真っ赤なお顔のユキちゃん

 ~狩猟ゲーム~


「海斗、そっち行ったぞ!」

「え!? ちょ、ちょっと助けてヘルプ死んじゃう!」

「はあ!? しかたがねーな! すぐに行くから持ちこたえろ!」

「あ、あいあいさー!」


 ~格闘ゲーム~


「おい! ハメ技は禁止だろ!?」

「そんなルールどこに書いてるのかなあ? 悔しかったらかわしてみろ!」

「絶対嫌われるやつー! 絶対友達いないだろ!」

「はああああ!? だ、だだだだ誰がボッチだ!」

「表面上は仲良くても放課後とか休日とか一緒に過ごす奴はいなかっただろ!」

「い、今はいるし! ユキがいるし!」

「ッ!?」


 ~ミステリーゲーム~


「うーん、こいつが犯人っぽくね?」

「んー? そうか? アリバイあるし、動機だってないだろ」

「はっきりとしたアリバイがあるから怪しんだよ。ミステリーゲームってのはそういうものじゃん。動機だって後から出てくるし」

「それ言っちゃダメなやつ! ちゃんと解こうぜ!?」

「頭使うのはなあ。はー、ゾンビ出てきてぶっ飛ばす展開にならないかね」

「そんな展開になったら即行売るわ!」


 ~ホラーゲーム~


「「走れええええええっ!!!」」

「「何で小走りなんだお前ええええええっ!!!」」

「「壁をすりぬけてくるなああああああっ!!!」」

「「銃をよこせええええええっ!!!」」


 涙目で叫ぶ高校生二人。

 ホラーゲームはコントローラーを持っていると恐怖が段違いだ。ユキは横で見ているだけだが。


(ホラー耐性は七海レベルだな)


 ちなみに、奏はあれでホラー耐性抜群だったりする。

 本人曰く、あくまで創作だからとのこと。文学少女恐るべし。


「はあああああああ、怖かったああああああ」


 小ボスを除霊し、束の間の平穏に浸るユキ。

 小さな胸をなでおろす様はとても高校生には見えない。

 ……口にはしない。命は大事だから。


「ユキは見てただけだろ」

「うっせ、それでも怖かったんだよ。本当、マジで怖い。これでまだ序盤なんだろ?」

「序盤だけど、まあ慣れたら大丈夫になるもんよ」

「には見えなかったけど?」

「……間が空くと耐性はリセットされるんだよ」


 一度全クリしているのだが、久々にやると非常に怖かった。


「イベントでもランダム配置があるとは思わんかった」

「あ、そうなんだ。じゃあ仕方がないな」

「やっぱり予想外が一番怖いんだよなあ。完全に気を抜いてた」

「はっはっは、久しぶりに海斗の泣きっ面見れて楽しかったぜ」

「ば、バカ野郎! 泣きっ面になんてなってないわ!」


 今も昔も。


「うそつけー、何かあったら目じりに涙ためてたくせによ。まあ、バレないように隠れてたけどさ」

「そ、そうだ思いだした! お前が逃げても追いかけてきたんじゃないか!」

「親友を一人にはできませんからねー。私、優しいので」

「優しさなんて微塵も感じなかったわ! 指さして笑ってただろうが!」

「いやー、海斗って基本天真爛漫じゃん? だからか面白くてよ」

「最低だ! もうちょっとちゃんとした理由があると思ってたのに!」


 あまり覚えていないが、母親曰く俺は結構な泣き虫だったらしい。

 でも、それを知っているのは大人たちばかりだ。

 同年代だとユキぐらいだろうか。薄々察しているのは他にもいそうだが。

 それもユキをユウキだと思っていたからで――


「はあ、情けない」

「ばーか、情けなくなんてないって」


 ユキの口調は軽い物のおちゃらけた物ではない。

 むしろ、甚く優しい。


「どこがだよ。泣き虫とか恥ずかしいっての」

「…………」


 じーっと俺の顔を見つめるユキ。何やらご不満なようだ。

 しかし、すぐに苦笑へと変わる。


「海斗がそう思うならそれで良いか」

「何だよ、気になる言い方しやがって」

「はいはい、私がわるーございました。それよりブロックゲームないの? あれめっちゃ好きなんだけど」

「露骨に話を逸らされた!」

「戻したんだよ。それで?」


 海月島に帰ってきてから思わせぶりな言葉を何度投げかけられたことだろう。

 またかと慣れ始めてしまったではないか。良いのか、それで。


(……良いか。教えてくれないし)

「かーいーとー」

「はいはい、確かこっちの箱に」


 古めのゲームを入れている箱を漁っていると扉をノックする音が、


「はーい?」

「ごめんなさいね、遊んでいるところ」


 入ってきたのは七瀬さんだった。

 夕飯の準備をしているのかエプロンを付けている。それを見てユキは慌てて、


「すみません! そろそろ帰ります!」

「あら、もしかして用事でもあったりするのかしら」

「え? い、いえ、用事はありませんけど」

「そうなの? なら、お夕飯うちで食べてかない?」


 夕飯のお誘いだった。


「へっ!?」


 狼狽するユキ。


「家の方、お夕飯用意しちゃってるかしら?」

「あ、い、いえ、夕飯は遅いからまだしてないと思います……」


 七瀬さんの笑顔が明るいものへと変わる。


「じゃあ、どうかしら? 七海ちゃんにも合わせてあげたいし」

「な、七海? 海斗の……海斗君の従妹さん、ですよね」

「ええそうよ。高校一年生、有希ちゃんの一個下、後輩ね」

「へ、へえー、そうなんですか」


 断りたいのか、口元を引きつらせつつどもるユキ。 

 ここは俺が助け舟を出すしかない。


「七瀬さん、やっぱりいきなりだと難しいのでは」

「い、いいいや! そんなことないぞ! あ、ないです!」


 しかし、何故か当の本人が舟を破壊する。

 はて、断りたいわけではないのだろうか。純粋に緊張している、だけ?


「じゃあ、食べていくのか?」

「お、おう! ごちそうさまです!」

「ふふっ、ありがとう。腕によりをかけて作るわね」


 そう言って七瀬さんは去って行った。

 階段を下りる音と共に鼻歌まで聞こえてくる。ユキを相当気に入ったようだ。


「本当に良かったのか?」


 胸をなでおろすユキに尋ねる。


「おう。大丈夫だ」


 ママには連絡しておくしと携帯を取り出す。

 表情も固くない。本当に大丈夫なようだ。

 ますます先ほどの態度の理由が気になる。


「な、何だよその眼は」

「言わなくてもわかるだろ」

「ぐ、ぐぬぬぬっ」

「……言いたくないなら別に良いけど」


 本当に嫌なら無理強いしない。


「何でそこは優しいんだよ……」


 ユキが呟く。

 そして、数秒逡巡した後、頬を薄っすらと染めながら口を開く。


「オ、オバサン可愛くて、その、ちょっと緊張した」

「…………距離が近くて?」


 コクリと頷く。

 その時、俺は猛烈に叫びたかった。


(お前が一番可愛いわあああああああああっ!!!)


 衝動を押し殺し、必死に自然な笑みを作る。


「そうかそうか。確かに七瀬さんは~~代とは思えふふふっ」

「っ!?」


 先ほどのやり取りがフラッシュバックし、感情が漏れ出てしまう。

 当然、ユキはミニトマトのように小さな顔を真っ赤に染め上げ、


「海斗のバカやろうおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」


 今日一番の大声を上げるのだった。

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