DAY41 ギルドマネージャーと怪しい参加者
ポン!
ポポポン!!
澄み切った春の青空に、魔法花火が鮮やかな花を咲かせる。
王国主催、第一回世界武術大会の開幕が明日に迫るなか……早朝から竜の牙へ出勤し、業務の引継ぎを終えた私は自宅に戻り外出の準備をしていた。
本日夕方、前夜祭を兼ねた組み合わせ抽選会が盛大に開催されるのだ。
「うっわ~~!! すっごい人!
うんうん! 強そうなニンゲンさんオーラもビンビン感じるね!」
2階の窓から見える大通りの様子に、無邪気に歓声を上げるアル。
主催者であるゲースゥ卿が総力を挙げて宣伝した効果があったのか、試合は明日からだというのに大通りの混雑ぶりは王国の収穫祭をはるかに上回る。
転移ポートで往来が容易な帝国人だけでなく、海を隔てた東部諸国から来たと思わしき浅黒い肌を持つ人々や、王国では珍しいエルフやドワーフなどの亜人族の姿も見える。
かくいう私も高鳴る胸を抑えることが出来なかった。
「あふっ♡ これだけのニンゲンさんにここからえっちを見せつければ、すっごい精気が取れるかも……」
「ダメだぞ?」
「(どきどき)」
相変わらずとんでもないことを言い出すアルと頬を染めるノノイをやんわりと押しとどめる。
「それより、出場者は正装で来なさいとのことだ。 ほら、ちゃんとドレスを着て」
「には~っ……このドレス、裾が長くて落ち着かないよぉ」
「もっと丈を短くしちゃダメ?」
アルのために準備したのは薄緑色の清楚なドレス。
長い蒼髪をアップに結い、上品なエメラルドの髪飾りをしたアルをより美しく彩ってくれるはずだ。
清楚な雰囲気の中にひとさじの妖艶さ……王国随一のブティックにに大金を積んで仕立ててもらった渾身のコーディネートである。
丈を短くして露出を増やされてしまってはその絶妙なバランスが崩れてしまうのだ。
「はぁ~い。 でも、このドレスとってもかわいいね♪ クレイありがとうっ!」
「ふ、まあ服もそうだが素材が極上だからな」
「きゃ~~っ♡」
「……親バカ? あんなにえっちしてるのに……」
思わず惚気る私たちに、背後から冷静なツッコミが炸裂する。
かくいうノノイは彼女のシンボルカラーである白銀のナイトドレスを身に着けている。
あえて装飾は控えめに、スタイルに自信のある彼女らしく体の線がくっきりと出るデザインだ。
「むうっ……ノノイちゃんオトナ……アルも成長期を終えればっ」
「……サキュバスの成長期っていつなの?」
豪華に着飾ってはいるが、いつも通りなやり取りを交わす美少女ふたりを連れ、組み合わせ抽選会が開かれる王立競技場に向けて街に繰り出すのだった。
*** ***
『皆様お待ちかね! 今回の出場者にはSランク冒険者が5人もいます! まずは……竜の牙代表として出場する【閃光のノノイ】!!』
うおおおおおおっ!!
壇上に立ち、司会を務める小太りの男性がオーバーアクションで観客を煽る。
そのとたん、王立競技場を埋め尽くす数万の観衆から地鳴りのような歓声が上がる。
「ふふふん♪」
歓声にこたえ、ドヤ顔でポーズを取るノノイ。
「むうぅ~っ、ノノイちゃんだけずるい」
「まあ、知名度を考えたらな」
アルと私は、ステージ脇に設置された特別エリアから檀上を見上げている。
競技場全体から歓声を浴びるノノイの様子を見て、アルがぷくっと頬を膨らませご不満顔だ。
組み合わせ抽選会の目玉という事で、Sランク冒険者が含まれるパーティはこうして個別に紹介されるのだが……。
私たち3人の中で圧倒的な知名度を持つノノイが代表者となるのは当然の流れだった。
(うーむ、特に怪しい連中の気配は感じ取れないな……というか参加者の数が多すぎる!)
魔眼を低出力で発動させ、ステージ前に集まっている参加者をサーチする私だが、人数が多すぎて確認が追い付かない。
観客席にも数千人の参加者がおり、この短時間ですべてを確認することはできそうになかった。
「閃光のノノイ率いる竜の牙AチームはBブロック7番! 続いて”羽ばたく者たち”ステファン選手の……」
ワアアアアアッ!!
司会者の声に呼応し、組み合わせ抽選会はより盛り上がってゆく。
ただでさえ競技場中に熱気と魔力が渦巻いているのだ。
「竜の牙Aチーム、ノノイ選手以外のふたりは過去の戦績が未知数のため、10倍近いオッズは魅力です!」
「ぜひ、財務局主催の慈善クジをご購入下さい! 払戻金を除いた収益は世界の恵まれない人たちに寄付されますっ!」
ただでさえ競技場中に渦巻いている熱気と魔力は、勝敗を予想するクジのオッズが発表されたことで最高潮に達する。
「うーむ……」
私はこの場で参加者をサーチすることはあきらめ、組み合わせ抽選会を楽しむことにしたのだった。
*** ***
「主催者であるゲースゥ卿への挨拶も済ませたし……晩餐会会場から料理をテイクアウトしてもう家に帰るか?」
競技場メインスタンド脇にある運営棟の最上階におられたゲースゥ卿への挨拶を終えた私たちは、一階にある晩餐会会場へ向かっていた。
ゲースゥ卿と並び立ち、参加者に声を掛けていたパトリックさんはこちらに何かを言いたげに震えていたが、イベントの成功に感動していたのだろう。
明日は朝から予選リーグがあるので、食べるもの食べたら早く家に帰って寝るのが無難だろう。
「にはっ! そだね……明日に備えて補給もしないとだしね!」
「……今日は3回までだぞ?」
「ごくっ……」
緊張から解放され、いつものやり取りを交わす私たち。
運営棟の通路は狭く、参加者たちでごった返している。
「ん、ふたりとも……無くなる前にご飯取りに行こう。 あたしスカイドラゴンの照り焼きは絶対確保したい」
「そうだな……おっと」
なぜか頬を染めている食いしん坊ノノイの言葉に晩餐会会場に向けて足を速める。
その時、脇の通路から飛び出してきた冒険者とぶつかりかけてしまう。
ビキッ!
その瞬間、右目の奥が大きく疼いた。
「くっ……なぜこんなことろで!?」
「ギルマネさん?」
先に行ったノノイが不思議そうな表情で振り返る。
私は急いで魔眼を展開するが……参加者でごった返す狭い通路である。
先ほどの冒険者の姿はもう分からなくなっていた。
「試合で……当たるかもしれないな」
「クレイ~っ! はやくぅ~!」
先に晩餐会会場に突撃したアルの、私を呼ぶ声が聞こえてくる。
「ああ、すぐに行く!」
アルに返事を返しつつ、明日からの試合に向け気合を入れなおす私なのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます