夢の狭間
電気を消してベッドに横になる。
暗闇の中、ぼんやりと天井の方を見ながらこれまでの日々を思い出す。
まだ二週間程度だが、非常に濃い日々を送っていた。
きっと楽しくも騒がしい高校生活になるだろう。
(真逆だな)
フェリーで不安を抱えていた時の事を思い出す。
今にしてみれば何をそんなに心配するとなるが、当時は本当に不安と若干の希望しかなかったのだ。
蓋を開けてみれば……これだ。
自身の単純さに苦笑する。
だが、楽しいのに越したことはない。
(さてはて、どうなるのやら俺の人生は)
あの時と同じように口元を緩めつつ、あの時より明確な期待を胸に抱いていた。
大きな期待と若干の不安。
時折、言いようのない思いに掻き立てられることがある。
説明はできないし、すぐに去ってしまう。
環境の急激な変化故とは思うが、気にならないといえば嘘になる。
(俺の他に誰か、ね)
ふいにアンナの言葉が脳裏に過る。
からかい半分だったそれまでとは違い、何かを問いただすような、確認するような……はっきりとした意思を感じた。
気のせいではと言われれば否定はできないが。
(昔のアンナはあんなに素直だったのに)
アンナだけにってかと呟き、自身に呆れる。
親父ギャグかよ。
聞くのは嫌いじゃないが、自分が思いつくと若干へこむ難しい年ごろ。
(今のアンナが嫌ってわけでは……むしろ、あれはあれで需要があるし)
大人びた雰囲気を醸し出すようになったアンナなればこそミステリアスな雰囲気が似合う。
妄想の中のアンナがセクシーポーズをとっているが、男子高校生としてむしろ当然の反応ではなかろうかと誰に言うでもなく言い訳を考える。
妄想は自由の翼。抑制される筋合いはない。
罪悪感を抱えて空高くに羽ばたけ――友人の言葉だ。
(あれ? 話が逸れてるような)
誰に邪魔されることもないのに話がそれてしまう。
一番の邪魔者は自分自身ということか。
まあ、寝る前の暇つぶしに過ぎないのだから何でも良いが。
カーテンの隙間から月光が差し込む。
光でありながら、優しさと儚さを内包したそれは心のゆとりを与えてくれる。
(月……)
意識が夢の世界へと誘われる。
途切れ途切れになる思考の中、一枚の絵が鮮明に浮かび上がった。
揺れる水面、頭上に輝く月、差し出された手を俺は……、
(俺は――)
一陣の風が吹く。ついで静寂がやってくる。
目の前にあった手はいつの間にかなくなっていた。
視線を左右へと動かし、探すが見当たらない。
『っ!』
何かが水に飛び込んだ音が耳に届く。
慌てて水際へと走るが、辺りに人影はない。
ただ水面は変わらず揺れていた。
風はなく、静寂が場を支配しているにも関わらず……揺れていたのだ。
「―――――っ!」
幼い自分が何かを叫んだ。
小さな体でできる限りの声を張り上げる。
何度も何度も……。
けれど、自身の呼吸音以外音はなかった。
涙が零れる。鼻水が垂れる。
汚く、ぐしゃぐしゃとなった顔を腕で拭いながら顔をあげた。
そして、海を見つめ、涙をこらえる。
――水面に映る月は彼の心情を表すかのように揺れていた。
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