DAY47 目覚めた天井

 

 世界が白に染まっている。

 足取りはふわふわと覚束なく、頭の奥がガンガンと痛む。


「!!」


 全身の気だるさを振り払い、辺りを見回すと一人の少女がうつぶせに倒れているのが見える。

 いつもの冒険着に美しい蒼髪……アルだ。


 白い斑点が浮かんでいた翼は艶やかな漆黒に戻り、漂う魔力にもおかしなところも見られない。


「よかった! アル!」


 安心した私は彼女に駆け寄り、その華奢な身体を抱き起す。


「……えっ?」


 だが、こちらを向いた彼女の顔をよく認識できない。


 ずずずずっ


 その顔が、醜悪な笑みを浮かべる純魔族デルモーザの姿へと変わっていく……。


「う、うわあああああああああっ!?」


 ***  ***


 自分の叫び声で目が覚める。

 目を開いて最初に見えたのは白い天井。

 ここは……どこかの救護室か。


 がちゃっ


「ギルマネさん! 気が付いたんだね」


 私が周囲を見回していると入り口の扉が開き、回復薬を手に持ったノノイが入ってくる。


「待ってて」


 ノノイは私の上半身を起こし、回復薬を飲ませてくれる。


 ぱあああっ


 それだけではなく、消耗した魔力の補充までしてくれた。


 ノノイの手当てによって、頭の奥にこびりついていた頭痛が徐々に消えてゆく。

 窓の外から差し込む夕日……少なくともあれから半日は経っているのか?


「結局……あの後どうなったんだ?」


 一息ついた私は、あらためてノノイに尋ねる。


「うん……あたしもおととい目覚めたばかりなんだけど……」

「大聖堂の天井を丸ごと吹っ飛ばした大爆発……あたしがとっさに張った防御魔法のお陰で……致命傷は免れたんだ」

「爆発を目撃して助けに来てくれたステファン君の話では……彼らが駆け付けた時にはすでに純魔族デルモーザとアルの姿は無くて……」


 自身も記憶があいまいなのか、思い出しながら途切れ途切れに話すノノイ。


 って、待て。


 ノノイが目覚めたのがおとといだと?

 あの夜から一体何日経っている?


 がちゃっ


「そこからの顛末は、我らがお話ししよう。 クレイ殿はまだ寝ていた方が良い」


 ひとまず情報収集を……ベッドから降りかけた私を押しとどめたのは、”羽ばたく者たち”のリードさんだった。



 ***  ***


「そうですか……」


 うすうす予感していたことだったが、私は1週間も眠っていたようだ。


「ああ。 クレイ殿が大聖堂に向かった後、我らは王立競技場の様子を探っていたんだが……」

「突如二体目の純魔族の気配がしたと思った瞬間、大聖堂が大爆発を起こし、王立競技場がまばゆく輝きだしたんだ」

「その光は瞬く間に王都中心部を覆っていき……やむを得ず撤退した我々は、瓦礫の中で倒れていた君たちを救助してここ……レイド村に拠点を移したというわけだ」


 なるほど……私は窓の外を見やる。

 外では竜の牙のスタッフたちをはじめ、たくさんの冒険者たちが忙しそうに行き来し、物資の確認や各地のギルドとの連絡を取ってくれているようだ。


「あとこれは、リオナールが遠隔探査魔法で調べてくれたんだが……」

「王都は黒幕と思われる純魔族デルモーザが作り出した”光の牢獄”に完全に覆われてしまっており、逃げ遅れた数万の人々が人質となっている」

「さらに……」


 リードさんが言いにくそうに言葉を濁す。

 だが、大聖堂で起こった出来事により、私は現在の状況をうすうす予想出来ていた。


「王都を包んでいる”光の牢獄”は【魔】ではなく、【天】の力で作られている……ですね?」


「うむ……」


 やはりか……。


 恐らく、私の【魔眼】をトリガーとし、アルの身体の中に眠る天使の力を全開放したのだろう。

 だが、そのままでは長く持たない……そこで逃げ遅れた王都住民から少しずつ力を奪う事で”光の牢獄”を維持しているのだろう。


 純魔族デルモーザ、奴の企みを邪魔させないために。


「ノノイ、ありったけの回復アイテムと食事を持ってきてくれないか?」


 私はそうノノイに声を掛ける。


「おっけ、待ってて!」


「クレイ殿?」


 恐らく、残された時間は長くないだろう。

 私の大事なアルを……人質となった王都の人々を解放できるのは私しかいない。


 私はそっと右のこめかみをさする。

 いつもなら感じるはずの魔眼の疼きがきれいさっぱり消え去っている。

 これならば、行けるかもしれない……私の頭の中で、1つの反抗作戦が急速に形作られていくのだった。

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追放被害者を助けたい! ~”ざまぁ”のフォローに勤しむ中間管理職、勇者や聖女に成長した彼らとの絆で大逆転する~ なっくる@【愛娘配信】書籍化 @Naclpart

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