DAY28 パワハラギルド長、ざまぁ食らう(9日ぶり14度目)

 

「馬鹿な……そんな馬鹿な……!」


 沢山のマスコミに囲まれながら、ギルドマスターのパトリックは内心頭を抱えていた。


 ここは王国財務局にあるゲースゥ卿の執務室。

 パトリックは冒険者ギルド側の代表者として、マスコミの取材を受けていた。


 表向きは人身売買の陰謀を未然に防ぎ、王国最大のマフィアである混沌の鷹を崩壊に導いた王国警察と冒険者ギルドのトップに対する囲み取材となっている。


「なんのなんの! あえて警備に穴を空け、マフィアの連中を誘い込んだところに”竜の牙”殿と協力して一網打尽にしたまでのこと……王国警察と冒険者ギルドの高度な連携の賜物と言えましょう」


「「「おお~っ、さすがゲースゥ卿」」」


(なんてよく回る舌だ。 これが一線級の政治屋というものか)


「混沌の鷹壊滅」の一報が入り、取り乱していた数時間前と同一人物とはとても思えない。


 パトリックの提案で始めた外国マフィアとの”性奴隷の取引”。


 魔麻事件で負った損失の埋め合わせとして混沌の鷹をそそのかし、王国警察の演習まででっちあげて完璧な取引環境を整えたまでは良かったのだが。


 冒険者ギルドのギルドマネージャーであるクレイとそのの活躍により、取引の現場が押さえられ被害者の女たちは解放、混沌の鷹トップであるクズンも含め数十人が逮捕された。


 タブーとされる性奴隷の大量取引に王都は震撼し……その陰謀を未然に防いだ王国警察と冒険者ギルド竜の牙に対する市民の評価は高まるばかりであった。


 ゲースゥ卿の神がかり的な隠蔽工作により、我々の関与が明るみに出ることはなかったが……ちらっとこちらを向いたゲースゥ卿の瞳が憤怒に燃えている。


 マスコミの称賛を受けながら、この後のことを考えると胃が痛くなるパトリックなのだった。



 ***  ***


「どういうことだパトリック! ギルドの人間をなぜ動かした!!」


 マスコミの連中を表まで見送り、卿の執務室まで戻って来た途端、ゲースゥ卿の怒声がパトリックに降り注ぐ。


 先ほどまでのにこやかな表情はどこへやら。

 怒りのままに投げつけられた水晶製の文鎮が、背後の壁にぶち当たり砕け散る。


「い、いえっ! わたくしめの指示ではございません! ど、どうやらクレイのヤツが勝手に動いたようで……”協力者”からも情報を入手していたようです」


 王国内でも比類なき権力を持つゲースゥ卿の逆鱗に触れてしまった。

 直立不動で立ち尽くすパトリックは苦しい言い訳を述べる。


「ま、まさか協力者であるマフィア幹部が、取引情報をクレイに漏らすなど、想定すらしていなかったのです!」


「全く忌々しい……そのシンとやらは、混沌の鷹を抜けて”栄転”するそうだな? これも貴様の差し金か?」


 すっ……ギラギラと光るゲースゥ卿の目が爬虫類のように細められる。

 その迫力にパトリックは震えあがる。


「滅相もありません! これもクレイが勝手にやったことで……すぐにクレイを罰し追放します!」


「……貴様は馬鹿か?」


「ひっ!?」


「表向きは今回の事件の功労者なのだぞ! 急に追放などしては我らの関与を自白したも同然ではないか!」

「もう少し頭を使わねば、政治の世界は渡っていけぬぞ……?」


 ギラリ、狂気に濡れたゲースゥ卿の瞳がパトリックを射すくめる。

 マズい……俺は分不相応な世界に手を出してしまったのでは……今さら後悔しても後の祭りである。


「取り急ぎ今回の損失の穴埋め案を考えねば……なに、議会と民衆の支持は獲得したのだ。 やりようはいくらでもある……ぐふふ」


「逃げられると思うなよ、パトリック?」


 この状況で王国警察の広報にかかった経費を請求できるわけもなく……パトリックの手元には莫大な借金だけが残ったのだった。

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