DAY42 ギルドマネージャーの予選

 

「アル! 相手の戦士の弱点は雷撃だ! やりすぎるなよ?」


「ほ~いっ! (魔族的に) ぴりっと電撃~っ」



 バチインッ!



「ぐはあっ!?」


【心眼】で相手の弱点を見抜いた私の指示に従い、アルの指先から電撃がほとばしる。

 魔族的には静電気クラスの電撃なのだろうが、一直線に伸びた電撃は対戦相手の戦士を吹き飛ばす。


『戦士ロイ! ダウン!』



 うおお、一撃で!?

「閃光の」だけじゃなく、あのお嬢ちゃんも魔法使いなのか?



 満員に膨れ上がった観客席からどよめきが起きる。


「くそっ! あの地味な男が司令塔役だ! まず奴を潰すぞ!」


 地味で悪かったな!

 後衛のシューターが私の心眼に気づいたのか、クロスボウを構える。


「メジ! ”閃光”を牽制だ!」

「任せとけ!」


 ドドドドドッ!


 相手の魔法使いはBランクだが、手数で勝負するタイプのようだ。

 低ランク魔法を乱打し、ノノイを拘束した隙に私を仕留めるつもりだろう。


 アルは魔法を放った直後であり、悪くない狙いと言えるのだが……。


「……めんどい。 イオニックバースト」


「なっ!? 防御魔法と攻撃魔法を同時に!?」


 ズドンンッ!


 魔法の四並列励起クアッドまでマスターしたノノイにとっては何の障害にもならないのだった。


『魔法使いメジ、ダウン!』


「くっ……まずは距離をっ!」


 敵のリーダーであるシュータースキルは一級品だ。


 魔法戦は不利と悟ったのだろう。

 大きくジャンプし私たちから距離を取るが……。



 ダンッ!



「ばあっ♪」


 魔力で強化した脚力で、数十メートルの距離を一気に飛翔したアルが、シューターの懐へ飛び込む。


「なっ!? コイツ、タダの魔法使いじゃない!?」


 驚愕に目を見開くシューターに反撃の隙を与えず、地面に両手を突いたアルは全身のバネを使って相手を蹴り上げる。


 ぐんっ


 すらりと伸びるアルの両脚。

 鉄板で強化した靴底はシューターのアゴを的確に捉え……。



 バキンッ!



『シュータードルン、ダウン! 竜の牙Aチームの勝利!』



 わああああああっ!



 鮮やかなノックアウト劇に、沸きあがるスタンド。

 有り余る魔力で全身を強化できるアルの体術は、そこらのAランク冒険者をしのぐのだ。


「すげぇ! あのチームはノノイだけじゃねーぞ!」

「あの可愛いお嬢ちゃん、魔法だけじゃなく体術もイケるのか!」

「くそっ! 俺はクジを買いなおすぞ!」


 こうして危なげなく緒戦を突破した私たちは、注目候補の一角としてマークされることになったのだった。



 ***  ***


「にしし~! この感じなら予選はらくしょ~かなっ!」


 試合を終え、シャワーを浴びた私たちは軽い食事を採った後、競技場の出口へと向かっていた。

 魔族とバレないように耳と尻尾を隠したアルは、まだまだ暴れ足りないのかぴょんぴょんと飛び跳ねている。


「ふむ……先ほどの相手が私たちが入ったグループで一番の強敵だったからな、まず大丈夫だろう」


「ま、Sランクノノイちゃんにサキュバスちゃん……それにすべてを見通す魔眼持ちギルマネさんとか正直反則だよね」


「決勝トーナメントに上がれば他のSランク冒険者と当たる。

 そう簡単には行かないぞ?」


「そ~いうときには、ギルマネさんの魔眼でしょ?」


「ま、なるべく切り札は温存しておくものだ」


「……だね」


 ノノイが目星をつけてくれた帝国のBランク冒険者の他にも数組、気になる参加者を見つけていた。

 純魔族に対する対抗策の一つとなる魔眼は極力温存しておくべきだ。


「とりあえず、今日の試合はこれで終わりだ」


 少し早いが、明日以降に備えて家に帰ろう……そう切り出そうとした瞬間、私たちに元気いっぱいの声が掛けられる。


「あっ! クレイさんたちじゃないですか! 勝利おめでとうございます!」


 むこう側の通路から姿を現したのは、竜の牙OBで現在は世界最高峰の冒険者パーティである”羽ばたく者たち”に所属する戦士ステファンだ。


「あれが……閃光のノノイ殿に、【千里眼】のクレイ殿か」


「うふふ、最年少でSランク昇格なんやってね……同じ魔法使いとして刺激になるわぁ」


 ステファンの背後には、蒼いローブを身に着け、銀髪をオールバックに撫でつけた壮年の偉丈夫と、漆黒のローブを身に着けた妙齢の女性が立っている。


「うわ、全能のリオナールに金剛石のリードだ……初めて見た……」


「ひゃぁ☆! ううっ、思わず尻尾が出てきそうだよ~」


 ノノイとアルが鳥肌を立てながら驚きの声を上げているが、私も全く同感だ。

 もちろん、冒険者協会の資料や雑誌などでその能力は知っていたのだが……掛け値なしに世界最高の魔法使いと神官が目の前に立っている。


 ”羽ばたく者たち”の古参メンバーで絶対的な主力、リオナールとリード。

 彼ら二人が放つプレッシャーに、思わず右目の奥が疼く。


 というか【千里眼】か……いつの間に私はそんな呼ばれ方をしているんだ?

 分不相応なふたつ名に少し恥ずかしくなってしまう。


「みんな若いけど……おもろい子たちやね! 多分決勝トーナメントで当たるやろから、いい試合にしような?」


「ふむ、驚かせてすまない。 クレイ殿、ステファンを紹介してくれたこと、本当に感謝する」

「そろそろ時間か……ゆくぞステファン」


「わわっ? すいませんクレイさん、試合が迫ってるので……またゆっくりお話ししましょう!」


 そういえばそろそろ彼らの試合時間だ。

 ステファンは慌てた様子でこちらに手を振ると、試合場の方に走り去ってしまった。


「……ねえギルマネさん。 あたしたちあんなのと当たるの?」


「むむぅ……アルの全力でも苦戦するかも。 世界は広いねっ!」


「ははっ……彼らの胸を借りるのも、いい経験になるだろう」


 私は余裕ぶって二人の頭を撫でるが、内心心臓バクバクである。


 安全のためにモニカの防護魔法が掛けられるとはいえ、彼らと全力で戦って無事に試合を終えられるだろうか?

 早くもまだ見ぬ決勝トーナメントの事が心配になる私であった。



 ***  ***



 ズドンッ!


『勝者、羽ばたく者たち!』


 わああああああっ!



 競技場の外に出たところで、場内から衝撃音が聞こえ……彼らの勝利を告げるアナウンスと地響きのような歓声が響く。


 もう決着がついたのか……対戦相手は確かAランク冒険者パーティだったはずだが。

 あまりに圧倒的な実力に思わずため息を漏らした私の目に、競技場正面に掲げられた巨大な掲示板が目に入る。


 そこには各参加者の優勝オッズと、明日の対戦カードが張り出されている。


「これは……」


 現時点の優勝オッズは”羽ばたく者たち”が1.3倍、私たちが14倍。

 そちらはどうでもいいのだが、”羽ばたく者たち”の明日の対戦相手は……。


「例の冒険者か……」


 私たちの試合は夕刻に組まれている。

 明日は早めに競技場に来てこの試合を観戦することにしよう。

 そう考えた私は、既に家路についた二人の後を追いかけるのだった。

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