DAY26 ブラックギルドマネージャー、マフィア幹部の相談に乗る

 

「ということで、我がギルドと王国警察の協力により大規模な魔麻薬の密輸ルートを摘発、中毒被害者は聖女モニカに治療を依頼……」

「また、顧客リストの中に魔麻薬の流通に便宜を図っていた政府要人がおり、王国政府内にも捜査の手が伸びる予定です」


「ざっとこんなもんですが、”広報活動の締め”としてとしては十分な成果ではないでしょうか」


 潜入捜査の数日後、王国警察から頂いた感謝状をパトリックさんに手渡す。

 竜の牙と王国警察が共同で取り組んだ魔麻薬事件の解決により、王都繁華街の治安は劇的に改善。

 王国民からは絶賛の声が上がっている。


 ギルドへの依頼も増えており、ギルドマスターとしては万々歳。

 私はそう思っていたのだが。


「あっ、ああ……よくやったぞクレイ……これで我がギルドの地位も……あ、安泰という事だな」


 感謝状と報告書を受け取ったパトリックさんは、なぜか顔面蒼白になり脂汗をダラダラ垂らしている。

 ……腹の調子でも悪いのだろうか?


 中年のゲリは良くない病気のサインと聞く……私は評判の良い病院の連絡先をパトリックさんに渡すと、上機嫌でギルドマスターの執務室を後にした。


(どうするどうするどうする!? ゲースゥ卿の財テクを潰してしまったぞ!? これでは俺の評価がダダ下がりに……クレイめ、誰がここまでしろと言った!?)


(ん? まてよ? ”魔麻薬の流通に便宜を図っていた政府要人”だと? まだゲースゥ卿は魔麻薬に手を出していなかったはずだ……なるほど先駆者が政府の中にいたのだな)

(ふ、ふん……運の悪い奴め。 ま、まだ慌てる時間じゃない。 今回の投資は無駄になったかもしれないが、まだ挽回は可能なはずだあああっ!)


 クレイが退室した後、ひとしきり脳内議論を繰り広げたパトリックは、念のため裏社会に明るいビジネスコンサル (自称)に作成させていたマル秘ビジネスプランが書かれた書類を金庫の中から取り出すと、慌ててゲースゥ卿の元へ突っ走るのだった。



 ***  ***


「今回は情報提供ありがとう、シン。 お陰で王都の平和に貢献できたと思う」

「それで、あらためて相談とはなんだ?」


 パトリックさんに広報の成果を報告した翌日、マフィア側の協力者であるシンから連絡が入った。

 なにやら私に相談したいことがあるとのことで、竜の牙の秘密会議室に来てもらった。


 無個性な白い石壁に囲まれたこの部屋は魔法的に防御されており、防音対策だけでなく探査魔法対策も徹底されている。


 魔麻薬に関して王国警察の大規模な捜査が入ったところだ。

 もしかして、マフィアの組織内がごたついているのかもしれない。


「ああ、クレイさん。 まずはこの書類を見てくれよ」


 不機嫌そうに顔をしかめたシンが、一枚の封書をテーブルの上に放り出す。

 厳重に蝋で封印されていたであろう封筒には混沌の鷹の紋章と【極秘】の魔法印が押してあり、重要な機密事項が入っていることを伺わせる。


「いまのボス……クズンのヤツからの指示なんだけど」


 私が書類を取り出し、目を走らせている間もシンの愚痴は止まらない。


「魔麻薬のビジネスを潰されたからって、さらにヤバイ事を始めるだなんて……しかもと結託して警察に一定の成果を上げさせる代わりに許容範囲内の取引を認めてもらう、だって!?」


「裏社会のバランスを取り、国家権力とは決して迎合しない……親父の、”混沌の鷹”の誇りはどこに行ったんだ?」


 ぱらり……堰を切ったように不満をぶちまけるシンを横目に見ながら書類をめくる。

 私の目に入ったのは、【薬物操作で最適化した性奴隷の販売】というとんでもない計画の内容だった。


 中世ならいざ知らず、国家体制が発達した今となっては各国で魔麻薬以上にタブー視されている案件である。


 発覚すれば死罪は免れないが、政府の中に協力者がいるとすれば別だ。

 成金連中に根強い需要があると言う噂だが、リスクと儲けが釣り合わないからか、最近は他国のマフィアですら手を出さないと聞く。


 薬と人身売買には手を出さないという誓いを立てていた混沌の鷹の変わりように、元ボスの息子としては憤懣やるかたなしと言うことか。


「こんな連中、潰されてしまえばいいんだ……くそっ」


 忌々しげに吐き捨てるシン。

 だが、その言葉の勢いは内容に比べて弱弱しく……。


 なるほど……興味ないふりをしていても、父親のマフィアに対して一定の誇りは持っていたのだろう。

 だが、闇の世界で生きてきた彼はマフィア以外で生きる術を知らない。


 こういうときは、”別の道”を用意してやるべきだ。


「お前の不満は分かった。 そこで相談なんだが……」


「……なに? アンタの魔眼でも使おうってのか?」


「いや、単なる大人の”おせっかい”だ」


 私は以前から暖めていた秘策を彼に説明するのだった。

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