DAY3 ブラックギルドマネージャー、新卒採用する
「ギルドランクを上げるために、モンスター退治を請け負っておいたぞ」
「はいっ?」
出勤するなり、パトリックさんに捕まる。
ギルドランクとは、世界中の冒険者ギルドの格付けで……現場レベルではあまり恩恵はないが、引退後のギルドマスターの待遇 (年金など)に関わると言われている。
「そろそろ今年の締め切りでしたね……ですが、現在隣国の大規模案件に人を割いていて、今月ねじ込むのは難しいかと」
私はパラパラとファイリングされた”依頼”の遂行表を確認しつつ答える。
先月、パトリックさんの肝いりで”大型案件”を受注したばかりなのだ。
”モンスターネスト”の発生が絶えない隣国からの依頼で、様々なスキルを持つ冒険者を派遣して軍の訓練を支援している。
ギルドランクにおいては、モンスター退治のような個別案件の方が伝統的に評価が高い。
『”ギルドランク”なぞ、旧時代の遺物を気にする必要はない! これからの冒険者ギルドは、国家プロジェクトにかかわっていくべきだ!』
意識高い系セミナーへ出席した後、そうぶち上げたのはパトリックさんなのだが、お忘れなのだろうか。
どうやら、ギルドランクが下がりそうなことに気づいて今さら焦っているらしい。
「そこを考えるのが君の仕事だろう! 今月を乗り切ればいいんだ!」
「冒険者になりたい奴はいくらでもいる! 使い捨てでもいいからさっさと採用したまえ!」
先々月は「人材は宝である!」と言っていた気がする。
セミナーに行くたび喋る事がころころ変わるパトリックさんは、肩をいからせて出て行ってしまった。
「ふぅ……」
追加のミルクコーヒーを入れた私は、魔法通信用の水晶球を取り出すと、考えを巡らせる。
こういう時は、ツテを使って……。
*** ***
「本日はよろしくお願いしますっ!
ステファン17歳、戦士志望です!」
面接会場がわりの応接室に入って来た少年が、元気よく挨拶する。
栗色の髪をショートにまとめた感じの良い少年だ。
一応のチーフマネージャーである私に相談もなく、パトリックさんがモンスター退治を請けていたので、ともかく依頼をこなさなくてはいけない。
私は
なるほど……さすが彼らである。
とっておきの人材を紹介してくれたようだ。
いくつか言葉を交わすだけで、この少年が豊かな才能を持っているのが分かる。
「では最後に……”鑑定”させてください」
「はいっ!」
心の中では、ほぼ採用は決まっていたが……新人冒険者の能力を正確に把握しておくことは重要である。
スキルに見合わない依頼を押し付けられてしまっては、誰も幸せにならない。
「……”心眼”」
カッ!
普段は青い私の目が、赤く輝く。
戦いはからっきしダメな私が持つ唯一のユニークスキル。
相手の”才能”を見抜いたり、心を読んだり……いろいろな事が出来る、らしい。
魔族でサキュバスなアルの話では、私のスキルは絶賛進化中! らしいが……とりあえず今は才能を見抜く力さえあればいい。
(”体力A、素早さB……剣技”)
「なっ!?」
「??」
赤く染まった視界に映った驚くべき結果に、思わず椅子から立ち上がる。
(剣技……S+だとっ!? 伝説級じゃないか!!)
スキルランクS+といえば、世界中を探しても一握りしかいないとんでもない才能……。
もちろん、才能通りにレベルアップするとは限らないが、才能を持っているだけでもすごい事なのである。
「ステファンさん……あなたは素晴らしい力を持っています」
「私たちの”竜の牙”でともに働きましょう!」
「はいっ! ありがとうございます!」
「やった! 僕もついに冒険者だ!」
無邪気に喜びの声を上げるステファン。
これだけの才能をギルドメンバーに迎え入れることが出来たのだ……私は高鳴る胸を抑えることが出来なかった。
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