#40 イメチェン




 金曜日放課後


 ねーちゃんとユキさんが久しぶりに会う土曜日を前にして、ねーちゃんとキヨカと母さんの3人で美容院に出かけた。

 俺はお留守番。


 ねーちゃん、美容院に行くの実に4年ぶりらしい。

 その間、引きこもってた時は伸ばし放題で、少し持ち直してからは自分でハサミ使って切ってたんだってさ。


 なんかソレ聞いて泣きそうになった。



 それで、ねーちゃんとキヨカがそんな話してたら、キヨカがさ「じゃあユキさんに会う前に綺麗にしましょう!」って言ってくれて、更に母さん巻き込んで3人で仲良く出かけて行った。




 仲いいのは良いことなんだけどさ、この3人が居る時、一番喋るのキヨカなんだよな。


 出かける前とかも、彼氏の姉と母親相手に株の買い付けとか譲渡の注意点とかベラベラどーでもいい話語ってるんだぜ?

 そんでねーちゃんはそんなキヨカの意図を読もうと真剣に聞いてて、母さんはゲラゲラ笑ってるの。


 多分キヨカなりに緊張解そうとしてるんだろうけど、話題のチョイスがおかしいんだよ。


 彼女が彼氏の家族とこんだけ仲良く喋るのも結構凄いと思うけど。


 女子高生の話す話題じゃないし、彼氏の家族に話す話題でもない。

 なんなら緊張してる時に話す話でもない。

 案の定、ねーちゃん緊張解れるどころか「その話から得られる教訓はなんだったの???」とか言って混乱しちゃってるし、母さんがあんな風にゲラゲラ笑うのも初めて見た気がする。








 帰って来た3人は小綺麗になってて、母さんはまぁいつも通り、キヨカは自称清楚系ボブカット、ねーちゃんはバッサリ切っててセミショートに。


『ねーちゃん、バッサリいったねぇ』


「変かな?」


『いいんじゃない? 今までのイメージと大分違うし、それに似合ってるよ』


「せーくん、ありがとうね。うふふ」


「セージくん!私にも言うことあるんじゃないですか?」

 そう言って、新しいヘアスタイルをヒラヒラ見せるキヨカ。


『おう、そうだなぁ。  今日も出稽古ご苦労様です。親方』


「おいコラ小僧、ちょっとあっち行ってじっくり話そうか?おぉん?」


『ジョーダンだって、ジョーダン。 キヨカはいつもぷにぷにしてて可愛いよ♪』


「セツナさん今の聞きました!? いつもこうやって酷いこと言って私が怒ると誤魔化そうとするんですよ! しかもぷよぷよとかぷにぷにとか酷いと思いません???」


「ん~、仲良しにしか見えないわよアナタ達。お似合いのカップルよ?」


「そ、そうですかねぇ、えへへ」


「キヨカちゃんも大概チョロいわね」


『ああ、チョロいよキヨカは』



 その後、3人のやりとりを黙って見ていた母さんに「キヨカちゃんの魅力は容姿じゃないでしょ! キヨカちゃんのこと大切にしないと本当に後悔するわよ!」と俺だけしこたまお説教された。

 俺が説教されている間、キヨカはドヤ顔でお茶すすってた。

 その様子が本当に親方っぽくて笑いそうになってしまったけど、母さんが怖くて必死に我慢した。





 いつもより遅い晩御飯をみんなで食べたあとキヨカを家まで送って行く。


 手を繋いで歩きながら

『明日は朝迎えに行くな。 色々巻き込んで付き合わせちゃって、悪いな』


「いえいえ~、嫁の務めですよ。うふふ」


『それと、明日もよろしくな。 ねーちゃんのこと助けてあげてな』


「ドーンと任せて下さい!」


『あと、髪型凄く似合ってる。 凄く可愛いよ』


「もう!最初から正直にそー言って下さいよ! ほんと素直じゃないんだからぁ」

 そう言いながらも嬉しそうに繋いだ手をぶんぶん大振りするキヨカ。


『そうかな?』


「そうですよー」


『まぁ、キヨカが素直すぎるんだな』


「そうですか?」


『そうだよ』



 キヨカの自宅に着くと、おやすみのキスして帰った。


 どうやら俺も、明日のことで緊張してきた。







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