七海の逆襲!

「くぉらー! いつまで寝てるんだー!」


 明朝、騒がしい声で目を覚ます。

 体を起こし、机の上の入部届を見る。名前の欄が埋まっていた。

 俺の字っぽくないが、眠りかけていたためだろうか。もしかすると寝ながら書いていたかもしれない。


(まあ、楽しそうだし良いか)


 海月島に帰ってきてから体調は良い。文化部だし大丈夫だろう。

 アンナと二人きり……とはならない気がする。予感というよりも確信だ。


「くぉらー! 返事しなさい!」

「怪獣ナナミンが現れた」


 どうする?


 ――攻撃

 ――攻撃

 ――攻撃


 よし!


「くらいやがれ!」

「ぎゃー!」


 アイアンクロー(軽)炸裂。

 怪獣ナナミンを倒した。経験値を1獲得、レベルは上がらない。


「なにするだー!」

「うおっ、まだ息があったか」

「うわーん! 酷いよー! 起こしてあげたのに!」


 流石にやりすぎたか。反省反省。


「悪い、つい魔が差して」

「海ちゃんは魔が差しすぎだよ。もはや魔そのもの魔王だよ」

「勇者は誰になるんだ?」

「うーん、遥先輩?」

「巫女様かあ。神通力とかありそう。強そうだし魔王の座は返上しとくか」

「やったー! 海ちゃんが人間に戻った!」

「はっはっは、俺は新人類だからな。ただの人類である君とは違うのだよ」

「ご飯できてるよー」

「スルーしないで!」


 突如飽きたのか、顔色一つ変えずに流されてしまった。

 あしらい方を覚えないでほしい。いつまでも振り回される七海でいてくれ。


「――あれ?」


 そこで気が付く。七海がエプロンをしていることに。


「ふっふっふ」

「オバサン用事あるから七海が代わりに作ってくれたんだな。ありがとう」

「えー!? 察し良すぎだよ!」 


 私が言いたかったのにと地団駄をふむ。

 そりゃわかるよ。


「さては俺を察しの悪い人間だと思ってるな」

「それは事実を通り越して史実だから」

「意味がわからねーよ!?」


 歴史上の人物にしないでくれます!?


「へっへーん、今日はお母さん用事あるから、朝ごはんは私が作ったんだ!」

「お、おう」


 こいつ平然と自分のシナリオで進めやがる。

 ……下手に否定してもメンドクサイし乗ってやるか。


「あ、ありがとう。流石は七海だ」

「ほめるなほめるな!」


 凄く褒めて欲しそう。俺たちって従妹だな。


「よっ、海月島が誇る美少女従妹七海ちゃん! 今日もきらめく笑顔が眩しいね! こっちを向いてハニー!」


 何を隠そう俺は褒め上手なのだ。

 任せろ七海! 骨抜きにしてやるよ!


「えへへへへ」


 見てください、この緩み切った顔。

 ちょろすぎでお兄さん心配です。……奏にクラスでの様子とか聞いてみるかな。

 言うて七海は好物件。変な奴にひっかからないか心配だ。

 部ではマスコット扱いらしいし、大丈夫だとは思うんだけど。


「七海」

「なーにー?」

「…………良い人見つけろよ」

「は?」

「ひっ!」


 いきなり低い声で威圧され悲鳴を上げてしまう。

 その瞳は底が見えない闇のようで……。

 理由はわからないが、俺はバットエンド一直線の選択肢を踏んでしまったらしい。

 ほら、首を傾げて七海が近寄ってくるよ。懐から包丁でも取り出しそうな雰囲気だ。


 ――俺の従妹が気づいたらヤンデレになっていた件。


「海ちゃん」

「はい……!」

「反省した?」

「……へ?」


 死を覚悟した俺は恐る恐る目を開ける。

 七海はいつもの七海だった。


「あははー、海ちゃん半泣きだ」

「う、うるさいやい! 怖かったんだよ!」


 完全に日常が戻ってきたのを感じ、安心して涙が出てしまう。


「海ちゃんが悪いんだよ」

「そりゃ、怪獣とか言ってからかったけどさ」

「はあ、これだからなあ」

「うっ、ごめんなさい……」


 確かに言い訳しようとした。七海が呆れるのも無理ない。


「良いよ良いよ。期待はしてないから」

「ぐはっ!」


 もうその域に!

 己の軽薄さを呪ったのは五回目ぐらいだ。…………ダメじゃん。


「ふふっ、でも効果テキメンだったね」

「あ、あれな。マジで怖かった。普段、ぽよぽよしてる七海だから落差が」

「誰がぽよぽよじゃい!」

「ごめん……」


 この口は何故に余計なことを。


「あっ、今のは良いんだよ! 怪獣とかも楽しんでるよ!」

「ななみぃ」


 落ち込んだ俺を励ますために嘘まで……。


 ――俺の従妹が最高な件。


「ところで誰に教えてもらったんだ?」

「奏ちゃんだよ」

「………………え?」

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