#05 手作りケーキ盗み食い事件




 そんな恋が芽生えた翌週、私は沢山相談に乗ってくれた東雲くんに何かお礼がしたくて、バウンドケーキを手作りで焼いていた。


 図書当番の時に渡そうと思って、丁寧にラッピングもした。


 いきなり手作りケーキ渡されて、好きなのバレちゃうかな?って少し心配もあるけど、それ以上に何かお礼がしたくて、でも東雲くんが私にしてくれたような悩み相談とかは、私なんかじゃ出来そうにないし、だからお礼に愛情込めた手作りケーキを作った。

 まぁ、東雲くんともっとお近づきになりたいっていう下心も否定はしませんが。




 水曜日の朝、登校して教室に行くと、まず最初に廊下のロッカーにラッピングしたケーキを入れた紙袋を仕舞った。


 その直後に事件が起きた。



 私がロッカーに如何にもプレゼントっぽい包みを仕舞ったのを、マサくんが見ていたようで、私が離れた隙に勝手にロッカーから持ち出した。


 そして、あろうことかその場で中身を取り出して、勝手に食べ始めた。



 教室に戻っていた私はマサくんのその行動に最初気が付かず、しばらくして廊下がざわついてるのが気になって目を向けてから初めて気が付いた。


 ビックリしすぎて、唖然と言葉が出てこず彼を見ていると、マサくんと目があった。


 そして、口いっぱいにケーキを頬張りモグモグさせながら

「このケーキ、手作りなんだろ? 俺の為に態々ありがとうな!」



 もう限界だった。

 私はその場にしゃがみ込んで、声をかみ殺す様に泣いた。


 そのタイミングで東雲くんが声をかけてくれた。


『鈴宮さん、大丈夫か? 気分悪いなら保健室連れて行こうか?』

『坂本さん、鈴宮さんが調子悪そうだから俺、保健室に連れてく。 先生来たら伝えといてくれる?』


 そう言って、東雲くんは私を立ち上がらせ、抱きかかえるように保健室に連れて行ってくれた。


 保健室に着くと、東雲くんは養護教諭の先生に

『教室でトラブルがあって、気分が悪くなった様なんです。 体調不良では無いと思うけど少し休ませて下さい』と、やはり何でもお見通しの様でキチンと説明してくれて、ベッドで休ませて貰えることになった。


 私は東雲くんに泣き顔を見られたくなくて、布団を被って静かに泣いていた。

 東雲くんはそんな私に、何かを聞き出そうとはせず、たまに『念のため熱測っとくか?』とか『喉渇いてないか?』とか気遣ってくれていた。


 30分くらいして大分落ち着き涙も止まったので「お手洗い行ってきます」と言ってトイレに行き、顔を冷たい水で洗ってから保健室に戻った。


 保健室にはいつの間にか先生は居なくなってて、私と東雲くんの二人きりになったので、ケーキの話を聞いて貰った。





 この間、沢山相談に乗って貰ったお礼がしたくて、東雲くんに渡そうとケーキを手作りで焼いて持ってきていたこと。

 今日の放課後の図書当番の時に渡そうと廊下のロッカーに仕舞っていたこと。


 私が目を離した隙に、マサくんが勝手に持ち出して勝手に食べ始めたこと。

 それを見た私と目が合うと「このケーキ、手作りなんだろ? 俺の為に態々ありがとうな!」と言われ、もう限界だと思い泣けてきたこと。



 私の話しを聞いた東雲くんの第一声は

『あのケーキ、俺が貰える予定だったの!? あのヤロぉぉぶっ飛ばしてやる!!!』


「だ、ダメだよ暴力は!」


『いやだって!食べ物の恨みは恐ろしいんだよ! ちくしょー!ケーキ食べたかった! 俺には無害だと思って大人しく観察してたのに、くそムカつく!』


「え?観察?」


『あー気にしないで・・・しかしムカつくな!あいつ!』


「東雲くん・・・ケーキならまた作るから」


『ああ、ごめん。まるで催促してるみたいだな。 そういうつもりじゃないんだ。悪かった気にするな・・・』


「大丈夫だよ。催促されたなんて思ってないから。 私だって凄く悔しいんだから。 食べて欲しい人に食べて貰えなくて、嫌いな人に勝手に食べられるなんて、このままじゃ引き下がれないよ!」


『お、おう、そうだな』



 こうして、衝撃的だったケーキ盗み食い事件も、東雲くんが私の代わりに怒りを発散してくれたからなのか、ケーキを食べたかったと言って貰えたことが嬉しかったからなのか、私の気持ちは何とか立ち直ることが出来た。








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