DAY19-2 ブラックギルドマネージャー、聖女の開花を目撃する

 

「んっ……クレイ、あそこっ!」


 うっそうとした木々に隠された水辺の岩陰に、どす黒いオーラを放つ門のようなものが見える。

 間違いない、”闇ダンジョン”の入り口だ。


「にはっ♪ この濃い瘴気……なつかし~っ!」


「モニカたちの姿はないな……もう中に入ってしまったのか。 アル、私たちも飛び込むぞ!」


「らじゃ~っ! あの瘴気は人間にはちょいツラいから、防御魔法をかけるねっ!」


 ぱあっ


 アルの防御魔法が、私の身体を薄く覆う。


 ありがたい!

 だが、彼女が防御魔法を使うほどの瘴気となると、モニカたちが心配だ。


 私とアルは、走ってきた勢いのまま闇ダンジョンへと飛び込んだ。



 ***  ***


「くっ……本当に瘴気が濃いな」


 内部の通路は折れ曲がってはいるが基本的には一本道で、”迷宮”タイプのダンジョンではないようだ。


 ヘルモードなど、魔界の眷属と呼ばれる妖魔型のモンスターがそこかしこに倒れている。


 どうやらモニカたちが倒したようで、刀傷が新しい。

 この手の闇ダンジョンは、最奥のボスモンスターを倒せば攻略完了となるはずだ。


「にはっ♪ ヘルちゃんまでいるとはっ! そ~と~深いところと”繋がってる”ね!

 ペットはちゃんと躾けておけと言ったのに……やっぱ魔王ちゃんぶっ飛ば~す」


「にひっ……魔族の血が疼くなっ!」


 ぽんっ、と音を立ててアルの背中に黒い羽が生える。

 アルいわく、瘴気の濃いところでは魔族モードになるらしい。


 アルの軽口は置いといて、サキュバスである彼女がここまで言うとなると、ボスモンスターの強さが心配だ。


「クレイ、あそこっ!」


 何度か角を曲がった先、行き止まりと思われる広間から、ほのかに光が漏れている……僅かに剣戟の音も聞こえてくる。


 あそこが迷宮の最奥に違いない、間に合った!



「モニカ、大丈夫かっ!」


 広間に飛び込んだ私たちが見たモノは。


「なっ……!? グランスキュラだとっ!?」


 見上げるような巨体を覆う醜悪な大蛇……高い攻撃力と幻惑魔法を使いこなすSランクモンスターであり、魔属性のモンスター……魔物の中でも上位に当たる。


 マズい、このクラスが相手ではいくらモニカと言えど……”切り札”が必要かもしれない。

 私はちらりとアルの方を見る。


「ん~? モニカおね~ちゃん……スキュラの魔法を弾いてる?」


 彼女の視線の先、気を失っているパーティメンバーをかばい、グランスキュラに対峙するモニカの姿が見える。



 ウオオオオンッ!

 ブアッ!



 雄たけびを上げた大蛇の頭が、漆黒のブレスと幻惑魔法を彼女に放つ。


「くっ……させません!」


 危ない! そう思った瞬間、モニカの手のひらが光る。

 オレンジ色の優しい光は、彼女とパーティメンバーを包み込む。


 バシュウッ!


「これは、”聖女”の力……か?」


 驚きの光景に、思わず言葉を失う。


 魔を払い、闇を撃ち滅ぼす……能力強化だけじゃない、彼女のスキル。

 あの力が、無才能者のパーティメンバーを守っていたのか。


「ううっ……”聖なる力”だぁ」

「サブイボが出るよ~……ん、でも……まだ”弱い”ね」


 魔族に対して”天敵”とも言える聖属性。

 アルがうえっ、と顔をしかめてしまうのも仕方ないのだが。


「”弱い”?」


「うんっ……モニカおね~ちゃんの”聖なる力”は、まだ全部目覚めてないねっ」

「だから……」



「くっ……」



 がくり、グランスキュラの攻撃を耐えきったモニカが膝をつく。

 顔にはびっしりと汗が浮かんでおり、顔色も真っ青になっている。


 確かに、完全に発現した”聖女”の力は、最上位の魔物であるエビルドラゴンさえ一撃で消滅させるという。


「と、いうことでっ……ここでアルちゃんのマジックアイテムの出番なのだっ♪」


 そう言うとアルは、先ほど作った光る矢、”ガードブレイク++”を取り出す。


「クレイ、これをモニカおね~ちゃんに投げつけて!

 ”心眼”を使えばどこに当てればいいか”見える”からっ」


「これでモニカの力が目覚めるのか?

 投擲には自信がないぞ……」


「だいじょ~ぶっ!」



 グオオオオオオンッ!



 戦いのスキルはからっきしなのだ……私が躊躇していると、グランスキュラが怒りの咆哮を上げる。

 マズい、とどめを刺すつもりだ!


「くっ……”心眼”!」


 迷っている時間はない!

 私はアルから”矢”を受け取ると、スキルを発動させる。


 赤く染まった視界の中、モニカの身体の中心が真っ白に光る。


「そこかっ……モニカ、受け取れえええええっ!」


「えっ……クレイさん、アルちゃん? なぜここにっ?」


 ひゅんっ!


 慎重に投げた”矢”は、思いのほか勢いよく彼女のもとに飛び……。


「いっけ~っ!」


 アルの歓声と同時に矢は紫色に輝いて。



 ぱりんっ!



 なにかが割れるような音がした瞬間、光の矢はモニカの胸に吸い込まれるのだった。

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