DAY37-2 最強魔法使い、覚醒する
「ノノイ、右に7度、ほんの少し手を上げて」
「ん……わかった」
ノノイの右手から伸びる白銀の閃光が、少しずつ分厚い岩盤を削っていく。
一気に穴を空けるとさらなる崩落を招く可能性がある為、慎重に行く必要があるのだ。
「く……ふうっ!」
膨大な魔力と複雑な術式を制御するノノイの額には玉のような汗が浮かんでいる。
「それにしても……凄いな」
世界中を探しても使い手は10人を超えないであろう最上位閃光魔法をこれだけの長い時間持続させているのだ。
とんでもない魔力量と集中力といえた。
改めて私はノノイの才能とレベルに舌を巻いていた。
ギインッ
その時、地面に伸びる閃光がわずかに揺らぎ、ノノイの眉間にしわが寄る。
「どうした?」
「ギルマネさん、何か……”壁”が、ある?」
ノノイの指先がわずかに震え、閃光が押し返されているように見える。
「わかった、すぐに調べる」
私はアルの居場所に焦点を合わせていた魔眼を、広域サーチモードの心眼に切り替える。
「これは……ミスリル銀の鉱脈か?」
ミスリル銀は対魔法防御力の高い金属で、大抵の魔力を弾いてしまう。
ミスリル銀が含まれる地層にぶち当たり、ノノイの閃光魔法の威力が減衰してしまっているのだろう。
「しかし……これは」
おぼろげな心眼の視界の中で、青白く光って見えるミスリル銀の鉱脈は厚さ20メートル、幅数百メートルにわたって広がっている。
決して大規模ではないが、迂回するとなると、ノノイの魔力が足りるか不安が残る。
「……ギルマネさん、やば……そろそろ」
私が逡巡していると、ノノイの上半身がぐらりと揺れる。
マズい!?
流石に彼女の魔力も限界のようだ。
慌てて私は心眼を消し、倒れ込む彼女に手を伸ばす。
「……なんだ?」
その瞬間、右目の”魔眼”が勝手に発動するのを感じた。
ぽふっ
ノノイを抱きとめた瞬間、ささやかな紫色の光が私たちふたりを包む。
ぱああああっ!
「これは……ふむふむ。 おふっ……なるほど、ぽっ」
不思議な力が、私からノノイに向かって流れ込むのを感じる。
何がなるほどなのかはよく分からないが、頬を染めたノノイの全身に力が戻っていく。
「ん……ギルマネさん。 もう大丈夫」
「
「???」
ノノイはそう言うと、私の手から離れると力強く地面を踏みしめる。
ドウッ!
その瞬間、白銀の魔法力が爆発的に膨張した!
「な!?」
勝手に発動した心眼の視界には、ノノイのレベルが一気に上昇し才能値に追いついたように見えて……。
「行けっ……!」
カッッッツ!
ノノイが指先に力を込めた瞬間、閃光魔法のビームはひときわ強く輝き、ミスリル銀の鉱脈を強制的に突破する。
シュウウウウウッ……
光が収まった時、足元には直径1メートルほどの丸い穴が口を開けていた。
「じゃ、降りよっか」
ノノイは私の手を引くと、ぴょんっと穴に向けて飛び降りる。
「もう終わったのか!?」
浮遊魔法を掛けてあったのか、ゆっくりと縦穴を降りていく。
その先に見えたのは……。
「アル!」
膝を抱え、眠るように地面に横たわっているアルの姿だった。
「ギルマネさん! ふたりで協力して魔力を!」
「ああ!」
アルの傍らに降り立ったノノイは、そっとアルを抱き起こす。
大量の魔力を失ったからか、青白い顔色をしているアルに、ノノイの溢れんばかりの魔力が注ぎ込まれる。
「ふふっ、サキュバスちゃん……どうかなあたしの魔力の味は? やば、ちょっと気持ちいいかもぉ」
「…………うむ」
なぜかピンク色の魔力が辺りに溢れ、妙にエロスな雰囲気が漂うが……私がアルにしてやれることは一つだろう。
ありったけの愛しさを唇に込め、全ての”魔の力”と共に優しくアルに口づけする。
ちゅっ
ぱあああっ!
私の想いに呼応するように、ピンク色の魔力は輝きを増していき……。
「……んっ……にはっ? クレイ? ノノイちゃん?」
青白かった頬に鮮やかな血色が戻り、アルはゆっくりとまぶたを開いたのだった。
*** ***
「あいたた……あれ、アルなんでこんな所に?」
「なんかいきなり力が暴走して……んんん?」
「そっか! 生き埋めになっちゃったのをクレイとノノイちゃんが助けてくれたんだね!」
目を覚ましたアルは上半身を起こすと目を白黒させている。
「ううっ……それにしてもお腹ペコペコだよ~。 クレイ、”補給”させてっ!」
(……ノノイ)
(ギルマネさん)
いつものように私のズボンを脱がせようとするアルをたしなめながら、私はノノイに目配せを送る。
真剣な表情を浮かべたノノイがわずかに頷く。
この様子をみると、アルはあの”純魔族”にされたことを覚えていないようだ。
彼女の防衛本能が働いたのか、奴が何か細工をしたのか。
どちらにしろ、調べる必要がありそうだ。
私は、胸に抱きついてくるアルの体温に安心しつつも、今後の事に頭を悩ませるのだった。
「……ところでギルマネさん。 アルと補給するなら気にせずどうぞ」
「あたしも”耐性”付けたいからじっくり見てるね……どきどき」
さっきまでの真剣な雰囲気はどこへやら。
ノノイは私たちの傍らに正座すると、期待を込めた目で見つめてくる。
心なしか、鼻息が荒い。
「にはっ!? ノノイちゃんのせーへきがレベルアップしているっ!?」
「クレイ! これはもうすっごいのを見せつけるしかっ!」
「なっ……ちょ、待てアル!?」
「もんどーむよ~!」
だきっ!
むにゅっ!
どぷっ!
「う、うおおおおおっ……やべーよこのふたり!」
ズドンッ!!
鉱山跡の地中深く……やけに淫靡な魔力と小規模な爆発現象が観測され、王都の地質学者の間で噂となるのだが、それはまた別の話である。
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