#03 幼馴染の憂鬱



 私には、異性の幼馴染が居る。

 名前は、飯塚マサトと言い、私は子供の頃から”マサくん”と呼んでいる。


 マサくんとは家が近所で、歳も同じだったことから、物心がついた幼稚園の頃には既によく遊ぶ仲だった。


 お互いの家にも気兼ねなく行き来するほどで、家族ぐるみの付き合いだった。



 ただ、私にとってマサくんは、ただの幼馴染。

 それ以上でもそれ以下でも無い存在。


 気を遣わないけど、あくまで他人。

 そして、恋愛対象として見たこともない。

 よくある「子供のころに結婚の約束」をしたなんていうことも無い。


 よく遊んでいたのも、ゲームとかで遊ぶだけだし、特別甘い思い出も無い。

 バレンタインだって、義理チョコしか渡したこと無い。

 しかも、毎回”義理”だと強調して渡しても

「照れなくてもいいぞ」とかキモイこと言うし。

 だから、中学からはその義理チョコすら渡すの止めた。




 マサくんは、所謂、陰キャのコミュ障のぼっち。

 私以外に友達と呼べる人は居ない。


 だからか、多分私に依存して執着していると思う。


 特に中学の頃から、学校では「キヨカ!キヨカ!」と私を呼び、やたらと絡んでくるけど、私以外の誰とも会話すらしようとしない。

 イジメられている訳じゃないけど、一人で殻に閉じこもってる感じ。


 昔は、そんなマサくんに同情して、何とか他の人とも仲良く出来るようにしようと頑張ってみたけど、当の本人が頑なに拒絶するので、そういうのは諦めた。


 私は彼の保護者じゃないし、恋人でも無い。

 只の幼馴染で、あくまで他人。

 一方的に依存されても正直困る。と思いつつ、結局流されて邪険にできず、相手にしてしまっていた。



 そんな中学時代を過ごし、高校生になれば彼とも離れられると考えていたら、マサくんは私と同じ高校の入試を受けていた。

 それを合格発表の時に知らされた。


 マサくんは、コミュ障ぼっちだけど、勉強だけは出来た。

 だから私が志望する高校よりも上のレベルの高校を受けるはずだった。


 なのに、私と同じ高校に行く為に、レベルを下げて受験したらしい。


 その事を、合格発表の時に本人から聞かされた。


「これから3年間、また一緒だぞ! キヨカも嬉しいだろ!」


 この時は、溜め息しか出なかった。






 幸いなことに、1年ではマサくんとは別のクラスになった。

 だけど、結局付き纏われた。


 放課後の度にクラスに迎えに来るし、休憩時間とかもしょっちゅう私の前に現れた。


 その度に「キヨカ!キヨカ!」と呼ばれ、周りからは幼馴染だと完全に認知され、付き合ってるというデマまで流れる始末。


 付き合っているというデマだけは全力で否定しているけど、仲の良い友達ですら私がテレているだけで、まるでマサくんが私の彼氏であるかのような扱いをしてくる。


 これは本当に勘弁して欲しいけど、私が否定すれば否定するだけ、みんな喜んでからかってくるので、最近は諦め気味。



 そんな1年が終わり、2年に進級。

 マサくんと同じクラスになってしまった。


 頭痛くていい加減うんざり。



 マサくんは、相変わらず一人ぼっちで誰とも仲良くしようとはせず、私だけに絡んで来ていて、案の定、クラスのみんなからは私たちが付き合っていると勘違いされていた。

 その度にマサくんは嬉しそうに満更でも無い様子で、私が必死に否定しても友達ですら本気で取り合ってくれない。


 だから教室ではなるべくマサくんとは目を合わせないようにしていたし、私から話しかけることもほとんどしなかった。



 幼馴染という存在を否定はしないけど、私にとっては只々面倒な存在でしかなかった。

 良く言えば、腐れ縁。

 悪意を持って言えば、近所に住むぼっち拗らせた面倒な同学年の異性。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る