オカルト研究部(仮)Ⅱ

「んで、どうするんだ?」


 高そうなお菓子を食べ終えたところで、ソファーにユキと並んで座っているアンナに尋ねる。

 ユキは何の話だと疑問に思っているが、アンナには伝わったようで頬を手で押さえ、


「それなのよね。どうしようかしら」

「何のことだ?」

「ユキを誘ったのはそのつもりだったんじゃないのか?」

「私?」

「皆木さんを誘ったのは単純に仲良くなりたかったからよ」

「へう!?」


 予想外の角度からのアタックにユキが変な声をあげる。

 俺からしたら意外でもなんでもないのだが……。

 アンナがユキを気に入っているのはすぐにわかった。

 物おじしない性格か、可愛らしい容姿か、はたまたその二つから生まれるギャップか。理由まではわからない。


「わ、私だって久遠と……って変なことを言わせるなよな!」

「勝手に自爆しただけじゃん」

「うるせー!」


 ユキも仲良くしたかった。恥ずかしがることでもあるまいに。


「変に意識してよ。昔のユキはもっと男らしかっただろ」

「意識なんてしてねーって!」

「あら、私は無意識のうちに皆木さんを目で追うぐらい意識してたわよ」

「そうなの!?」


 脳裏にポメラニアンが元気よく走り回る動画が掠る。


「ええ、本当よ。皆木さんは喜怒哀楽をはっきりと出すし、思っていることも正直に話すから、見ていて清々しい気持ちになれるもの」

「……海斗、私はバカにされているのか?」

「純度100パーセントで褒めてるよ」

「あれで? 変わった生命体を観察してるだけじゃねえのか?」


 だからユキの中でアンナはどんな人間なんだよ。

 見ろ。さしものアンナの苦笑いしているぞ。


「だって話かけてこなかったし。そもそも私が話しかけてもそっけなかったぞ!」

「あれま」


 話しかけるのはまだしも、話しかけられても反応薄かったのか。それなら疑問に思うのも無理ないかも。

 アンナに視線を送る。


「……正直に言って良いかしら」

「むしろ、はっきりと言ってほしい」

「皆木さん、中学の頃、特に仲良くしていた人たちいたじゃない?」

「かっちんとぷりりか?」


 アンナが頷く。

 待ってくれ。その前にあだ名について聞きたいんだけど……。

 かっちんはまだしも『ぷりり』ってなんだよ。濁音にしたらイジメに早変わりだぞ。

 元の名前も全然想像つかないし、俺の知ってる人か? それなら当てたいんだけど。

 ……などと話の邪魔をするわけにもいかず、黙っておく。


「あの二人が嫌いだったからよ」

「ええ!?」


 本当に嫌いなのだろう。笑顔なのに青筋が見える気がする。

 友達をばっさりと切られたユキは戸惑う。


「な、なんでだよ。良いやつらだぞ?」

「それは……」


 アンナは口ごもる。そしてチラッと俺の方を見てきた。

 ユキには話しづらい内容なのだろうか。


「ほらほら、嫌いな理由だなんて深堀するものじゃないだろ」

「だ、だって」

「明確な理由があっても、なくてもモヤモヤすることには変わらないって」


 それこそ生理的に合わないとか言われても困る。

 ……まあ、アンナのリアクションを見るにちゃんとした理由はあるだろうが。


「うぅ、でも友達のことだし」


 理屈はわかるが納得できないといった表情のユキ。

 このままではアンナとユキが仲良くなるのは難しそうだ。

 さてはて、どうしたものか。

 …………適当に理由作るか。


「はあ、仕方がないなあ。アンナ、あの話だろ? 俺からしてやるよ」

「えっ!?」


 珍しく狼狽するアンナ。

 俺の行動の意図がわからないのだろう。


「ユキ、かっちんとぷりりってさ」


 口にしてみてわかったが、なんか恥ずかしい。

 よくもまあ笑顔で呼べるものだ。


「三人でいることにこだわってなかったか? アンナに限らず、他の人を輪に入れたがらないとか」

「あー、そういうところはあったな。…………あっ!?」


 俺が言わんとしたことがわかったのか、ユキはわかりやすく目を見開く。


「そ、そっか! あいつら久遠にもやってたのか!」

「にも?」

「い、いやあ、私が他の奴と仲良くしてると……邪魔してくるんだよ。んで、たまに仲良くするなーって言ってたみたいで」


 アンナの態度から露骨なイジメではないと感じたので、排除型と予想したが合っていたようだ。

 アンナにもやったかはわからないが。


「独占欲が強くてさあ」

「結構嫌がりそうなタイプなのに仲良かったんだな」


 ユキは自覚があるのか苦虫を嚙み潰したような表情をし、


「二人は特別で……生まれた頃からの付き合いでよ。うーん、昔はそんな子じゃなかったんだよなあ」


 しまいには頭を抱えて唸りだした。


「かっちんは頭が良くて、ぷりりは可愛くて……まあ、ちょっと男子にからかわれていたりもしたし」


 その年頃の男の子は気になる子をイジメてしまったりする。


「気づいたら周りに厳しい感じになっちゃったんだよなあ」


 やられた方はたまったものではないが、ユキからすると邪見にするのはためらわれたのだろう。

 二人もユキの性格をわかっているのだから隠れてやっただろうし。


「……ってよ、アンナ」

「そんなところかと思ってたわよ」

「ご、ごめんな」

「気にしないで。当時を思い出して腹が立っただけで、もう気にしてないから。……二人とも島を出る前に謝ってくれたし」

「そうなのか!?」


 ユキが驚く。

 ふむ。既に島にはいなかったか。

 タイミング的には高校進学時だろうか。

 しかし、ちゃんと謝罪したんだな。まあ、島を出るってことはユキへの依存も解決したか、しようとしていたってことか。


「ええ。ただ、そのこともあって高校に入ってからも声をかける気にはなれなくて」

「うっ」

「そりゃそうだよな」

「か、海斗まで」

「さて、ユキさんや。やることはわかってるよな」


 ユキはびくっと肩を大きく震わせ、数回深呼吸をして気持ちを静める。そして、右手を前に差し出し、


「友達になってください!」


 頭を下げ、勢いよく申し込む姿はもはや告白だった。

 それに対し、アンナはその手をつかみ、


「喜んで」


 こうして凸凹カップル(?)が誕生したのだった。

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