DAY12 ブラックギルドマネージャー、スカウトする

 

「には~っ♪ 寒い冬にあえてアイスクリームという選択っっ!」


 なぜか通年営業しているアイスクリームスタンドに飛んでいくアル。

 ”闇ダンジョン”の件で頭を悩ませている私……だが、アルとの大切な時間は、のだ。


 粉雪が舞う休日の午後、私はアルと街に繰り出していた。


「へうっ!? 美味しいけどちべた~い!」


 きっちりコートを着込んでいるものの、その下は薄着なアル、アイスクリームにチャレンジだ!

 と、はちみつアイスを頬張るも……やはり頭にキンキン来たらしく、こめかみに人差し指を当て顔をしかめている。


「ふふっ、流石のサキュバスさんも”頭キンキン”には勝てなかったか……ほら、暖かい紅茶だぞ」


「ありがとうクレイ……ちゅ~っ……へへへ」


 私が紙コップに入った暖かい紅茶を差し出すと、小動物のようにストローを吸い、にへらっと笑うアル。


 ああもう、可愛いな……思わず私はそばにあったブティックに駆け込むと、ファーが付いたマフラーを購入する。


「ふわっ……ふわふわマフラー、あったか~いっ!」


 先日の件で”外補給”にハマってしまい、より薄着になったアルだが、さすがに粉雪が舞う寒空では私の方が凍えてしまう。

 今日は家でするからな?


 炎魔法で汗をかきながら雪空の下で……ってろまんちっく~!

 とんでもないことを言うアルに釘を刺しつつ、私たちはデートを続ける。


 気が付いたら、普段あまり来ない地区に来たようだ……中心部の豪華な石造りの建物に比べ、こじんまりとした木造の建物が多い。

 比較的庶民が住む住宅街だ。


 特に観光名所もないので、中心部に戻るか?

 そうアルに声を掛けようとしたところ……彼女は風上に向かって鼻をクンクンしている。

 なにかを嗅ぎつけたようだ。


「これは……美味しそうなビーフシチュ~!」


「こっちだ~!」


 私には分からなかったが、雪交じりの風に乗った食べ物の臭いを嗅ぎつけたのだろう。

 アルが住宅街の路地にダッシュする。


 まったく……えっちとごはんに目がない子である。


 私も急いで彼女の後を追いかける。


 長屋のような集合住宅が密集する区域で、通路も入り組んでいるが……私はとある事情でアルのいる場所が分かるので、彼女の気配がする方向へまっすぐに進む。


 この先にあるのは確か……住宅が途切れた先、王都を流れる小さな小川。


 川面に面して開けた土地に、2階建ての建物が建っている。

 古いがどことなく温かみのある建物の中から、アルの言う通りビーフシチューの匂いが漂ってくる。


 まさか……入り口のドアにはフラワーリースが掛けられ、”お気軽にお立ち寄りください”と優しい字体で書かれた表札が掛けられている。


 かちゃ……。


 半ば確信をもってそのドアを開けると……。


「には~っ! すっごく美味しい!

 おね~さん、おかわりっ!」


「あっ、おねえちゃんだけずるい! あたしもあたしも!」


 優しそうな金髪の女性からビーフシチューのおかわりを貰うアルの姿が見えたのだった。



 ***  ***


「とんだご迷惑を……ウチの食欲魔人がすみません」


 ぺこん!


「へうっ!?」


「いえいえ、こんなに美味しそうに食べてもらえれば作り甲斐がありますよ」


 10分後、遠慮という言葉は辞書には無いと言わんばかりにビーフシチューを平らげたアルにチョップをかましながら女性にお礼を言う。


 楽しそうに笑う女性は20歳手前だろうか……しっかりと鍛えられた体躯にすらりとした長身。

 今も数人の子供たちに囲まれている。


 彼女の子供にしてはみな大きい……もしかして。


「ここは……私設孤児院ですか?」


「はい、わたしの名前はモニカ。

 ”無才能”の子供たちを養いながら……”プライベート”の冒険者で生計を立てております」



 ”無才能”とは魔法やスキルの才能が現れないことを表わし、冒険者以外でもまっとうな職に付くことは難しいため、”捨て子”になることも多い。

 ”プライベートの冒険者”とは、ギルドに所属せず直接依頼を請ける冒険者のことだ。


 手数料が不要なため、利益が大きくなるが……最近は”信用・管理”の面から、ギルドを通すように王国政府も指導している。

 子供たちを養うためだと思われるが、経営は苦しいんじゃないだろうか?


 修理されず壊れたままの魔法照明や、つぎはぎだらけの子供たちの服装。


「申し訳ありません……正直資金繰りが厳しく、最近は子供たちにお腹いっぱい食べさせることも……」


 私の視線に気づいたのだろう、新緑を思わせる緑の瞳に苦悩の影が差す。

 ……どうやら、一人で半分近くのシチューを平らげたアルの保護者として少々責任がありそうだ。


「実は……私は”竜の牙”のチーフマネージャーで、契約して頂ける冒険者の方を探していたのです」


 私は居住まいを正すと、常に持ち歩いている名刺を手渡す。

 まだ”鑑定”はしていないが、身のこなしから推測するに、確かな実力がありそうだ。


 いくつかの依頼をこなしてもらう事で、ギルドの上位メンバーの手を空ければ”闇ダンジョン”の対応もできるだろう。


 私はチーフマネージャー権限で出せる最大限の契約条件を彼女に提示するのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る