DAY21 パワハラギルド長、警察の広報に協力する
「ふふ……パトリックよ、”闇ダンジョン”の件ご苦労だったな」
「それにしても新たな”聖女”が我が国に出現するとはな。 最近内閣の支持率が下落気味であったから、ワシから教会に働きかけてやったわい」
「民衆は勇者と聖女のお涙頂戴話に弱いもの……次期宰相を狙うワシにとって最高のアピールになったと言えるな」
ゴテゴテと宝石で装飾された趣味の悪い執務机にふんぞり返りながら、満足げにワイングラスを傾ける一人の中年男。
ここは王都官庁街……ひときわ目立つ白亜の建物の最上階で、冒険者ギルド”竜の牙”のギルドマスターであるパトリックは財務大臣であるゲースゥ卿と面会していた。
「はっ……ありがたきお言葉です」
「ですが、当ギルドとしては
「できればわたくしめの功績として、ご配慮いただけると幸いなのですが……」
手放したも何も、”協会”からの処分だったのだが、パトリックの脳内では、聖女の力が発現した下請け冒険者モニカを”竜の牙”が王国に差し出したことになっているらしい。
「おお、聞いているぞパトリック。 災難だったな、堅物の協会本部がやりそうなことだ」
「まっておれ。 官僚どもの監査の目があるため、直接現金を貴様の所に渡すことは出来ぬが……ワシが考えている次の一手、貴様のギルドに頼もうと思うのだが、どうだ?」
「これは……王国警察の広報、でございますか?」
ばさり、机の上に置かれた書類の表題を読み、首をかしげるパトリック。
「そうだ。 ここ最近、周辺国から我が王国にマフィアどもが入り込みおってな、王都の治安が悪化している」
「無能な野党どもめ……敏腕財務大臣であるワシが警察予算を削減したのが原因だと騒いでいて些かうっとおしいのだ」
「そこで、民衆どもに王国警察の有能さをアピールし、支持を得ることで野党を黙らせることが第一目的」
ゲースゥ卿はそこでいったん言葉を切ると、声を潜める。
「……それに、頭が切れるワシはさらなる財テクを考えておるのだ」
「おおっ! 流石ゲースゥ卿! そ、それでその財テクというのは……」
「くくっ、実はな……まだ最終目的は秘密であるが」
「お、おおおおおおっ!?」
薄暗い大臣執務室で、財務大臣とギルドマスターの密談が続くのだった。
*** ***
「王国土着のマフィアに協力させ、たわいもない事件を解決して王国警察の有能さをアピール!
さらに連中をひそかに支援し、外国マフィアを攻撃させることで手を汚さずに治安改善、マフィアからのバックマージンも手に入れるとは……流石ゲースゥ卿、素晴らしい提案だ!」
「さすがにこのグレーな仕事は警察にはできない……そこで有能なギルドマスターである俺の出番という事だな。 清濁併せ呑んでこその冒険者ギルド……! 表の世界にも裏の世界にも顔が効くのが一流ギルドマスターよ!」
ゲースゥ卿から計画書の写しを受け取ったパトリックは、ギルドの執務室に戻り満足げに吐息を漏らす。
この仕事を成功させれば、治安協力金の名目で莫大な報酬が振り込まれる。
それだけではなく、王国の裏社会のコントロールをこの俺が一手に引き受けるのだ!
強大なギルドというのは、いざという時に備え裏社会すら手駒にする物である。
まさに先日読んだ”あなたの知らない冒険者ギルドの派閥力学丸わかりガイド”という本に書いてあった通りではないか!
「……さしあたっての課題は、俺もゲースゥ卿も土着のマフィアにコネなど無いという点だが」
「そんなもの、アイツがなんとかするだろう……それがギルドマネージャーと言うものだしな!」
相変わらず成果ばかりに目がくらみ足元を見ないパトリックは、さっそくギルドマネージャーであるクレイを呼び出すのだった。
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