追放被害者を助けたい! ~”ざまぁ”のフォローに勤しむ中間管理職、勇者や聖女に成長した彼らとの絆で大逆転する~
なっくる@【愛娘配信】書籍化
DAY1 ブラックギルドマネージャーのざまぁな日常
「クレイ! 君の推薦で先月加入したトレジャーハンターのレイルだがね、一向にレアアイテムを見つけないではないか! 何のために非戦闘職を採用したと思っているんだ!
無駄だ無駄! ギルドから追放して適当な魔法使いと入れ替えたまえ!」
私の執務室に入ってくるなり無茶な”追放”指示を飛ばしてきたのはくすんだ金髪をきっちりと撫でつけ、隙なくスーツを着込んだ神経質そうな男性。
”竜の牙”のギルドマスターであるパトリックさんだ。
「いきなりですか? ですから、彼の才能が発揮されるには時間が掛かると先日も説明を……」
ばたん!
ギルドマネージャーである私が説明する暇もなく、パトリックさんは執務室を出て行ってしまった。
「まったく……いつも話を聞いてくれないんだから」
パトリックさんは私がお世話になった先代ギルドマスターの息子。
30代半ばになるまで親のすねかじり……もとい自分磨きのニート生活を送り、知識と理論だけはそれなりなのだが……。
絶望的に”現場”を知らないので、先ほどのように”
高圧的で嫌味な態度はギルド内でも疎まれており……口の悪い職員の中には、”ざまぁのパトリックさん”と呼ぶ者も。
とはいえ、先代の大事な一人息子……昨年逝去された先代のためにも、私は身を粉にして働いているのである。
「仕方ない……レイルには何とか新しい所属先を」
理不尽な命令だが、”協会”の規約によりギルドマスターには絶対的な人事権が保証されている(なぜかはよく分からないが)
私は申請魔法で協会にレイルの所属抹消届を提出すると、魔法通信用の水晶球を取り出しあらゆるツテに連絡を取るのだった。
*** ***
「急な通達で済まない。 新しい所属先は探しておいたから、許してくれないか」
数時間後、私はギルドを追放されたレイルと面談していた。
追放被害者との面談---ギルドマネージャーの仕事の中でもやりたくないことランキング上位の業務と言える。
「いえ……世界最高峰の探索パーティ”見つける者たち”に所属させてもらえるなんて、むしろ栄転ですよ!」
頬を紅潮させているレイルの様子を見てほっとする私。
実は”見つける者たち”のリーダーはウチのギルドから羽ばたいていった俊英であり、私が駆け出しマネージャーの頃よく冒険した仲なのだ。
「それで……ついさっき見つけたコレはどうしましょう? ギルドに納めた方がいいでしょうか?」
レイルが懐から取り出したのは鳳凰の魔石。
青白く光る魔法石で、数々の超魔法の媒体となる希少なSランクアイテムである。
法定取引価格でも数十万センドは下らない代物だが……。
「いや、大丈夫だ。 餞別だと思って持って行ってくれ」
「クレイさん……ありがとうございます!
それではお元気で! 何か困ったことがあったらいつでも相談してください!」
そういうとレイルは意気揚々とギルドを巣立っていった。
彼の才能は本物だ。
”見つける者たち”でも活躍してくれるだろう。
ほんのわずかだけ、私の心は軽くなる。
……おっと、こうしてはいられない。
冒険者ギルド、”竜の牙”のチーフマネージャーとして日々の業務をこなさないとな。
私は書類の山に手を伸ばす。
「こちらが完了分の依頼……最優先は報酬の支払いだな」
コーヒーを淹れ、終業時間に向けて全身全霊!
勢い良く始まった私の仕事は、わずか数時間で乱入者により中断される。
「これはどういう事かね! クレイ!」
「鳳凰の魔石をレイルのヤツが見つけただと!? しかもヤツはギルドの探索任務中にコイツを見つけたはず。 7割はウチの収入になるはずが、なぜヤツに渡した!?」
ばん!
私の机に両手をついて喚き散らす。
「お言葉ですが、彼が鳳凰の魔石を発見した時刻は、パトリックさんが彼の追放を決めた時刻より後になります」
「冒険者協会の規約により、ギルドに所属していない冒険者が手に入れたアイテムは本人の物になります」
「それならすぐにヤツを呼び戻せ!」
「……追放した冒険者の再勧誘は固く禁じられておりますが」
「ぐぬぬ……なぜレイルのヤツがこんなレアアイテムをいきなり見つけるんだ。 理不尽ではないかね!」
自分が一番理不尽な事を言ってると思うのだが。
私はため息交じりにパトリックさんに説明する。
「ですから、彼のスキルは特殊で探索回数に応じてレアアイテム発見の期待値が大きく変わると何度も説明を……」
私の”鑑定”により、特に今回は確度が高かったのだ。
「過去の事例では確率は1パーセント以下だぞ……そんな幸運を期待するなど、合理的ではない!
自信があったのなら、もっと強く進言したまえ!」
「……しかし、せめてあと1時間遅ければ……くそおおおっ!」
ひとしきり騒いで満足したのか、パトリックさんは部屋を出て行ってしまった。
「彼のトレジャースキルは突然変異クラスなのに……ああもったいない」
「ふぅ……仕事気分がそがれてしまったなぁ」
相変わらずなギルドマスターにため息が出る。
すっかり冷めたコーヒーをひとくち、私は執務室の天井を見上げる。
日常業務はまだ残っている。
今日も遅くなりそうだ。
*** ***
「ふふっ、お仕事お疲れ様です~」
溜まっていた仕事を片付けると、時刻はすっかり深夜……あと1時間ほどで日付が変わる。
のんびりとした口調で、緑髪の女性が新しいコーヒーとチョコレートを運んできてくれる。
住み込みで働いている事務員のセレナさんだ。
私の3歳年下の20歳で、いつも笑みを絶やさない美人さん。
もちろんギルドの人気者だ。
……残念ながら、オジサマ趣味らしく私は恋愛対象外とのことだが。
「普通なら数日は掛かるレイルさんの転籍手続きを数時間で済ませるとか、さすがですね~」
ぽんっ、と手を叩き、私の仕事ぶりを褒めてくれる。
「いえいえ、これくらい……先代が大きくした”竜の牙”のためですから」
「先代さん、立派な方でしたもんね…………あ、もう遅いですし、残りは明日にされてはどうですか?」
「
セレナさんの言葉にハッとする……そうだった、今日こそは早く帰ると約束してたんだ。
いささか慌てた私は、急いで帰り支度をする。
「戸締りは私がしておきますから……お疲れさまでした~」
「ありがとうございます! セレナさん、お疲れさまでした!」
彼女の申し出をありがたく受け、コートを引っ掴んだ私はギルドの外に飛び出す。
季節はもう冬……大通りを駆け抜ける風に雪の香りを感じ取る。
自宅はここから歩いて5分ほど……すっかり遅くなってしまったので、まだ営業している屋台でホットチョコレートをお土産に買い、家路を急ぐ私。
家々の灯は半分以上消えており、既に街は眠り始めている。
お前にはもっといい働き先があるんじゃないか?
友人たちはそう言ってくれるのだが、戦いに関してからっきしな私には、日々の糧を得る仕事が必要であり、王都にとどまる理由があるのだ。
がちゃり……
「クレイ、おかえりなさいっ!」
家の鍵を開けるなり、ひとりの女の子が抱きついてくる。
「帰りが遅くて心配しちゃった……アル、いい子で待ってたよっ!」
「えへへ、お仕事お疲れさまっ!」
約束を破ってしまったというのに、満面の笑みですりすりしてくるかわいい女の子。
彼女は私の最愛の同居人、アルフェンニララである。
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