DAY9 ギルドマスターさん、ざまぁを食らう(9日ぶり12度目)
「な、なんだとっ!?」
「”ステファン”がかの高名な勇者パーティ、”羽ばたく者たち”に移籍したというのかねっ!」
”協会”から届いた広報を見て、ギルドマスターであるパトリックさんが大声を上げている。
やれやれ……ようやく彼の名前を覚えたのか。
まあ、”もう遅い”んだけどな。
「クレイ! 君はなぜこのような移籍をむざむざと見逃したのか!!」
「……お言葉ですが。
パトリックさんがギルドマスター権限で除籍申請を提出した時点で、ステファンに対する拘束力は消失します」
「”レベルアップ”したS+ランクの才能持ち……そりゃ欲しがる連中も大勢いますよ」
「くっそおおおおおおお!! なんという事だぁ!!」
今更ながら自分の失態に気づいたのか、頭を抱えて絶叫するパトリックさん。
……先ほどの説明には意図的に伝えていない点がある。
”レベルアップしたS+ランクの才能持ち”……各地の冒険者ギルドに高名なパーティ、果ては犯罪組織まで。
争奪戦になることは目に見えていたし、純朴で世渡りに慣れていないステファンが、意に沿わない組織に獲得される危険もあった。
そこで、私は
彼らは少ない報酬で世界の危機を救ってきた高潔な勇者パーティ。
先日、年齢を理由に所属している戦士の引退が発表され、新たな戦士を探していた。
若くて才能に溢れるステファンは、まさにうってつけの才能だったというわけだ。
”羽ばたく者たち”からは、ステファンの才能に対する絶賛と、感謝の言葉を貰っている。
「おのれ……あと1日除籍を待っていれば、移籍金が取れたかもしれないのに!
クレイ! 今後このような事態が予想されるときは、何としても俺を止めたまえ!」
「……は、はぁ」
がちゃん!
いざその時になったら私のいう事を聞かないでしょう?
あくまで自分の非を認めないパトリックさんは、謎の捨て台詞を残して執務室を出て行ってしまった。
ふぅ……戦士の補充、どうしようか。
私は閉じられた扉を一瞥すると、今後の要員補充計画に頭を悩ませるのだった。
*** ***
「くそっ……誰も彼も常識がない……なぜ俺の思惑通りに動かん!」
ギルド内の通路を必要以上に足音を立てて歩くパトリック。
とばっちりを受けてはかなわない……そそくさと目線を外す職員たちの動きが更にいら立ちを加速させる。
「ふんふんふ~ん♪」
そんな中、我関せずとパトリックの前を横切る緑髪の女性。
(あの女……確か住み込みで働いている事務員の……ストレス解消にちょうどよさそうだな)
歩くたびに弾む大きな胸……少々若すぎるのでターゲット外だったが、よく見ればいい身体をしているではないか。
ぺろり……怒りをゲスな助平力に変換したパトリックは、彼女に声を掛けようと手を伸ばす。
パトリックはこうやって何人もの女性職員を手籠めにし、示談金を払って泣き寝入りさせてきたのだ。
「……あら~? こんな所にハチが……誰かが刺されたら危ないですよね~」
すかっ
彼女がしゃがんだことで、パトリックの右手が宙を切る。
見慣れぬ黒いハチ (凶悪モンスターであるアサシンビーの幼体)は、捕獲しようとする彼女から逃げ、手近な隙間に……。
すぽっ
ちょうどいい高さにあった、パトリックのズボンのチャックの切れ目に飛び込んだ。
ちくっ!
「!?!?!?!?」
激痛に泡を吹いて倒れ伏すパトリック。
「あら~?」
*** ***
「と、いうことで……パトリックさんは虫刺されで教会に担ぎ込まれました」
「明日はお休みだそうです」
「へ~、災難ですね」
先ほどの悲鳴はパトリックさんだったのか。
ふふふ、腫れあがって大変そうでしたよ~。
男的には悪寒が走るパトリックさんの惨状をのんびりと解説してくれるセレナさん。
このショックで真人間にならないだろうか?
ありえないことを妄想しつつ、ギルドマスター不在で平和な午後は過ぎて行った。
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