DAY35 ギルドマネージャー、穴掘りに行く

 

「おけおけ。 ようやく初仕事!」

「ギルマネさん、要するに目的地の山を魔法でふっ飛ばせばいいんだよね? 大丈夫、あたし得意だから」


「にはっ♪ ノノイちゃん、どっちがたくさん山を削れるか勝負する?

 壊すのは山だからクレイに迷惑は掛からないし……ここらでケリを付けよっか!」


「いいね、その勝負……【閃光】の二つ名にかけて受けるしかない」


「おい、ふたりとも。 今回の依頼は”調査”だ。 自然破壊をするんじゃありません」


 ぺこん!

 ぺこん!


「へうっ!?」


「……痛い」


 剣呑なセリフを口にし、暴走の兆しを見せたアルとノノイをチョップで成敗する。


 ノノイがウチの居候になって数日後。

 世界武術大会開催の前に、懸案となっていた依頼を片付けるべく私たちは王都の南にある山岳地帯を訪れていた。


 緑豊かな王都周辺と違い、岩がむき出しのハゲ山の光景が広がる。

 切り立った断崖の底や中腹には縦横無尽に横穴が掘られており、この辺りが鉱山地帯であることがうかがい知れる。


「ここは数年前に放棄されたジルベル鉱山……」

「廃坑となった坑道の最奥から、魔法金属であるミスリル銀の反応があったという事で、採掘調査をして欲しいというのが今回の依頼だ」


「危険なモンスターが出没するため……ノノイ、君の着任を待ってから探索するつもりだった」

「ということで、山ごと吹き飛ばしたらダメだぞふたりとも?」


「「は~い」」


 ふたりの返事が綺麗にシンクロする。


 詳細な鉱脈の場所は私の魔眼で調査するのだが、モンスターに対する備えが必要だったのだ。

 ……アルについて来てもらえば全く問題ない気もするが、彼女はギルドの登録上は民間協力者である。 そんなわけでOJTも兼ねてノノイを連れて来ることになった。


「未確認ながら、Aランクモンスターが目撃されている」

「ちゃんと警戒しながら潜るぞ」


 がちゃっ!


 私は依頼主の王都鉱業組合から借りた鍵で、坑道入り口を封印している扉を開く。


 ギイイイイイッ


 耳障りな金属がこすれ合う音が辺りに響き、漆黒の闇に覆われた横穴が目の前に広がる。


「ふふっ……そこそこ楽しめそうな連中が出そうだね♪」


 隣でアルが舌なめずりをしているが、それなりのプレッシャーを魔眼に感じる。


「行くぞ。 ノノイ、照明魔法を掛けてくれ」


「うん、おっけ」


 空中に出現した光の弾が行動内を明るく照らす。

 私たち3人はゆっくりと坑道内部へ足を踏み入れた。



 ***  ***


「アトミック・レイ!」


 シュバアッ!


【閃光】の通り名に恥じない白銀の閃熱魔法のビームが一撃でBランクモンスターであるガーゴイルを消滅させる。

 魔法防御力が高いモンスターだが、彼女にとっては関係ないようだ。


「よし、15体目……調子いいかも」


「あ~ん、先にとられたっ! にしし……ノノイちゃんやるね」


 坑道に潜って1時間ほど……私たちは最下層のフロアまでやってきていた。

 恐らく坑道のどこかが崩落し、モンスターのネストと繋がってしまったのだろう。


 先ほどから絶え間なくモンスターの襲撃がある。

 ……まあ、このふたりがいれば少々のモンスターなど物の数ではないのだが。


「以前に比べて、魔力のコントロールが上手くなってるな。 暴発の兆しもない」


 彼女のトレードマークである純白の冒険着に身を包み、強制冷却のためなのか霧を全身にまとうノノイの様子に感嘆のセリフを漏らす。


「うん。 あたし何かつかめそうかも。 竜の牙に来てよかった」


 いつもマイペースなノノイも、頬を染め、瞳をキラキラさせている。


「にっはは~~! さっそく【夜のとれ~にんぐ】の成果が出てるようだねノノイちゃん」


 むにゅん!


「ひあっ!?」


 青春の輝き風のちょっといい空気を、甘ったるいアルの声が吹き散らす。

 いつの間にかノノイの背後に移動し、年齢の割にボリュームのある彼女の胸を揉みしだく。


「んふ~っ? ここがええのんか?」


「あっ……ちょっ、やめっ」


「……まったく」


 天真爛漫な少女に胸を揉まれて体をよじらせるクールな魔法使い、という大変教育によろしくない光景の出現に、思わずため息をついた私はアルを止めようと手を伸ばす。


 その瞬間。



 ズドオンッ!



 羞恥心により抑えが効かなくなったのか、魔力の衝撃波が背後にさく裂し、坑道の壁が崩落する。


「……という感じに生き埋めの危険があるからあまりノノイをからかわないように」


「は~い」

「まだこれくらいか~。 もっと強めにシタほうがいいかなクレイ?」


「む……やはりを工夫するか?」


「にはっ!? クレイさすがの着眼点……ニンゲンさんのえっち道具は凄いからね、準備は任せたよ!」


「……なんであたしの貞操がさらなる危機を迎えてるの?」


 などと軽口を叩きつつ、崩落した壁を調べようと踵を返す私。


 ぐいっ!


 その時、わたしの冒険着の袖をノノイが強く引っ張る。


「まって……なにかいる」


「にはっ?」


『ほう、良く気付いたな人間の娘よ』


「!?」


 モワアアアッ


 崩れた壁から漆黒の闇がにじみ出て……おぼろげな人型を取る。

 どうやら、あまり良くないことが起きたようだ。

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