#30 東雲姉弟の真夜中の相談
キヨカを家まで送り届け、帰ってきてから先日買って来た文庫本を読んでいた。
明日は日曜日でキヨカと会うのは昼頃の予定なので、遅くまで読書に没頭出来る。
ベッドで寝転がって集中して読んでいると、ねーちゃんが部屋にやってきた。
「せーくん、ちょっといい?」
時計を見ると、0時近くだった。
『うん?こんな時間にどしたの?』
「うん、ちょっとお話したくて」
俺はベッドから起き上がり、文庫本に栞を挟んで床に座りなおした。
『なんか悩みでもあるの?』
「うん・・・実は、キヨカちゃんに私の昔のこと話したほうがいいんじゃないかって思ってて・・・」
『昔のことって、退学した時のこと?』
「うん。 なんかこのまま行けばせーくんとキヨカちゃんって本当に結婚しそうでしょ? なのに私のやらかしたことが原因でいざ結婚って時に上手く行かなくなったりするんじゃないかって心配なの・・・」
『う~ん、結婚のことは正直よく分かんないよ。俺まだ高2だし。 キヨカがねーちゃんの話聞いて上手く行かなくなったとしても、もうそれは仕方ないことだよ』
「ごめんね、せーくん・・・お姉ちゃんのせいで・・・」
『もう謝んないでよ。 それよりもさ、ねーちゃんが小説書いてるって聞いて、俺嬉しかったんだよ。 ようやく前向いて歩きだしたのかな?って思ってさ』
「それは只の暇つぶしだし・・・」
『それでもさ、いつまでもウジウジしてるより全然いいよ』
こうやって二人きりでじっくり話し合う機会は、退学以降ほとんど無かった。
せっかくだから、未だ自分の起こした事件に囚われて、自分を責め続けているねーちゃんに、最近ずっと考えていたことを話すことにした。
『ねーちゃんさ、迷惑かけた元カレのところに謝りに行って、まともに話も聞いてもらえずに追い返されたんでしょ? もうそれってさ、謝罪すら相手にとっては迷惑なんだよ。 これ以上迷惑かける訳にはいかないし、もうそうなったら自分自身でどうにか折り合いつけるしかないじゃん。 どうやって罪を償うのかとかいつまで反省すれば良いのかって、誰にも決められないんだよ。自分で折り合い付けて生きていくしかないじゃん』
「・・・・・」
『浮気とか学校でセックスするとか、そりゃ最低最悪だよ。 俺だってあの時は「何やってんだよ!」ってすげえ頭に来たし。 でもさ、その罪って人としてまともな生活しちゃいけないほどの罪なの? 一生十字架背負って、笑うことも許されないほどの罪なの? 俺はそんなことは無いって思うんだよ』
『別に開き直って罪を忘れて楽しく生きろって言ってるんじゃないよ? 自分への戒めと反省と一緒に、これから幸せになる為の努力をしてもいいんじゃないかって言いたいんだよ。 ねーちゃんが反省して自分を責め続けているのは家族の俺たちが一番分かってるよ。もう十分なのかまだ足りないのかは分かんないけど、そればっかじゃなくて、そろそろ前向いて幸せになろうと思うのはいけないことじゃないって思うんだ』
「・・・言いたいことは分かるけど・・・」
『うん。 それにキヨカは、ねーちゃんのこと知っても、俺と別れようとかねーちゃんに幻滅した言わない様な気がするな。 多分だけど、俺と同じこと言いそうな気がする。「反省ばかりしてても何も始まらないですよ!」とかめっちゃ前向きなこと言いそう』
「そうだね・・・なんかそういうイメージが浮かぶね」
『まぁそういうことだから、ねーちゃんも少しは前向きに考えてみなよ。 キヨカに話すっていうのも、俺としては賛成だからさ』
「うん・・・やっぱり話すよ。 キヨカちゃんに後ろめたい気持ちのまま付き合うの、結構つらいし、この先のこと考えると、少しでも早い方がいいような気がするの」
『そっか、分かった』
ねーちゃんの退学事件以来、二人でここまで本音で話し合ったのは初めてだった。
ずっと腫物を触るように遠慮しながら気を遣ってたし。
俺が思うに、こんな風にお互い本音を出せるようになったのって、キヨカの影響だよな。
キヨカの一見無鉄砲にグイグイ行く様にみせて、実は人のことよく見てて絶妙なギリギリの距離の取り方したり、その反面ここぞとばかりに相手に甘えたり、俺もねーちゃんもそういうキヨカ相手にしてたせいで、必要以上の遠慮とかはただ問題先延ばしにして逃げてるように思えてきたんだと思う。
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東雲セツナの過去については、別の作品
「幼馴染で恋人の彼女は、僕を見ていない。」にて描かれています。
https://kakuyomu.jp/works/16816700427615633588
興味がありましたら一読してみて下さい。
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