったのですけど……、ここは何処ですか?】
キョロキョロと辺りを見回している。
『サクラさん。なんでアンネリーゼさんが、こちらの世界に来られるのですか?』
『……私にも分かりません。血筋ではないと思うのですが、魔導具でもないですね。
異世界転移のスキルを天然で持っているとしか言いようがありません。もしかするとですけど、〈称号:異世界人〉を生来で持っている可能性があります』
そんな人いるの? 異世界への扉がなければ無意味なスキルだろうに。
いや、一人該当者がいる。祖母の先生だ。祖母の先生であれば、生来持っていた可能性がある。そうでなければ、祖母を異世界に呼ぶことは出来なかったと思う。
少しだけ、思考を加速させていた時だった。
「……こんばんは。優莉さん」
──ゾク!
とても静かに、そして怒りを込めた声が僕を襲った。
恐る恐る、声の方向を見る……。
「こ、こんばんは。麗華さん」
裏返った声であいさつをする。
【ユーリさん。誰ですか?】
最悪のタイミングだ。どうやって説明しようか……。
いや、僕にこの難局を乗り切れるだけの知恵と度胸があるのだろうか?
それと執事さん! ヒソヒソと麗華さんに囁くのを止めてください!!
◇
「えーと、彼女はアンネリーゼさんと言います。遠い親戚にあたります。
祖母を頼って日本に来たみたいなのですが、今日初めて会いました。
祖母の壱岐優未の名前を出して貰えなければ、追い返していたところです」
「どこの国の方ですか? 英語もスペイン語も通じないなんて……」
「中東だったかな? 僕も片言しか分かりません」
とても苦しい言い訳をする。
そもそも、僕にマイナー国の語学力があること自体がおかしいし……。
冷汗が止まらない。
【ユーリさん。この綺麗な人を私にも紹介してください】
アンネリーゼさんは、冷静だな。
とても落ち着いている。『外界と遮断された世界で生きて来た』と聞いたけど、僕とは正反対だ。
【……麗華さんと言います】
「レイカサン」
麗華さんの表情が明るくなり、アンネリーゼさんの手を握った。
二人共、とても良い笑顔になった……。
特に、アンネリーゼさんは異世界では、眼に光がなかった。
監視の目を逃れられたので、気負いがなくなったのかな?
その後、会話は出来なくとも身振り手振りでコミュニケーションをとって意思疎通を行い始めた。
僕はその風景を見ながら、晩ご飯を頂きました。味は分からなかったです。
それと、アンネリーゼさんは、三人前くらいを平らげた。
これには、麗華さんもご満悦だ。あの細い体のどこに入るのかな?
僕は……、胃が痛いです……。
二十二時になり、麗華さんが帰って行った。門限なのだそうだ。
泊まるとか言い出さなくて本当に良かった。車を見送って一安心する。
僕は、アンネリーゼさんを連れて、ログハウスへ戻ることにした。
◇
これから説教と言うより説得だ。
「……アンネリーゼさん。二度と桜の樹には触らないでください!」
「何でですか? レイカサンと会話出来るようになりたいです。レイカサンも同じはずです! 語学は、覚えてみせます!」
「あちらは、異世界なのです。不法侵入ですよ?」
「ユーリさんは、違うのですか? 誰かの許可が必要なのですか?」
「俺は、頼まれてこちらの世界に来ているのです。こちらの世界の問題が片付いたら、人里には降りません」
「っ……。私が異世界に行くとユーリさんに不都合が生じるのですね。分かりました。残念ですが、諦めます……」
アンネリーゼさんは俯いてしまった。でもこればかりは仕方がない。
何とか納得して貰ったと思おう。
後は、麗華さんへの言い訳を考えておかないとな。
今日はとにかく疲れた。
風呂に入って寝よう。
明日から、またバイトだし……。
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