DAY15 ブラックギルドマネージャー、研修へ

 

「えっ? 経費が無くなった……ですか?」


『すみません……思ったよりもポーションを使ってしまって……』


 次の日の朝……”研修”に出席するために身だしなみを整えていた私は、モニカと魔法通信で定時連絡を取っていた。

 新しい委託先と連絡を密にしておくことは仕事の基本だ。


 それにしても……彼女は”経費を使いすぎてしまった”という。

 下請けの冒険者に”委託”する時は、回復アイテムなどの消耗品を気にせず買えるようにある程度の”経費”を渡すのが普通だ。


 今回のモンスター退治の依頼でも、特にトラブルがない限り十分な回復アイテムを買えるだけの金額を渡しているが……。

 報告書を見ても、特に大きなトラブル発生していない。


 ……真面目で子供たちの事を第一に考えているモニカが不正をすることは考えにくい。

 私は追加の経費を貰えるように経理部門へ連絡を取る。


『ありがとうございますっ! これで何とかなりそうです』


 明らかにほっとした声色のモニカ。


 ……何か事情があるのかもしれない。

 気になった私は、私設興信所の知り合いに魔法通信を繋ぐのだった。



 ***  ***


「……と、言うことで、旧来の詠唱術式は直列励起でしかなく、今回当研究所が開発した新型詠唱を使えば並列の」


「にしっ、ニンゲンさんもようやく並列励起(マルチ)に到達か~、今のトレンドは八並列(オクタ)なんだよねっ」


「……魔族基準で考えるんじゃありません」

「人間さんも必死なんだよ」


「は~いっ♪」


 新型魔法展示会の会場、壇上では帝国魔法研究所のお偉いさんがプレゼンをしている。

 人間さんの魔法レベルが知りたいっ!と付いてきたアルだが、残念ながら我々の魔法は彼女たちのレベルに遠く及んでいないらしい。


 むぅ……それにしてもお国柄かもしれないが、帝国魔法研究所のプレゼンは固いな……周りの聴衆にも何人か居眠りをしている人がいる。

 自分がやるときは、イラストなどを使って分かりやすくしよう……正直魔法は専門外なので、そういう事ばかり気になる。



「ありがとうございました……次の登壇は、若き研究者でAランクの魔法使いであるノノイさんです」

「よろしくお願いいたします」



 いつの間にか、お偉いさんのプレゼンが終わったようだ。

 司会者のアナウンスが入り、次の発表者はノノイだ。


 カツカツカツ……


 ヒールの音を響かせ、ファイルを小脇に抱えたノノイが登壇する。

 昨日会ったときの私服姿とは違い、今は研究者らしく白衣を着て、伊達メガネをかけている。


「ども、研究所で爆炎魔法を研究しているノノイです」


「えー、みんなも知っていると思いますが、モンスターには爆炎魔法の耐性持ちが多くて、せっかくの威力を生かせず悔しい思いをしてるよね」


 彼女は敬語が苦手らしく、昨日と同じく淡々とした喋りの中に一部丁寧語が混じる。


「そこで、あたしノノイは極限まで魔法力を収束、力技で耐性を突破する理論を完成させました。 さすがあたし、天才だね」


 小さくVサインを出すノノイ。

 昨日も思ったが、結構お茶目なところがあるようだ。


「まだまだ未完成なので、研究所で全力試験をしたかったんだけど、ものすごい勢いで止められた……しょうがないので移籍予定のギルドで実地試験をしようと思う」


 うんうんと頷くノノイ。


 んん?


 いま、聞き捨てならない言葉があったような……"閃光のノノイ"が未完成だと言う超魔法を"竜の牙"に移籍した後に”実地で”試してみるって?


 ……やけにあっさり”逸材”を手放したと思っていたが……これがもし、帝国研究所の厄介払いだとしたら。

 その可能性に思い当たったとき、壇上のノノイがぱっと笑顔を浮かべる。


「あ、せっかくなんで極限まで威力を落としたデモをするね」

「ん、こうやって……」


 どう見ても低威力ではない魔力の収束を見て、演壇の脇に控えていた係員が泡を食った様子でノノイを止めようとする。



 カッ!

 ズドオオオオオオオンンッ!!



 ぴん、と立てられたノノイの人差し指から赤い光が伸びたと思った瞬間、爆発音と共に大講堂の天井が綺麗に吹き飛ぶ。


「わはははは! ノノイちゃん、面白いねっ!」


 お腹を抱えて爆笑するアルをよそに、こんな尖った魔法使いをギルドに迎えなければいけないのか……ズキズキと痛み始めたこめかみを押さえる私なのだった。

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