DAY18 パワハラギルド長、制裁を食らう

 

「これは何だ……俺に対する処分だと? 何を根拠に……」


 協会本部からの第一級優先通知です~。

 事務員のセレナがのんびりと運んできた書類を見た途端、パトリックの顔色が変わる。


 書類には、下請け冒険者への多重偽装依頼があったとして、”ギルドポイント”の減点とギルドマスターへのけん責処分が下ることが書かれている。

 ……”竜の牙”ほどの規模のギルドには、大したことのない処分であるが、パトリックは自分の経歴が傷つけられたと思い込む。


 世の中には”処分”を食らっても反省しない人種がいることを、クレイは失念していたのだった。


「この俺の経歴にキズを付けるなど……許される事ではないぞ」

「”密告”した犯人捜しは後でするとしてだ……とりあえず失点を挽回せねば……!」


 ガーゴイル退治に出ているモニカは午後には帰ってくるだろう……パトリックはセレナに戻ったら直接自分の所に出頭するようにと言い付けると、不機嫌そうに意識高い系ハウツー本を読みふけるのだった。



 ***  ***


 モニカの経営する孤児院の建物が、抵当に入れられている。

 興信所からその情報を得た私は、王都に戻ったその足で繁華街に向かっていた。


 ”債権者”の住所は繁華街の片隅……怪しい店が立ち並ぶ風俗街で、どうみても”カタギではない”事は明らかだった。


「にしし~、えっちなお店がいっぱいだね!

 よくぼ~の波動が、アルの尻尾にビンビン来るよ、ビンビン!」


「……アル、その見た目で発情するのはやめなさい」


 荒事の可能性もあるので、アルに”護衛”としてついて来てもらったが、彼女はサキュバスらしく繁華街に立ち並ぶアダルトなお店に興味津々なようだ。

 ケモミミと尻尾を隠しているので、いたいけな少女が夜のお店に対してハァハァしているようにしか見えない。


「あそこか……」


 情報に会った通り、路地の片隅の雑居ビル。

 ストリップ劇場の2階が”債権者”のオフィスらしい。


「なっ!? なんだお前! ここをどこだと……怪我してぇのか!」


 一応、入り口には見張りが建っており、私が彼を無視して中に入ろうとすると、ナイフをちらつかせて脅してくる。


「……私はこういう者だが」

「東街区の私設孤児院の件で、債権者に確認がしたい」


「……チッ」


 私が王国公認のギルド章を示すと、舌打ちを一つ男が引き下がる。

 そう、冒険者ギルドは公に認められた治安組織の一つであり、ある程度の警察権が認められている。


 私は、”心眼”を発動させつつ建物の中に入る。

 なるほど、”空き部屋に誘い込んで一斉に襲い掛かる”という作戦か。


 見張りの男が後ろをついてくるのを感じながら、建物の内部を迷いなく進む。

 なにしろ、ヤツの心を読めばボスがどこにいるかまるわかりなのだ。


(なぜボスの部屋が分かるんだこいつ……! しかも、ガキの女連れだと!?)


 視線を投げなくても、背後の男が焦っているのが手に取るようにわかる。


 廊下の両側にある部屋からガラの悪い男たちが次々に出てきて、私の後を追いかけてくる。

 やれやれ……心眼を使わなくても殺気がバレバレだな。


 私は、アルに目配せすると一気に足を速め、連中の”ボス”がいる部屋に飛び込む。


「おいっ! てめえっ!」


 いよいよ余裕がなくなったのか、追いかけてきた連中がナイフを手に斬りかかってくる。


「へへっ……ばあっ!!」


 カッ!


 その瞬間、クルリと振り返ったアルの全身から、紫色の光が放たれる。


「……あっ……」


 ドサドサッ


 意識を失い、折り重なるように倒れ伏す男達。

 ”容疑”段階でむやみに攻撃するわけにはいかない。


 彼女に使ってもらったのは、集団鎮圧用のスタン魔法。

 殺傷能力は低いがアルの魔力があればごらんのとおりである。


「なんだ貴様らっ!

 このワシを誰だと……」


 部屋の中にいた、でっぷりと太ったマフィアのボス。

 お決まりのセリフが放たれる前に私の”心眼”がより真っ赤な光を放つ。


「でたっ! クレイの”魔眼”だっ!」


「うあっ……がくっ」


 ここぞという時にしか使わない私の切り札だ。

 ボスの瞳から光が消える。


 孤児院の件について、証拠を出してもらおう。

 私が念じると、ボス自ら金庫から一枚の書類を取り出してくる。


 やはり……連中はあの孤児院の建物を元の所有者をだまして手に入れ……入居者であるモニカに法外な家賃と修繕費を要求していたというわけだ。


 もちろん完全に違法である。

 私はアルと協力して証拠の品を整理し、王国警察に通報したのだった。



 ***  ***


「へへっ……悪は滅んだね、ぶいぶいっ!」


「協力ありがとな、アル」

「頼もしかったぞ」


「には~っ♪」


 連中が逮捕されるのを見届け、私とアルは家路を急ぐ。

 これで、モニカが焦って依頼を請ける必要はない。


 明日モニカに教えてやろう。

 満ち足りた気分で帰宅した私。


 しかし翌日……いつものように出勤した私は、驚きの情報に接することになる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る