第26話 仕事3
◆社長室での会話
社長である、西園寺真人の部屋に佐藤課長と各部署の責任者が集まっていた。
「さて。この一週間の、二階堂君の評価を聞きたい」
社長の質問に、佐藤係長が答える。
「まず、二日間ほど、アナログな作業を行って貰いました。
結果から言いますと、熟練作業員の数倍のスピードで作業を行っています。
出来栄えは問題なし。不良0個と、優秀の上としか言えない評価です。
それと、今月分は作業が終わってしまいました。
アナログ作業は、投入数があるのであれば、二階堂君に任せても良いかもしれませんが、今の投入数量では彼には不向きな作業と言えます」
「ふむ……」
──ギシ
西園寺真人は、椅子の背もたれに寄りかかった。
「二十年前であれば、逸材だったのだろうな……。
自動化された今の時代では彼の才能は見い出せられなかったのだろう。
まあ良い。次は、装置のオペレーションだったな。報告を頼む」
現場責任者が答える。
「ありえませんよ。一回教えただけで、完璧に装置を動かしました。
それどころか、装置の故障個所の特定と修理まで終わらせていたんですよ。
装置のオペレーターなんかにしたら、やることがなくて暇になってしまうでしょう」
西園寺真人が、こめかみを抑える。
「……たまにいるのだよ。工学を習っていなくても、見ただけで理解する者は。
きちんと学ばせても良いかもしれないな。
しかし、バイトなんだ……。それも出来ないな」
別な男性が口を開く。
「こちらをご覧ください」
一枚の紙をテーブルに置いた。優莉が手書きした、装置の絵だ。
「長年、原因不明であった装置の故障原因を究明した証拠です。
修理の専門部隊が総動員しても直せなかった、あの装置です。
この説明通りに修理した結果、止まることがなくなりました。
正直、工学を習っていないというのを信じろと言う方が、無理がある内容です。
技術部は、彼に嫉妬しています……」
「ふむ……。怖いくらいの才能だな。
バイトでなければ、技術部に入れて役職を付けても良かったかもしれない。
だが、彼を技術部に入れては、不協和音となるか……。 技術部もダメだな」
再度、佐藤係長が口を開く。
「今は、不良の原因調査に当たって貰っています。
これで結果を出せば、年間数千万円の経費削減に繋がります!」
「期待出来そうか?」
「こちらをご覧ください」
佐藤係長が、優莉の手書きの紙を差し出す。
「思ったことを箇条書きにしたのでしょうが、誰も思い浮かばないような工程改善を提案しています。
日数はかかりそうですが、もしかしたらという期待が持てます」
西園寺真人が、紙を取りその内容を読んだ。
「……まだ、一週間だが、君達は、二階堂君の職場は何処が良いと思う?」
全員の視線が合わさる。
「「「……新製品開発部が良いかと」」」
「我が社の頭脳……いや、心臓部か。だが、バイトに会社の未来を託すと言うのも……。
どうにかして、契約内容を変更しないとな。麗華には『どんな契約でも良い』と言ったのが裏目に出たか」
「あれほどの逸材をどうやって見出したのですか? 大卒や院卒、もしくは経験を積んだ中途採用者以上の人材と言えます」
「……直感だよ。あの青年は、我が社に貢献してくれる……、そう思ったのだが。
受け答えもしっかりしていたのだが、自分で自閉症と言っていた。
無職の青年だったので、喜んで我が社と契約してくれると思ったのだが、数日待っても連絡が来なかった。
気になったので調べさせたら、夜に家にも帰っていない。遊び歩いているのかとも思ったのだが、そういう風にも見えない。麗華が見つけたのは一週間も経ってからだ。何をしていたのだろうか……。
そして、働いて貰ったら、ありえない成果を出す……。本当に不思議な青年だな」
「そういう経緯があったのですね。でも、我々としては、真面目に働いて貰えるのであれば、言うことはありません。先がどうあれ、優秀過ぎて扱いきれない点を除けばですが……」
全員がため息を吐いた。
◇
「あ~。一週間が終わった~。疲れたと言うより緊張した~」
優莉は家に帰り、伸びをした。
『今日は、麗華さんも来られないと言う事ですので、自由ですね~』
「サクラさん。言葉にトゲがない? 西園寺麗華さんは昨日のうちにおかずを作ってくれているので、食べますよ?」
『いえいえ。それでなんですけど、アドバイスです。モニカさんに会いに行った方が良いですよ?』
「ダルクの街で何かありましたか?」
『ダルクでは、何も起きていませんよ。でも、モニカさんが寂しそうにしていますね~』
「コミュ障の僕には、他人の気持ちが良く分かりませんね。でも、明日から休み出し、見に行ってみるか」
『ふ~ん。コミュ障……ね』
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