DAY39 ギルドの転機

 

「は? 私がギルドマスターを兼任するんですか?」


 鉱山跡での騒動から1か月余り……Sランクに昇格したノノイと協力してあの純魔族の足取りを調べているが特にめぼしい成果はなく。


 アルの様子にも特におかしいところは見られず……むしろ以前よりえっちに積極的になり、ノノイとの3人プレイのお誘いを必死にごまかす騒がしい日々が続いていた。


 世界武術大会の開催が来月に迫る中、様々な雑務に追われていた私のもとに突然パトリックさんから告げられた通達がこれである。


「はい……なにやら”財務局特別顧問”という役職に就かれるらしく、竜の牙のギルドマスターを辞されるそうです」

「名誉総裁という肩書でギルドに籍は残すそうですが、当面の運営はクレイさんに任せる……と」


 困惑気味のセレナさんが持っている書類には、パトリックさんのサインとゲースゥ卿の魔法印、冒険者協会本部の承認印までが押されており、すでに事務手続きは完了しているようだ。


「あれだけ『竜の牙で世界の冒険者ギルド界に革命を起こす!』と言っていたのになんでまた……」


 その”革命”がどんな物かは一度も具体的に伺ったことは無いが、出世欲だけは人一倍のパトリックさんである。


 特別顧問とはいえ、言ってしまえば中小国である我が王国のお役所勤めで満足するとは思えないのだが。

 まぁ、長く続いた不摂生を反省し、老後生活に向けて安定志向に方向転換するならとても良いことではないだろうか。


「ギルドマスターを兼任するとなると、事務作業の量が膨大になりますね……事務職員を増員したいのですが?」


「はいっ! 既に募集を掛けていますがたくさんの応募をいただいています。 女性職員たちも、これでセクハラを受けずに済む~ってモチベーション爆上げなんですよ~」


 嬉しそうに書類を抱くセレナさん。

 私は以前から提案していたものの、パトリックさんに却下されていたギルドの改革案を実施すべく動き出すのだった。



 ***  ***


「クレイ、昇進おめでと~っ!!」


 ぽぽぽん!


 アルが嬉しそうに両手を突き上げた瞬間、クラッカーの破裂音が部屋中に響き、金色の紙吹雪が宙を舞う。


「じゃ、あたしも」


 しゅいん!


 ノノイが右手を掲げると、手のひらから七色の閃光がほとばしる。

 極限まで威力を絞っているのか、光は紙吹雪に当たると反射し、キラキラと幻想的な光景を作り出す。


 ふたりとも私の昇任を祝ってくれている。

 攻撃魔法を無害な威力に制御し、パーティに色どりを添える舞台装置にするなんて、相変わらずの超絶技巧である。


 テーブルの上には湯気を立てるフライドチキンやみずみずしいレタスを使ったサラダ、私の大好物である肉汁たっぷりハンバーグなどが所狭しと並んでいる。


 まあ二人の料理の腕は壊滅的なので、自分で作ったのだが……。


「にしし~、それにそれに! クレイにとっておきのプレゼントを用意したよっ!」


 ばばっ!


「てれてれ……」


 丈の長い黒マントを着込み、全身をすっぽりと覆っていたアル。

 掛け声とともにマントを脱ぎ捨てる。

 なぜかノノイも一緒だ。


「こ、これは……」


 マントの下から現れたのは、スレンダーな肢体を清楚な白のワンピースで包んだアルの姿。

 短い丈から覗くふとももは艶めかしく、しかも極限まで薄い素材で出来ているのか大事なところが見えてしまいそうで……。


「美味しいご飯を食べた後は~、ノーウェイトでふたりともいつでもオッケーだよ! いっぱい楽しんでね!」

「えっち道具もたくさん用意したよ!!」


「てれてれてれ」


 にぱっと笑うアルとは対照的に、同じ服装をしたノノイは恥ずかしそうにもじもじしている。


「……ってアル、お前がやりたいだけだろう?」

「あと、さんぴーはダメです!」


「には~っ、バレた~っ♡」


 私が叱りつけると、ぴゅ~っと台所に逃げていくアル。


 やれやれ……私がため息をついていると、ノノイが音もなく近づいてくる。


「ん、ギルマネさん。 あたしはいつでも大丈夫だから……」


 頬を染め、瞳の中にハートマークさえ浮かべながら危ないセリフを吐くノノイに一瞬心配が募る。


「……じゃなくって、これ」


 はっと正気に戻り、ピンクな空気を振り払った彼女は小さな紙片を私に渡してきた。


「これは……」


 その紙に書かれていたのは7つの数字。

 冒険者ギルドで使う符丁で、”ターゲットを発見した”という意味になる。


 私はノノイに頷き返すと、台所に隠れたアルを探しに行くのだった。

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