DAY19-1 ブラックギルドマネージャー、モニカの元へ急ぐ
モニカの孤児院を所有し、彼女に法外な家賃と修繕費を請求していた悪徳業者は逮捕された。
もう焦って依頼を請ける必要はない。
モニカにそう伝えてやろうと考えていたのだが、ギルドに出勤した私に慌てた様子のセレナさんが走り寄ってくる。
「モニカが”闇ダンジョンの攻略”に出発した!?」
どうやら、”闇ダンジョンの攻略”案件の期限が近づいて来て焦ったらしいパトリックさんが、孤児院の修繕費の肩代わりを盾に、依頼の遂行を強要したようなのだ。
「くそっ……”闇ダンジョン”は攻略難易度の振れ幅が大きく、モニカたちのレベルでも危険が大きい」
「なんとか彼女に連絡を……そうか」
彼女が魔法通信用の水晶球を持っていないことを思い出す。
こうなったら、アルの力を借りて……直接追いかけるしかない!
「セレナさん、申し訳ないですが後をお願いしますっ!」
「はい~っ、パトリックさんは適当に言いくるめておきますね」
闇ダンジョンは重要な国家案件だ……マネージャーである私が後方支援することに問題はないだろう。
私は急いで外出届にサインをすると、モニカを追いかけて走り出した。
*** ***
「にはっ♪ 闇ダンジョンか~
あれ、締まりがユルユルな魔王ちゃんの管理が悪いせいなんだよね~今度ぶっ飛ばしに行こうかな♪」
「……世界を震撼させるようなことを言うんじゃありません」
”闇ダンジョン”と言えば魔の眷属である彼女が詳しいだろう。
アルに相談したところ、ノリノリで来てくれた。
たまにアルはとんでもないことを口に出すのだが、冗談か本気か判断が付かない。
サキュバスは魔族の中でも中の下くらいのランクなので、たぶん冗談だと思うが。
街道を外れ、闇ダンジョンが出現した湖のほとりに向かう。
道すがら、私が”鑑定”したモニカの才能のことを話していたのだが。
「むむぅ……最初にビーフシチュ~を食べさせてもらったとき、アル的にちょ~っとビリビリ感じたんだよねっ」
「いい人なんだけど、サキュバス的にはちょっと苦手な”聖”のチカラ……クレイの言う”回復術A+”の才能、もしかしてっ!」
なにかぴんっと来たのか、アルのケモミミと尻尾がピコピコと動く。
「にはっ♪ クレイ、こっちに来てっ……えへ」
彼女の赤い瞳が、濡れたように輝く。
僅かに汗ばんだ両手が、私の身体を包み込むように撫でる……少し下品な表現だが、”発情”の合図だ。
「おい、アル……こんな時に”補給”か?」
もちろんアルのお誘いは魅力的なのだが、今は一刻を争う事態だ。
今夜にしなさい……アルを押しとどめようとしたのだが。
「んっ……モニカおね~ちゃんを助けるためなんだ、お願いっ♪
すぐに済むから……続きは夜のベッドでねっ」
……可愛い笑顔でそう言われてしまえば、私に断る術はなく。
「じゃ、あそこの木陰で……ぺろっ♪」
桜色の唇の間から蠱惑的な舌が覗く。
私はなすすべもなく、彼女にパクリとされてしまったのだった。
「んん~っ、出来たっ! アル特製、”ガードブレイク++”!
10分後、アルの手にはキラキラと光る矢のようなものが握られていた。
矢じりは尖ったハート形になっており、投げて使うタイプのマジックアイテムだろうか。
ぼそり、と聞き捨てならない事が補足されたような気がしたが、今は些細な事だろう。
私とアルは走る速度を上げ、モニカがいるであろう闇ダンジョンへ向かうのだった。
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