DAY11 ブラックギルドマネージャー、ハズレ案件に困る 

 

「闇ダンジョンの出現ですか……周辺諸国と緊張が高まる昨今、国内にこんなものが出現しては国防部もお困りでしょう」


「はい、ええ……もちろん!

 我が”竜の牙”に任せて頂ければ、たちどころに……はい、料金についても財務大臣とも話が付いておりますので今回はお安く……」


「今後ともご贔屓にお願いいたします」


 ぷつっ


「ふふふ……ついに”王国”の直轄案件を受注できたではないか!」

「これも俺の……たぐいまれなるセンスと知識のおかげという事だな!」


 王国の要人と魔法通信を繋いでいたパトリックは、”商談”がまとまり、満足そうに紫煙をくゆらせる。


 国の直轄案件を受注することは、国内……ゆくゆくは世界を目指すうえで登竜門とも言える。

 オヤジがなしえなかった世界進出……俺の代で実現してみせる。


 野望を抱くパトリックはしかし、受注するために適当に提示した金額が、ことに気づかないのであった。



 ***  ***


「マジか……この金額で”闇ダンジョン”を攻略しろとか、無茶にもほどがある」


 年が明けて一の月……王都がすっかり白雪に覆われたころ、上機嫌のパトリックさんが私の執務室に襲来する。


 なんでも……

「ついに王国直轄案件を請け負ったぞ!」

「これで君もじきに世界最大の冒険者ギルドのチーフマネージャーだな!」

 という事らしいが……”国家案件”を1つ受注したくらいで世界一になれるのなら、ほかのギルドは宇宙一になっているだろう。


 得意絶頂のパトリックさんは小脇に”公共案件攻略術 ~目先の利益に惑わされない者が勝利を掴む~”と書かれたハウツー本を持っていたので、十中八九アイツのせいだろう。


 ”目先の利益に惑わされない”とは、採算ラインの半値以下で厄介な案件を受注することではなく、将来的な利益につながる種を、あえて赤字でも取りに行こう! という事だと思う。


 ”闇ダンジョンの攻略”。


 この世界では、突発的にダンジョンが出現することがよくある。


 そこでは様々なレアアイテムやお宝が入手できるので、ダンジョンの攻略は冒険者ギルドの主要業務になっていた。


 その中でも闇ダンジョンとは、魔界から吹き出す瘴気が作り出すいわゆる”ハズレ”ダンジョンで、攻略が面倒な割に見入りが少ない。


 そのせいでお役所からの依頼になることが多く……誰もやりたがらない”ヨゴレ”の案件となっていた。


 しかも、一度”ヨゴレ”の案件をこなしてしまうと、これ幸いと引き続き似たような案件が降ってくる……ギルドマネージャーやりたくないことランキングの上位に位置する案件なのだ。


「しかも”お役所案件”の値上げは大変だぞ……」


 一度安く請けてしまうと”前例”として扱われるので、その後の値上げが困難になる。


 こんなこと、冒険者ギルド界隈では常識なのだが……相変わらず意識高い経営コンサル(笑)や、理想論全開のハウツー本(笑)(笑)ばかりにかまけ、現場の知識を学んでくれないギルドマスターである。


 流石にこの金額では、請けてくれる所もないだろう……私はストックしておいた利益率の高い依頼と組み合わせ、なんとか付き合いのある下請けさんにお願いできないか、深夜の執務室で頭を悩ませるのだった。

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