#11 東雲家の書庫



 ウチは家族全員読書好きということもあり、本専用の部屋がある。


 書庫と呼ぶにはそこまで蔵書数が多い訳ではないのだけど、家族4人が地道に買い集めた本を1つの部屋にまとめて保管していて、その部屋にはソファーとかも置いてあるから、そこで本を選んでそのまま読書を楽しむことが出来るようになっている。


 鈴宮をその部屋に案内した。


 さっきまでハイテンションなんだか病んでるんだかよく分からない様子だったのが、部屋に入った途端、いつものまともな鈴宮に戻った。


「す、すごい!この部屋凄い素敵ですね!」


『そうか? でもまぁ、鈴宮さんならそんな反応してくれるだろうって思って案内したんだよね』


「うんうん、素敵です! 本読んでみても良いですか?」


『うんいいよ。 そこのソファー使ってくれれば良いからね。 あと気に入ったのあれば貸すから遠慮なく言ってね』


 そう言って鈴宮を部屋に残して、俺はキッチンに行ってアイスコーヒーを用意した。


 鈴宮のところに戻ると、鈴宮はソファーに座り1冊のハードカバーの文芸書を読み始めていた。


 俺は読書の邪魔をしないように、ソファーの脇にあるテーブルに静かにアイスコーヒーを置いて、自分も本棚から1冊選び、鈴宮の横に座って読書を始めた。





 どれくらい時間が経っていたのか分からない程、読書に集中してしまい、部屋の中が薄暗くなり始めていた。


 俺が席を立ち、部屋の照明のスイッチを入れ部屋が明るくなると、ようやく鈴宮も読書を中断して顔を上げた。


「すっかり夢中になって読んじゃいました」


『そっかそっか。 まだ途中だったら、今日は持って帰ってもらっても良いよ』


「本当ですか!? ありがとうございます!お言葉に甘えて貸して下さい」


『あいよ。 それよりそろそろ暗くなってきたから、帰った方がいいね。家まで送って行くよ』


「なにからなにまで、ありがとうございます」


『まぁ、今日はこの間のケーキのお礼だからね。 遠慮なく甘えて下さい。ふふふ』


 俺がそう言うと、鈴宮はモジモジしながら顔を真っ赤にしていた。


 だから、俺にそんなにモジモジしてどうする!

 鈴宮には気になる男子が居るんだから、そっちにそういうあざといの見せろよ!



 鈴宮を送る道すがら、鈴宮に貸した本の話をしながら歩いた。


 流石に内容についてはネタバレになってしまうので言えないけど、その本はウチの母親の本だったので、その辺の話をした。


『その本、ウチの母親が20年くらい前に買った本らしいよ。 まだ独身のころで当然俺も産まれる前』


「へぇ~、でもそんなに古臭く感じないですよね」


『そうだねぇ、因みに俺も読んだけど、読む前に母親に「絶対に泣くから!」って言われて、そう簡単に泣くかよ!って反抗心持ちながら読んだら、最後簡単に泣けた。 もう見事なくらい目から涙がダダ漏れだったね』


「あー!それ以上言っちゃダメ! まだ私途中なんだからね!」


『ああ、そうだね、ごめんごめん』



「でも今日は中々のスペシャルな日だったなぁ」


『え?なんで?』


「だって、セージくんと初めてのデートして、セージくんのお家に初めてお呼ばれしたんだよ!?」


『お汁粉食べに行っただけなんだけどね』


「もう、それでもスペシャルなの!」


『はいはい、喜んでもらえて何よりです』



 やっぱり鈴宮は、面白い奴だ。

 お喋りしてても話題が尽きないし、気を遣わないし。


 この先、ずっとこんな時間を鈴宮と過ごせたら、楽しいだろうなぁと、自然と思う様になっていた。







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