#45 罪人と執行人と調停人
しばらくして二人は落ち着いたのか抱き合うのを止めて、お互い照れくさそうな表情をしていた。
そして、大人で美人の女性二人がティッシュでずびぃぃーと鼻をかんでる光景がなんだか可笑しくて、私も涙が止まった。
「私、お茶を煎れ直して来ますね」
「だったら、コーヒーお願い出来るかな?」
「はい、分かりました」
「ごめんね、キヨカちゃん」
「いえ、大丈夫ですよ」
セツナさんに笑顔で返事をして、台所に向かった。
台所にはセージくんが食卓で読書をしながら待機していた。
『お茶のお代わりか?』
「うん、コーヒー煎れるね。セージくんも飲む?」
『じゃあ俺やるよ。キヨカは座って休憩してて。 疲れてるだろ?』
「じゃあ私は朝言ってたの、今から準備しちゃう」
『え?ってことは、ねーちゃんたち上手く行きそうなのか?』
「う~ん、まだ話し合いの途中だけど、多分大丈夫そうだよ」
『そっかぁ。で、何するの?』
「前に話した大福のお汁粉作りますよ!」
『うわぁ・・・』
「甘いものは正義ですからね!」
茹で小豆の缶詰1000gと大福を10個を持ってきていた。
直ぐには食べないので、お汁粉だけ先に用意しておいて、食べる前に大福を食べる数だけ投入して温め直して食べることに。
お汁粉は直ぐ準備が出来たので一旦火を止めて、セージくんが煎れてくれた3人分のコーヒーをお盆に乗せて再びセツナさんの部屋に戻った。
部屋に戻ると二人は最初と同じようにテーブルを挟んで向かい合ってて、二人とも腕組みをしながら「う~ん」と難しい顔をしていた。
(あれ? また拗れちゃったの???)と不安になりながらも二人の前にそれぞれコーヒーを置いて、砂糖とミルクをテーブルの中央に置いた。
私は自分のコーヒーに角砂糖を3つ入れてからお盆に乗せたまま入口の傍に腰を降ろした。
二人が考え事をしてる中、一人コーヒーを口にしていると、突然ユキさんが私に話しを振って来た。
「キヨカちゃんの意見も聞かせて欲しいんだけど」
「へ!? 私ですか???」
「うん。 今ね、二人で意見が分かれてて、どうしたもんかと悩んでるんだけどね」
「はい」
「私はさ、さっきのビンタをケジメとしてセツナちゃんの贖罪の1つの区切りにするべきだと思ってるの。 そうしたくてビンタしたんだしね。 でもセツナちゃんは、納得してくれないの」
「ええ、ただの自己満足に思えるの。 罰として殴られることは素直な気持ちで受けるけど、でも迷惑かけた人にしてみたら、1発2発殴られたくらいじゃとてもじゃないけど納得出来ないでしょ?」
エェー!
それ私に聞くの???
なんという無茶振りを・・・
「えーっと・・・本音、ぶっちゃけてもいいですか?」
「うん。 遠慮なく意見言って欲しいの」
「お願い」
はぁ・・・
「あくまで部外者の私の個人的な意見として聞いて頂きたいのですが・・・・」
「えっとですね、まずセツナさんは退学処分っていう罰を最初に受けてます。 学校の規則では恐らく一番重い罰則です。 学校や生徒会に大きな迷惑を掛けましたが、退学処分という罰を既に受けたことで一応はケジメになってるかと。 事件による影響を考えるとバランスは取れてませんが、それ以上の罰則が無い以上は仕方ないとも言えます」
「ただし、あくまで学校や生徒会という組織としてのケジメであって、そこに関わってきた人たち、セツナさんと今まで交友があった人たちへのケジメは退学処分では足りないと思います」
「それについては先ほどのユキさんのビンタが相当すると私は思います。 元生徒会の代表としてユキさんは自分の手を痛めてでも罰の執行人になって下さったんだから、私はユキさんのその思いを真摯に受け止めるべきだと思います」
「あとは、元彼氏のムギさんへの贖罪ですが、これは相手の方が話すことも謝罪することも拒否した時点で、相手の方はセツナさんへ罰を与えることも放棄したと解釈出来ると思うんです。 都合の良い解釈と言われるかもしれませんが、実際のところ、もし相手の方がセツナさんへ罰を与えることを望むのなら、他人に任せずに自ら執行するべきです」
「元彼氏さんが放棄してしまった以上、他人がムギさんの代わりに罰を与えようとするのは、部外者によるリンチと同じです。 私はそれには同意も共感も出来ません。 じゃぁ、セツナさんはどうすればいいの?ってことになりますが、それはもう自分で落としどころを探すしかないんじゃないですか? 他人には決めること出来ませんよ。 自分が納得できる落としどころが見つかるまで探すしか」
「以上です・・・長々と生意気なこと言って、すみません」
「・・・・確かに強引な解釈に聞こえるし、引っ掛かる部分もあるけど、そうとでも考えないと結論なんて出せないのも事実よね。当事者じゃないからこその考え方か・・・。 キヨカちゃん、あなた凄いわね。 セツナちゃんが可愛がるのも解るよ」
「いえいえ、そんな」
「キヨカちゃん、ありがとう・・・後は自分で折り合いつけて行くしかないんだね・・・そういえばせーくんにも同じ様なこと言われたけど、キヨカちゃんの意見聞いて、モヤモヤしてたのがなんだか道が開けるような気持ちになったわ。 うん、もう一度考えてみるわね。本当にありがとうね」
「もー!そんなにホメないで下さいよ! そういうの慣れてないんですから! あ!そうだ! 甘いもの用意してるんで、休憩にしませんか? 私用意してきますね!」
そう言って、台所に逃げた。
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