DAY5 ブラックギルドマネージャー、新人研修すらさせてもらえない
「えへへ、いってらっしゃ~い!」
ぶんぶんと手を振るアルに見送られ、ギルドに向かう。
今日は、アルが一生懸命作ってくれたお弁当付きだ。
少しだけ不格好なサンドウィッチが、彼女の性格を表わしているようでかわいい。
……そんな幸せな気分は、出勤するなり吹き飛ばされたのだが。
「クレイ! なぜ新人にスライム退治なんぞさせているんだ!」
「早く俺が受注したモンスター退治を進めろと言っているだろう!」
期日まで10日以上あるにもかかわらず、遂行表が進んでいないことを目ざとく見つけ、執務室に怒鳴り込んでくるパトリックさん。
普段は個々の依頼の状況なんて気にしないくせに、一体どういう風の吹き回しだろうか。
……ちらりと”タスク管理と部下の掌握術”なる、意識高そうな本の表紙が見えた。
十中八九アイツの影響だろう。
「しかも、”才能の腕輪”を持ち出したな?」
「マジックアイテムに”回数制限”がある事は知っているとおもうが、”才能の腕輪”を1回使うと、500センドかかる計算だ。 今年は経費が厳しいんだ……むやみに使うんじゃない!」
「……Dランク以下の依頼と、マジックアイテムの貸与については、裁量権を頂いていますが」
「今年の予算内に収まることは確認済みです」
こうなると正論なんて言っても無駄なのだが、一応反論しておく。
「今回の依頼は重要案件だと言ってるだろう!」
「その新人とやらは”才能もち”だろう! ならば、今回の依頼は楽勝なはずだ!」
「明日は王都祭で祝日だが……4日以内に終わらせないと、君は降格だ! いいな!」
言いたいことだけ言って、パトリックさんは出て行ってしまった。
「当たり前のことをしてるだけなのに、災難っすね、クレイさん。
”稼いでる”のは現場の冒険者なのに……数字しか見ないからな、あの人は」
ちょうど依頼の完了報告に来ていた魔法使いの青年がうんざりとした口調で愚痴をこぼす。
「ま、そう言わないで」
「パトリックさんはまだギルドのやり方に慣れてないのさ」
「それより、こんどパトリックさんから無茶なことを言われたら、私に相談してくれよ」
「りょ~かいです、ホントにクレイさんは損な役回りっすね……ありがとうございます!」
組織において、不満の芽は早めに摘み取っておく必要がある……気持ち色を付けた報酬を手渡すと、魔法使いの青年は苦笑しながら礼をいい、執務室を退出する。
入れ替わりで入ってきたのは新人戦士のステファンだ。
「お疲れ様ですクレイさん!」
「スライム退治、無事に完了しました!」
「なんと、レベルアップで3つもスキルを覚えました!」
「僕、自信が付きそうです!」
嬉しそうに報告書を提出するステファン。
スライムとはいえ、デビュー戦で上位種を含む7体を退治か……しかも、クロス斬りを含め、3つのスキルを習得している。
新人戦士として、破格の成績と言える。
だが……
ギルドメンバーは無理な依頼なら断ることができるのだが、そんなことをしたらパトリックさんはステファンを解雇するかもしれない。
私が降格されるだけならどうでもいいのだが、ギルドのためにも将来性豊かなステファンを潰すわけにはいかないのだ!
私は
そんな事をしていたら、またもや帰宅が遅くなってしまうのだった。
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