#10 初めての放課後デート



 飯塚によるケーキ盗み食い事件以降、クラスでは徐々に飯塚の危険性と、鈴宮と飯塚は恋人では無く、むしろ飯塚が鈴宮に付き纏っているという正しい情報が流れ始めた。


 もうこうなって来ると、二人には当初の観察対象としての面白さは無くなってしまっている。


 元々飯塚はぼっちだから、今更みんなから距離置かれても、実際のところ今までと何も変わっていない。


 対して鈴宮は、飯塚と絡まなくなってしまったら、あのつっけんどうな対応も見ることが出来ない。 二人が絡まないのではもう観察する意味が無いのだ。

 まぁ、鈴宮守る為に、俺が無視するように指示したんだけどね。




 というか鈴宮、事件の時に俺と仲良しなのがクラスでバレて以降、開き直ったのか、教室でも堂々と俺に絡んでくるようになったんだよな。

 面白人間の観察って、相手に気付かれずにこっそり見るのが面白いのであって、こうもグイグイ絡まれては、観察とかそういう次元じゃなくなってしまっている。


 なので本当なら、俺はここで手を引くべきなんだろうけど、ココまで鈴宮に関わりすぎてしまったせいで、引くに引けない状況に陥ってしまった。


 まぁ、同じ読書仲間として友達である鈴宮のことを、このまま見捨てられないというのが本音。


 気が合うし、気を遣わないし、本の趣味も結構合うし、こういう友達って貴重なんだよね。 だから鈴宮との関係は大事にしたい。



 飯塚は飯塚で、相変わらず何考えてるのかわからないままだが、鈴宮が警戒心MAXにしているお陰か、鈴宮に近寄ることすら出来ない様子。

 所詮、コミュ障ぼっち、こういう時すげぇ弱いんだよな。


 まぁ、飯塚とは絡んだことないけど、鈴宮の話を聞く限りでは、自業自得。

 というか、ケーキ喰った恨みは忘れねーし!






 そして今日は、図書当番では無い日だが、放課後に鈴宮と一緒に帰り道を歩いている。


 この間のケーキのお礼をしたいと軽い気持ちで鈴宮に告げると、物凄い勢いで喰いついてきて

「放課後デートしたいです!!!!」と言っていたので


『じゃあ、俺んちの近くに美味しい甘味屋さんがあるから、帰りにお汁粉でも食べに行くか? 鈴宮さん、アンコ好きなんでしょ?』


「はい!お汁粉大好物です!行きます!」


『あいよ。じゃあ、放課後な』


 と、ハイテンションの鈴宮と二人で、放課後のデートをすることになった。

 デートって言っても、お汁粉食べるだけなんだけどね。


「この時期に、お汁粉って珍しいですよね? セージくんはよくお汁粉食べに行くんですか?」


『んーと、今から行くお店は、冷たいお汁粉があるんだよ。 しょっちゅう行く訳じゃないけど、年に2~3回くらいかな?』


「ほほ~なるほどぉ~冷たいお汁粉ですかぁ、楽しみです!」


 お店に着くと、テーブル席に案内され、鈴宮と向かい合って座り、お汁粉とほうじ茶を2つづつ注文した。


 向かいに座る鈴宮は、目をキラキラさせながら相変わらずテンションが高い様子で店内を見まわしていた。


『ところで鈴宮さん。 鈴宮さんって前はもっと大人しいイメージだったよね? でもなんか最近は明るくなったというか、無駄にテンション高いと言うか』


「そ、そうですかね・・・? きっとこれもセージくんのお陰です♪」


『いやいや、そういうトコ! 以前の鈴宮さんって、フレンドリーではあったけど、そこまで突き抜けて無かったよ?』


「う~ん、そうは言われても・・・」


『まぁまぁ、別に非難してる訳じゃなくて、飯塚のこととかで色々とあったから心配してたけど、逆に元気過ぎて「おいおい大丈夫かよ」って思っちゃってね』


「だって私は・・・セージくんのことが「お待たせしました~、お汁粉とほうじ茶です~」


『あーい、有難うございます~。 鈴宮さん、早速食べよう!』


「え?あ、う、うん!」


 鈴宮は一瞬ドキっとしてしまうくらい真剣な表情をしたが、店員さんが運んできたお汁粉を見た途端、目をキラキラさせた表情に戻っていた。





 お汁粉を食べた後まだ早い時間だったので、俺んちが近所ということもあり、ウチに鈴宮を連れて行くことになった。


「やばいやばいやばいやばい・・・・」


『おいどした!急に病みだしてるぞ鈴宮さん!』


「だって・・・セージくんのお家だよ!? 心の準備が!」


『何で心の準備が必要なんだよ。 鈴宮さん、ウチ来て何するつもりなんだよ!』


「いやだって・・・結婚とかまだ早いとかご家族に反対されたら、私もう立ち直れそうにないんだもん」


『なんで結婚の話になってるの!? っていうか、多分今の時間ウチの親、留守だから』


「え!?留守ってことは・・・ゴクリ」


『待て待て待て待て! またなんか如何わしい妄想してるだろ!』


「だって・・・今日、勝負下着じゃないんだもん・・・」


『だからなんの妄想してるんだよ!』


 とまぁ、メンドクサイんだか面白いんだか、よく分からないやり取りをしつつ、家の中へ招き入れた。










  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る