DAY16 ブラックギルドマネージャー、下請けいじめを暴く
「なるほど……やはりパトリックさんが」
『…………』
翌日、私は宿泊先のホテルで朝食を取りながら興信所の報告を聞いていた。
どうやら、私が留守にしている間に、手が足りないため後回しになっていた面倒な案件をモニカのパーティに押し付けているようなのだ。
しかも、”協会”が定めた最低依頼金額を下回る報酬で。
複数の案件をあたかも1つの依頼として扱い、トータルの支払金額では協会の基準を満たすように偽装している。
……昨年悪徳経営を行っていたギルドに捜査が入ってこの手口が発覚し、禁止事項として各ギルドに通達があった。
こういった通達をパトリックさんは見ないので、おそらく”こんなことを思いつくなんて、俺は天才だ!”などど考えているのだろうが……。
いくら自分が所属するギルドとはいえ、違反行為はダメである。
……(一応)初犯なのでけん責処分くらいで済むだろう。
私は、興信所に証拠を送ってもらえるようにお願いすると、ギルドのセレナさんに魔法通信を繋ぐ。
「おはようございます、セレナさん」
「モニカの様子はどうですか?」
セレナさんもパトリックさんが不当な報酬でモニカに依頼を押し付けていることに気づいていた。
『わたしからも進言したのですが……”モニカのパーティは、本人以外は無才能者だろう? 冒険者一人に払う報酬としてなら、違法ではない!”と強弁されて』
「…………」
パトリックさんの言い訳は予想通りだ。
”無才能者”への最低報酬の規定も先日改正されたのだが、パトリックさんは読んでないだろうな。
「分かりました……私が進言しても聞き耳を持たないでしょう」
「今、こちらでも動いてますんで」
ちょうど本日協会本部に行く用事があったのだ。
ギルドのためにも、しっかりと報告しておきべきだろう。
「それで、今そちらにモニカはいますか?」
『少々お待ちを……あ、依頼の完了報告に戻ってきたみたいです。 通信をかわりますね』
水晶球の向こうからガサゴソと音がし、モニカの声が聞こえる。
『クレイさん! このたびは本当にありがとうございます……パトリックさんにもたくさん依頼をいただいて』
『これで子供たちにお腹いっぱいご飯を食べさせる事が出来ますっ!』
……やはり、世間知らずなところがあるモニカは、不当な報酬を押し付けられていることに気づいてないようだ。
ここで、私が追加報酬を出すと言っても謙虚な彼女は断るかもしれない。
彼女が”アイテムが足りない”と言っていたことを思い出し、経費に問題はないか確認する。
『ああっ……気にして頂いて申し訳ありません』
『次の依頼、相手がガーゴイルらしくて……少々不安なのでハイポーションを買ってもよろしいでしょうか?』
……ん?
控えめな彼女の要望はもちろんかなえるつもりだが、彼女の才能値だとCランクモンスターであるガーゴイルは特に問題ないはずだ。
何か気にかかる……出張の用事は本日午後までであり、今日は後泊してゆっくり帰ってこいと言われているが、よく考えたらあのケチの権化みたいなパトリックさんが、こんな好待遇を準備してくれるなんておかしい。
……アルには申し訳ないが、今日中に帰って明日朝にモニカの様子を見に行くか。
そう決めた私は、まだ眠りこけているであろうアルを起こしに行く。
「ふにゅ~、クレイ……またお仕事の通信?」
ペタペタとスリッパの音を響かせつつ、寝ぼけまなこのアルが自分で起きだしてきた。
いつもより眠そうで、すべすべのお肌もいつもに増してキラキラしている。
……昨日も当然”補給”をしたのだが、新たなテクニックを身につけた私の攻めが思いのほか盛り上がってしまい。
「にはは~っ……クレイ、やるねっ……きゅう」
久々にアルをノックアウトして満足な眠りについたのだ。
「悪いがアル、観光は午後だけにして、夜には王都に戻りたいんだけど、いいか?」
「んん~……あっ、お仕事だよね!
「うんっ! だいじょ~ぶだよ!」
「そのかわり……お土産一杯と、今日の”夜”も昨日のアレをよろしくっ!
アル、今度はそう簡単にヤラレないよっ!」
私の申し出に、すぐに意図をくみ取ってくれるアル。
大事な時には絶対わがままを言わないとってもいい子なのだ。
「ありがとうな、アル」
「さっさと協会本部に行って、午後は遊びまくるぞ!」
「らじゃ~! それじゃ準備するねっ」
超特急で身だしなみを整えるアルを微笑ましく眺めつつ、午後の観光コースを考えるのだった。
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