DAY6 ブラックギルドマネージャー、お祭りデートでアイテムゲット

 

「には~っ!」

「クレイ! あれも買って~!」


 ぴゅ~ん、とチョコバナナの屋台に突撃するアル。


 今日は楽しい王都祭……大通りに面した建物は赤青金銀の鮮やかな布で飾り立てられ、たくさんの出店が軒を連ねている。


 トッピングするチョコレートは、ミルクとビターから選べるようだ。

 自分用にビターを、アル用にミルクを注文する。


「ほい、汚さないように食べるんだぞ」


「やたっ! ありがとうクレイ!」


 たっぷりとミルクチョコレートを掛けてもらい、串に刺さったチョコバナナを手渡すと、美味しそうにしゃぶりつくアル。


「ぺろっ……んっ……むちゅっ」


「……こら、アルさんや」

「えっちな食べ方をするんじゃない」


「えへへ、つい……ごめ~ん!」


 サキュバスらしく、やけに頬を紅潮させ、唾液たっぷりにチョコレートを舐めまわすアルに思わずツッコミを入れる。

 いたいけな子供たちの教育に悪いじゃないか……。


 10歳くらいの純朴そうな少年が、アルの食べっぷりを見て顔を真っ赤にしているのが見えてしまった。


「ぱくっ! 甘くて美味し♪」


 しっかりとコートを着込んで嬉しそうに飛びはねるアルは、ケモミミと尻尾を魔法で隠している。


 アルの尻尾はいかにも”魔族!”感満載の黒くて尖ったヤツなので、トラブルを避けるためにこうしている。


 こうしてると普通の人間と変わらないな……感慨深く眺めていると、彼女は私が買ったビターチョコも気になるようだ。


「……ねね、クレイ! そっちもひとくち舐めさせて!」


 ビター度が相当高いので、おこちゃま舌のアルはやめといた方がいいと思うが……。

 だが私にきらっきらのアルの眼差しにあらがう力はなく……。


「……ぺろっ」

「うええ、にが~いっ!」


 予想通り、ビターチョコをひと舐めして顔をしかめたアル。

 その様子があまりに愛らしかったので、口直しに甘い綿菓子を買ってやることにしたのだった。


「それにしても……ステファンの件、どうするかな?」


 綿菓子が出来上がるのを待つ間、どうしても気になるのは休み明けの事で。

 いくらステファンがS+ランクの才能を持つとはいえ、実戦一度だけで本格的なモンスター退治をさせるのは危険すぎる。


 依頼書に書かれていた相手はグランオーク。

 厄介な魔法は使ってこないが、ベテラン冒険者でも気を付けた方が良いBランクモンスターだ。


 パトリックさんは机上の能力だけしか見ないので、S+の才能があれば楽勝だと思ったようだが。

 才能も、レベルがついて来てこそ輝くのは当たり前である。


「ん~、クレイ……またお仕事のこと考えてるの?」


 アクセサリーの出店を冷やかしていたアルが戻ってくる。

 表情から、仕事を気にしていると悟られてしまったようだ。


 いけない……今日は貴重な休日である。


 良い仕事をするためにはオンオフの切り替えが重要……それに、今日は楽しいアルとのデート。

 プライベートに仕事を持ち込むなど、仕事人として失格である。


「もしかして、例の戦士くんのコト?」

「S+クラスの才能持ちかぁ……そだっ!」


 昨日の夕食で話した内容を覚えていたらしい。

 アルは一瞬考えこむと、いいことを思いついたと悪戯っぽい表情を浮かべる。


「ねっ、クレイ……こっちに来て」


 アルは、私の手を引くと通りから外れた路地裏に歩いてゆく。

 祭りが最高潮に達しているからか、路地裏には誰もいない。


「”才能開花”のマジックアイテム……アル作れるよ?」


「そのためには……とびっきりの”羞恥色精気”がほしいなぁ♪」


 アルの赤い瞳が蠱惑的に輝き、はだけられたコートからすらりとした生脚がのぞく。


 まさか……ここでするつもりか……?


「ちょっと待てアル! 外でとか……誰かに見られたらどうするんだ?」


「えへへ……遮蔽魔法っ!」


 しゅん!


「これで周りからは見えないよ……じゃあ、クレイ……だいすきっ!」


 ぱくっ!


 外から見えないと言っても、こっちから通りは丸見えなんだがっ!!


 ……10分後、私の手には七色に輝くオーブが握られていた。


「には~っ! いつもよりこーふんしたねっ!!」


 無邪気に笑うアル。


 愛らしくも蠱惑的なこの子のお誘いを断ることは、一生できそうにないと改めて実感したのだった。

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