DAY27-2 ブラックギルドマネージャーとマフィア幹部の決意

 

「……ちっ!」


 誰何の言葉も狼狽する様子もない。

 馬車の背後で周囲を警戒していた男がすらりとショートソードを抜き放つ。


 流石に相手もスキルランクAのプロである。

 なかなかどうして対応が速い。


 ギンッ!


「ぐうっ……」


 剣士の男がショートソードを振りかぶるより速く、”魔眼”を発動させる私。


 相手のレベルが高い事と距離があることもあり、抵抗されている……だが、一瞬動きを止められれば十分だ!


「クレイないすぅ! とりゃ~っ!」


 バギッッ!!


「ぐべえっ!?」


 次の瞬間、文字通り風のように飛んできたアルの膝蹴りが男の側頭部にクリーンヒットする。


 べしゃりと建物の壁に叩きつけられた男は泡を吹いて痙攣している。

 何とか生きてはいるようだが、あの華奢な体格からなんでこんなに重い蹴りが繰り出されるなんて……さすがは魔族である。


「へっへ~っ! アルフェンニララちゃんふらいんぐにーどろっぷ!」


 ぶおん、と振り上げられたアルの足先から、黒い炎が湧き上がる。


「馬鹿なっ!? サキュバスだとっ!?」


 私たちの襲撃を察知し、わらわらと馬車から飛び出してきた護衛達が驚きの声を上げる。


 アルはあえてケモミミと尻尾を隠していない。

 下級ではあるが魔族がいるという事で撤退してくれれば儲けものだが……。


「くそ、……おいジョン、出し惜しみは無しだ!!」


「わかった! 大赤字だな畜生!」


 リーダー格らしい魔法使いの号令に、ジョンと呼ばれた神官風の男が懐から青く光る鎖のようなものを取り出す。


 なっ! アレは”魔封具”か!?


 人間に危害を加える邪悪な魔族に対抗するため、教会が膨大な魔力を注ぎ込んで作成するアイテムで、魔族の力を封じて捕らえてしまう効果がある。

 教会が管理しているはずで、一介の犯罪組織が入手できる物ではないはずだが。


「くらえっ!!」


 じゃらららっ!


「にはっ♪ 面白いもの持ってるねオジサンっ!」

「でもぉ……捕まらないよっ!」


 ドガッ!


「ぐぼおっ!?」


 封魔の魔法陣を展開しながら伸びてきた魔封具の鎖をひらりと躱すアル。

 返す拳で切りかかってきた剣士を地面に沈める。


「おのれちょこまかと!」


 アルの素早さに対応できていないようだが、あの魔封具は本物だ。

 他の切り札を持っている可能性もある。


 早く被害者を助け出さないと……私はアルが護衛を引き付けている間に荷馬車に飛び乗る。



「……ぁ……うぁ」


 野菜の山の奥に、拘束具で手足を縛られた5人の少女が倒れている。

 逃亡対策なのか、クスリで意識を飛ばされているようだ。

 抱えて逃げるには人数が多い。


「仕方ないっ!」


 カッ!!


 私が”魔眼”の力を解放すると、少女たちはよろよろと立ち上がる。


 魔麻薬の潜入捜査で使った技の応用で、相手を傀儡状態にするのだ。

 肉体的にダメージが残るので出来れば使いたくなかったが、時間がないので仕方がない。


 治療はモニカに依頼しようか……私がそう考えていると、馬車の外からヒステリックな大声が響く。


「なんてことじゃあああっ! ギルドの連中がいるなど、話が違うではないかあっ!!」


 この声は……”混沌の鷹”の現ボスであるクズンか?

 情報によれば、ヤツは高位の魔法使いで……。


「こうなれば、”証拠隠滅”させてもらう!」


 ブアッ!


 強大な爆炎魔法の魔力が収束していく。


 マズい!

 アルは護衛と戦闘中だし、クズンは建物の屋上からこちらを狙っており”魔眼”の射程外である。


 こうなったら、私の身体が耐えられるかは分からないか、”奥の手”を使うしかないっ!

 悲壮な覚悟を決めた瞬間。



 ひゅんっーーーザクッ!



「ぐああっ!?」


 どこからともなく飛んできたナイフが、クズンの腕に突き刺さった。



「くっ……シン、貴様裏切るのか!」


「ふん。 クスリに人身売買……堕落した”鷹”にもはや価値はない」


 通りを挟んで建つ5階建ての集合住宅。

 その屋上に立つシンはどこかすっきりした表情でこちらに目配せをする。


 早く被害者たちを……彼の意図をくみ取った私は少女たちを操り馬車から離れる。


「おのれっ……先代の息子だからと始末せずに幹部に取り立ててやった恩を忘れおって!」


「ありがた迷惑だ。 それよりクズン、鈍ったんじゃない? ”爆炎の鷹”の名が泣くぜ?」


 ひゅんっーーーひゅんっ!


 ヤツに魔法を使わせないよう、間髪入れずにナイフを投擲するシン。


 中々にいい腕だ。

 あれなら魔法を使う時間を作らせないだろう。


「……アル!」


 被害者の少女たちを馬車から十分に離れた路地に座らせ、安全を確保した私はアルに合図を送る。


「は~い、クレイ!」


 バキッ!


 護衛の男のアゴを思いっきり蹴り飛ばしたアルは、反動で空中に舞う。



「ん~っ……ばあっ!」


 カッッ!



 遠慮なしに放たれたスタン魔法らしき紅い光は荷馬車とクズンのいる建物をも飲み込み……。


 どさっーーー


 伏兵も含め、全員の意識をあっさりと刈り取ったのだった。

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