DAY7-2 ギルドマスターさん、ざまぁトリガーを引く

 

 ギルド期待の新人戦士であるステファンとグランオークの戦いを見守っていた時、急にギルドマスターであるパトリックさんに呼び出された。


 そこで伝えられたのは、信じられない通達だった。


「んん? 聞こえなかったのかね?」

「あのステ何とかという戦士を除籍するって言ったんだ……”追放”だよ」


「な、なぜですか!?」

「彼は才能もあり……現に今もグランオークに善戦しています!」


 いくらパトリックさんが気分屋と言っても、無茶苦茶すぎる。

 私は思わずパトリックさんに詰め寄る。


「……先日俺が言ったことを聞いてなかったのかね?」


「これからの時代は魔法使いだよ、クレイ君……君も知っているだろう、”閃光のノノイ”!

 Aランクの凄腕魔法使いだ……数か月前から獲得交渉をしていたのだがね、ようやくまとまったのだよ!」


「ギルドの”枠”の問題もある……才能ランクが高いだけで低レベルな新人戦士、どちらがギルドの役に立つか、サルでも分かるだろう?」


 からくりが読めたぞ……特定のギルドに人材が集中しないように、各ギルドには所属人材の”枠”が設定されている。


 高ランクの冒険者ほど”枠”をたくさん使うので、どうやってバランスよく人材を獲得するかがギルドマネージャーの腕の見せ所なのだが……。


 いくらAランクの魔法使いが取れたとはいえ、めったにいないS+ランクの才能持ちを追放するなど……ありえない!


 ”枠”は、協会に所定の協力金を払う事で拡張できる。

 私は必死に追放の非合理性をアピールするのだが、自分の手柄に酔ったパトリックさんが耳を貸すはずがなく……。


「うるさいな君は……ギルドマスター権限でもう俺が決めたのだよ」


「明後日には閃光のノノイが着任する予定だ。

 グランオークなど、ノノイが来てから倒せばよい」


「むしろ降格の可能性が消えたのだ……感謝してほしいくらいだな、クレイ君」


 ダンッ!


 止める間もなく、除籍申請書にギルドマスターの魔法印が押されてしまった。

 この情報は魔法的に”協会”に伝えられ……正式な申請として受理されることになる。


 くそっ……いくらなんでも横暴すぎる!

 私はチーフマネージャーの地位を捨ててでも抗議しようとしたのだが……。


『クレイ! やったよ! ”ザーマトリガー”発動だ~っ!

 早くこっちに戻って来て~っ』


 頭の中にアルの元気な声が響く。


 ”ザーマトリガー”?

 なんのことだろうか……まさかステファンの身に何かあったのか!?


 今はパトリックさんと話している場合ではない!

 私は急いで自分の執務室に戻る。


 そこで見たのは、驚くべき光景だった。



 ***  ***



『うわっ!? なんだこれ……物凄い力が!』


 キラキラとした黄金の光がステファンを包んでいる。

 映像越しに見ても、すさまじい力が彼の全身にみなぎっていくことが分かる。


『え、えいっ!』


 ザンッ!


「なっ!?」


 さほど力を入れたように見えない剣筋が、一撃でグランオークを両断する。


「しょ、ショートソードの一撃でグランオークの変異種を倒した?」

「しかもスキルを使わずに……か?」


 とんでもない攻撃力である。

 唖然としていると、アルが映像の補足をしてくれる。


『えへへ、”ザーマトリガー”が発動したから、アルのマジックアイテムが100%の効果を発揮して……ステファンくんの才能をぜんぶ引き出したんだっ!』


 アルの映像が、嬉しそうにVサインする。


 な、なるほど……詳しい説明は後で聞くとして、パトリックさんがステファンを”追放”したことが、何かのトリガーになったのかもしれない。


 ……残念なことに、もう彼は我々のギルドのメンバーではなくなったのだが。


 この才能はもっと世界全体のために使われるべきだ。

 私は”万一”を想定して準備していた連絡先に、魔法通信を繋ぐのだった。

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