DAY31 パワハラギルド長、手駒にされる

 

「ぶ、武術大会の開催でございますか?」


「”世界”武術大会だ。間違えるなよ?」


 分厚いファイルに書かれた文字を恐る恐る読み上げるパトリックの様子に、不機嫌そうに鼻を鳴らすゲースゥ卿。


 マフィアと結託した財テクの失敗により莫大な借金を背負ったパトリックは、強制的に財務大臣であるゲースゥ卿の手駒と化していた。


 なにしろ借金の一部を返済するため、ギルドの運転資金にまで手を付けてしまったのだ。

 今は帳簿をごまかしているが、早急に穴埋めをする必要がある。


 そんな中、パトリックの借金を肩代わりする代償としてゲースゥ卿が持ってきた新たな”財テク”がこれである。


「貴様が見つけたコンサルタントは優秀でな」

「ヤツが言うにはこれからは”すぽーつ”の時代だそうだ」


 満足そうに腕を組むゲースゥ卿。

 あれだけの大事件があったのに、卿の懐は痛んだように見えない。

 そんな卿の様子に空恐ろしさを覚えながら相槌を打つパトリック。


「確かに……近年魔法の発達と冒険者ギルド組織の整備によりモンスター退治など旧来の”冒険”だけでは冒険者の数は飽和気味……」

「軍の支援など、国家案件に加え、冒険者を使った”興行”を企画するギルドが出てきているらしいですが……」


「”冒険者ワールドリーグ”だな」

「昨年より帝国の冒険者ギルド主導で始まった催しのようだ」


「そこそこの人気を博しているようだが、我が王国としては”金のなる木”を帝国だけに独占されるのは面白くないのでな……こちらからも仕掛けようというわけよ」


 ばさり……コンサルタントに準備させた大量の企画書を机の上に置き、得意満面のゲースゥ卿。


 あのコンサルタントを見つけてきたのは俺なのに……いつの間にか手柄を横取りされていることに反感を覚えるパトリックだが、莫大な借金を肩代わりしてもらっている現状で卿に逆らえるはずもなく。

 ドヤ顔のゲースゥ卿はさらに続ける。


「3万人収容の競技場の新設など、表の投資もかなりの額になるが……ワシの計画はこれだけではないぞ?」


「と、おっしゃいますと?」


「主催はワシ……つまり、”賭けの胴元”だ」

「慈善名目で勝敗を予想する”クジ”を発売するのだ……もちろん貴様のギルド構成員にも出場してもらう」


「その先は……分かるな?」


 ぎらり、ゲースゥ卿の細い目が鋭く光る。


「は、はぃいいっ!」


 思わず情けない声を上げるパトリック。

 ゲースゥ卿はギルド構成員を使って八百長をしろと言っている!


「案ずるなパトリック……貴様にも2割の分け前を渡そう。 ワシの計算では、王国民の3割がクジを買えば貴様の借金など軽く賄えるはずだ」


「それはそうと……例の案件も忘れるなよ?」


 借金の利子を免除してもらう代わりに請けた面倒な依頼を思い出し、頭痛を覚えるパトリック。


 ……そもそも、国民の3割がクジを買うような一大イベントで八百長など出来るのだろうか?

 上機嫌に執務室を後にするゲースゥ卿の背中を見ながら、今さらながらにどんぶり勘定の恐ろしさを思い知るパトリックなのであった。

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