入部届Ⅱ
「へえ、オカルト研究部なんてあったんだな。しかも、久遠が部長だなんて」
どうにかユキを落ち着かせ、簡単に説明しする。
尚も信じがたいといった表情だが一応納得してくれたらしい。
「まあ、部ではないんだけどな」
「はあ!?」
「同好会でもないわ」
「ええ!!?」
なので、アンナと連携を取ってからかう。嘘ではないけど。
「ど、どういうことだよ? オカルト研究部ってのが嘘なのか?」
「「いや、オカルト研究部ではある」」
「なんでだよ!? じゃあ、部じゃん! 存在するじゃん!」
「でも「部活では」ないんだよ」
「もうオカルト研究部がオカルトじゃねえか!? 存在しないオカルト研究部じゃん!!?」
「「っ! 天才か(ね)!」」
「意味がわからねー! 誰か通訳呼んでくれー!」
少しやりすぎたか。涙目になってしまった。
ホラー耐性の低さはこの間、ゲームした時に把握したつもりだったが想像より低かったか。
「悪い悪い」
「ごめんなさい。ついからかっちゃった」
「だよね! 良かった!」
「まあ、部ではないんだけどさ」
「じゃあ何も解決してないわー! ホームズ呼んできてー!」
こらこら世界有数の探偵を呼ぶんじゃない。申し訳ないじゃないか。
彼を満足させられる謎なんてここにはないぞ。
「そして、同好会でもないわ」
「やっぱり何も解決してなーい! ルパン呼んできてー!」
こらこら世界有数の怪盗を呼ぶんじゃない。申し訳ないじゃないか。
彼を満足させられる宝なんてここにはないぞ。
……そもそも、何故にルパン? 何を盗んでもらうつもりなんだ?
「ふふっ、やっぱり皆木さんは面白いわね」
パニックに陥っているユキにご満悦なアンナ。流石です、お嬢様。
しゃーない。そろそろ助けてあげるか。
「落ち着けユキ。至極単純な話だ。まだ部として認められていないだけだ」
「ふえ? …………そういうことか! ふざけんな!」
ユキ激おこ。
がるるると獣のように唸っている。このままでは酷い目にあってしまう、俺が。
アイコンタクトでアンナに助けを求める。
「ちなみに部室はあるわ」
「なーんでだー!」
ユキは混乱した。
頭を抱え、机につっぷす。うーん、クリティカルヒット。
「どういうことだどういうことだどういうことだ……」
ちょっと怖い。
どうやって鎮めたものか。このままでは俺が酷い目にあうか、ユキが殻にこもるしか道がない。
チラッとアンナを見る。良い笑顔で任せてくれと胸を叩く。素晴らしい弾力。
「皆木さん皆木さん」
「どういうどういうどういう久遠どういうどういう海斗つぶすどういうどういうなんだよ」
……今、俺潰されなかった? 対象俺だけ? わかってるけど納得いかないよ?
「はいこれ、明日までにお願いね」
「なんだ、これ、紙」
喋り方も怖くなってるんですけど、ユキは何に進化しようとしているんだ?
いや、それよりもあの紙は、
「にゅう、ぶ、とどけ」
そう入部届である。つまり、ユキはアンナに認められたということだ。
……おそらく、マスコットとして。
「………………………はーーーーーーあ!!?」
たっぷり十秒ほど固まった後、咆哮をあげる。
わかりやすくキレている。
「お前、久遠どういうつもりだ!?」
「どうもこうも勧誘よ。同好会ですら三人は必要なんだもの」
「私は数合わせか!」
「違うわ。皆木さんと一緒にやりたいから誘ってるの」
「え!? わ、私とやりたい、だと!!? 沈まぬ太陽久遠アンナがあ!??」
教室がにわかに活気づく。だから、アンナはどんな立ち位置にいるんだよ!
「アンナ、学校でどんな伝説を残したんだ?」
「残したつもり、ないんだけど……」
流石のアンナも困惑気味。
一方ユキは震えた手で紙を凝視している。
落ち着かせてほしかったけど、方向性が変わっただけで興奮状態なんだよなあ。
「……い、いいのかよ」
口をとがらせ、目をそらしながら聞いてくる。
どうにも、引っかかることがあるらしい。あまり親しくなさそうだし、そんな私をってところだろうか。
アンナを見る。どうやら言いたいことは伝わっているようだ。
「ええ。さっきも言ったけど、皆木さんとも学園生活を楽しみたいの」
「うぐっ!」
悔しそうに声をもらしながらユキはペンを走らせる。
そして、頬を染めながら入部届をアンナへと突き出す。
「じゃ、じゃあ入ってやるよ。い、言っとくがなれ合うつもりはないからな!」
「あら、そういう子ほど落としたくなるのよね」
「ん、ぬっ……! か、海斗! お前も何か言えや!」
「ええー」
ユキのアンナへのメンドクサイもとい複雑な感情とか知らんよ。
でも、加勢しなかったら後が面倒だしなあ。
「あー、優しくしてやってくれ。懐いたら可愛いから」
「私は小動物かー!」
そう言いながら襲い掛かってきた。
ほら、小動物っぽい。
「今でも十分に可愛いじゃない」
「っ!!? うにゃー!」
「いってっ!?」
ユキさんや、照れ隠しに俺を腕を噛むのはやめてくれ。
……ちょっとだけ気持ち良かったけど。甘噛みだったからね、うん。
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