DAY33 サキュバスとの出会いと癒しの精気
『ぐっ……ニンゲン……なんだその憐れんだ眼は……ごふっ』
どさり……
降りしきる雨の中、泥濘に半ば身体をうずめるようにして幼い少女が地面に倒れこむ。
美しい青髪は泥にまみれ、深手を負っているのかこぼれる血が全身を汚している。
今すぐ回復術師の元へ運ぶべき状態だが……彼女の身体から流れる血は青黒く、尻の根元から伸びる黒い尻尾は……。
「魔族……しかもサキュバスか」
この世界に住む人間やモンスターとは一線を画した力を持つ魔の者たち。
積極的に人間に関わろうとはしないが、気まぐれにその圧倒的な力を人間に向けることがあり、我々にとっては”災厄”のようなものだ。
私はギルドの一員として、魔族が村の畑を荒らしているという通報を受け調査に来たわけだが……。
確かに、少女の足元には何本かの人参が転がっている。
何かの原因で深手を負い、体力を回復させるために人里に降りてきたのか?
ともかく、手負いの魔族は何をするか分からない。
かわいそうだが私の力を使って……そう思った瞬間、彼女の瞳がこちらを向く。
「くっ……」
どくん!
彼女の涙に濡れたルビーのように紅い瞳をのぞき込んだ瞬間、私の心臓が大きく跳ねる。
こめかみが熱くなり、たくさんのイメージが脳内になだれ込んでくる。
地に落ち、泥にまみれた翼……大きな炎が巻き起こり、白銀の翼が不死鳥のように舞い上がる。
「っ……なるほど」
……
*** ***
「……イ……クレイ……クレイ、大丈夫?」
「うっ……」
じんわり……暖かい何かが全身に広がり、遠くから私を呼ぶ声がする。
背中と頭に柔らかな感触……アルが膝枕をしてくれている、そう知覚した瞬間一気に意識が覚醒する。
「……はっ!?」
「には~っ! よかった~! ずっとうなされてたから心配したよっ」
だきっ!
「わぷっ」
目覚めるなり、私の頭を膝から降ろすと全力で抱きついてくるアル。
ここは……私の寝室か。
辺りを見回すと、いつもの自宅の光景が広がる。
ベッドの傍らにはノノイが座り、申し訳なさそうな表情でこちらをのぞき込んでいる。
「……ごめん、すこしやりすぎた」
「それにしても凄いね……あたしとアルが展開していた魔力全部を飲み込んじゃうなんて。 倒れるのも当然だね」
「ふふ~んっ! クレイの力はまだまだこんなもんじゃないからね! なんてったってアルフェンニララちゃんが惚れ込んだ唯一の人間さんなんだからっ!」
「マジでっ!? やっぱ解剖してみたい……」
「……こら」
目を覚ますなりいつもの調子を取り戻す二人に思わず苦笑する。
「だが…………くっ、やはり魔力を吸収しすぎた後遺症があるか」
意識はクリアになったが、全身の倦怠感はどうしようもない。
深酒をして一度吐いた後の怠さを10倍したくらいといえば少しは分かってもらえるだろうか。
「にしっ♪ 大丈夫だよクレイ! その倦怠感はアルたちの魔力がキャパ以上に身体に残っているからだよ!」
「精気としてココからヌいちゃえば~♡」
ぺろり。
蠱惑的な舌をのぞかせ、アルの瞳が怪しく濡れる。
うっ……この流れはっ。
「と、いうことで、いっただきま~すっ!」
「ちょ、待てアル! ノノイもいるんだぞ!?」
「問題な~しっ!」
すぱぱぱっ!
あっという間に裸にされた私の上に、同じく裸になったアルが跨った。
*** ***
「うは~~~っ! ホント気持ちよかったね~。 アルのお腹もうたぷたぷだよ~っ」
僅かに膨らんだすべすべのお腹を愛しそうに撫でるアル。
「勘違いされそうな言動は慎むように……ってわけでもないか」
なにしろ、原因の大部分は私にあるのだ。
2時間近くに及ぶえっちはたいそう盛り上がり……大量の魔力を変換した”精気”を飲み込んだアルは大満足の笑みを浮かべている。
「にしし……これは余剰精気ですっごいアイテムができちゃうかも!! 世界を闇に叩き込んだという魔剣リディルでも作ろっかな!」
「世界に混沌を撒くのはやめなさい」
ぺこん!
「へうっ!?」
いつものやり取りを繰り広げながらふと気づく。
2時間も盛り上がってしまったが、彼女……ノノイはどうしたんだろうか?
おそらく呆れて帰ってしまったに違いない。
そう思って視線を横にやると。
「……っ……っ……」
顔を真っ赤にして、ぴくぴくと震えながら気絶しているノノイの姿がそこにあった。
「ふむ……人類最強の魔法使いも、案外うぶだったようだな」
「にはっ♪ ノノイちゃん、こーふんしてイッちゃったのかな? にしし、調教しがいがあるかも!」
「……やめたげなさい」
閃光のノノイはのちに語ったという。
サキュバスだけには手を出すな、と。
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