DAY38 パワハラギルド長の財テク、散る

 

「クレイの奴め……『ミスリル銀の有望な鉱脈は見つからず』とはどういうことだ!」

「それに……危険なモンスターや”魔族”の出現が確認されたため、鉱山ごと【封印】するだとっ!?」


 久しぶりに戻って来たギルドの執務室で、クレイが提出してきた報告書と、時を同じくして冒険者協会本部から届いた通達に目を通したパトリックは呆然と立ち尽くす。


「なにが”国内需要の数十年分を超す大規模鉱脈が存在する可能性大!”だっ! あの詐欺師めがっ!」


 パトリックは2通の書類をくしゃくしゃに丸めると、憤激のまま床にたたきつける。


「くそっ! 実際に鉱山跡から採れたというミスリル銀の鉱石を見せられたから信用してしまった!」


 ……実際にミスリル銀の鉱脈は存在したのだが、その量は採算が取れないほど少量だった。

 そのわずかな鉱脈もノノイの閃光魔法で綺麗さっぱり吹き飛んでしまっていた。

 見せ金でカモを釣る、詐欺師の典型的な手段と言えた。


「詐欺師のヤツはもう逃げた後か……クソおおおおおおおっ!」


 ガキン!


 当然のごとく繋がらない通信魔法に、更に逆上したパトリックは通信魔法用の水晶球を床に落として蹴り飛ばす。


 くらっ……


 頭に血が上ったからか、襲ってきためまいによろめくパトリック。


「……くっ、いかんいかん。 医者からあまり怒りすぎるなと言われているんだった」


 戸棚から高血圧に効くという魔法薬を取り出すと、冷たい水で一気に流し込む。

 僅かに冷静さを取り戻したパトリックの脳裏に、ある疑問が浮かんでくる。


「待てよ……休止中とはいえ、鉱山の封印がなぜ簡単に承認されたのだ?」


 現在、件の鉱山の採掘権はパトリックの物になっているのだが、鉱山自体は王国政府 (というか財務大臣であるゲースゥ卿)の所有物である。


 採掘者は毎年一定の税金を政府に収める必要があり、僅かな金額とはいえ収入が減る”冒険者協会による封印”をゲースゥ卿が簡単に受け入れるとは思えない。



 キンコン……キンコン



 その時、床に転がった水晶球が軽快な音を立てながら赤く明滅する。

 この着信色は……ゲースゥ卿だ。


「ひっ!?」


 もともとこの案件はゲースゥ卿への借金を返し、好き勝手に使われている現状を打破するために秘かに進めていたモノだ。

 採掘権の名義はダミーカンパニーの物にしてあるし、簡単にバレるわけがない……。


「…………ごくっ」


 とにもかくにも、通信を無視するわけにはいかない。

 パトリックは生唾を飲み込むと、恐る恐る通信魔法を繋ぐ。


『くくく……パトリックよ、残念じゃったな』

『少し話したいことがあるでな、今すぐ財務局まで来い……遅れるでないぞ?』


「!!!!」


 水晶球に映ったゲースゥ卿の下卑た笑みを見た瞬間、全て見透かされていたことを悟ったパトリックは大きく肩を落としたのだった。



 ***  ***


「にへへ……クレイっ♡」


「ふふっ。 アルフェンニララちゃん、相変わらず可愛らしいですね」



 アルを助け出した後、手っ取り早く【補給】を済ませた私たちは、なぜか魔力満タンになっていたノノイの閃光魔法で地上に繋がる穴を空け、無事に王都まで戻って来ていた。

 その足で竜の牙に直行し、急いで協会本部にも報告書を提出したのだが……その間ずっとアルはこの様子である。


 今も彼女は椅子に座る私の背後から抱きつき、頬ずりして甘えてきている。

 セレナさんからは机の影になって見えないだろうが、

 アルの右手は私の股間をまさぐっており、このままでは執務室で情事が始まってしまいそうだ。


「…………(ぽっ)」


 私の背後に立つノノイはその様子を見て頬を染めている。


「こほん……それで、ノノイのSランク昇格が承認されたそうですね」


 アルの魔の手をやんわりと押さえながら、セレナさんが持ってきてくれた書類を確認する。


 今までの功績と、今回の冒険で最上位閃光魔法を完璧に制御したことが評価され、冒険者協会本部からSランクとして認定されたのだ。


「はい! 当ギルド初のSランクです! 嬉しいですね」


「ぶいぶい」


 世界中を探しても数十人程度しかいないSランク冒険者。

 国内では上位とはいえ、世界的にみると中堅規模の竜の牙ウチにSランクが誕生したことを無邪気に喜ぶセレナさん。


「Sランク冒険者は補助金が出る代わりに、”協会指定案件”への参加義務が生じるから、ギルドマネージャーとしては頭が痛いですけどね」


 そう。

 通常の冒険者では手に負えない強力なモンスターが出現した場合や、高度に政治的な案件など……冒険者協会本部が判断した場合、Sランク冒険者に動員依頼が下る場合がある。


 この場合、特段の理由がない限りギルドは該当者を派遣する義務があるのだが……ギルドに支払われる保証金は雀の涙だったりする。


 Sランク冒険者の世界に対する影響力は大きいので当然の措置なのだが……ギルドの運営的には厳しい条件である。


「ほえ? そなの?」


 私の説明を聞いて、知らなかったのか不思議そうな表情を浮かべるノノイ。


「ふ~ん、めんどいね。 ま、”アイツ”の事が気になるし……アルの事もあるからこっち優先で。 なんか来たら適当に言い訳よろ」


 相変わらずマイペースのノノイ。

 純魔族の件もあるし、世界武術大会の開幕も迫ってくる。

 私はノノイの申し出をありがたく受けることにしたのだった。

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