DAY22 ブラックギルドマネージャー、無茶ぶりされる(いつもの)

 

「王国警察の広報に協力するため、マフィアの協力者を探してこい、だって?」


 やけに上機嫌なパトリックさんに呼び出され、手渡された指示書の内容を見て頭を抱える私。


 先日の闇ダンジョンの件で役所にコネが出来たのがそんなに嬉しいのか、新たな王国直轄案件を受注してきたパトリックさん。

 ざっと指示書を斜め読みしただけでも、アブない案件の匂いがプンプンする。


 まず、大前提の「マフィアの協力者」というのが厄介だ。

 王国最大のマフィア、”混沌の鷹”は昨年ボスが変わったばかりであり、内部抗争が絶えないらしい。


 外国マフィアの脅威もある中で、こんな能天気な企画に協力する構成員がいるとは思えないのだが……。


「またギルドマスターの無茶ぶりですか……何かお手伝いできることはありますか~?」


 執務室で頭を抱えている私に、コーヒーを持ってきてくれるセレナさん。


「……いえ、正直かなり危険な案件ですし、”切り札”を使わせてもらいますよ」


「ふふっ……またクレイさんのチート人脈が炸裂するんですね」


 セレナさんは楽しそうに笑ってくれるが、そんなに大層な物ではない。

 ギルドマネージャーとして色々な案件に関わってきたので、顔が広いというだけである。


「それで……当のギルドマスターは何をしているんですか?」


 香り豊かなコーヒーを楽しみつつ、僅かに開いた執務室の扉から見えるオフィスの様子に首をかしげる。


 やけに小綺麗なスーツを身に着けたパトリックさんが、記者らしき数名を従え、ギルド内の各部署を回っている。


「それが……これも”広報”の一環らしくて、”王国警察と緊密に連携する冒険者ギルド”の密着取材だそうです」


「はぁ、なるほど……」


 注意深く観察すると、仕事をしている一人一人に声を掛け、魔法写真を撮りインタビューまでしている。

 仕事を中断された職員はとても迷惑そうだ。


 ひと通り各部署を回り終えたのか、オフィスの中央に立ちポーズを取るパトリックさんは、自信満々の表情でこう続けた。


「……とまあ、俺……こほん。 わたくしの業務改革により、効率的に仕事ができています」

「リソースを喰う事務作業を最小化し、利益を最大化する……おっと、広報の内容からは外れますが、別途取材して頂いても結構ですよ」


「おかげさまで深夜まで働こうという意欲的な職員が多く……わたくしは幸せなギルドマスターです」


 ピキッ!!


 てめーが怪しげなセミナーに感化されて事務職員を削減したせいで、こっちは深夜残業する羽目になってんだよ!


 パトリックさんの余計な一言に、仲間たちの怨嗟の声が結晶化するのがはっきりと見えたので、私は彼らに少しでも報いるべく、臨時ボーナスの調整を急ぐのだった。


「ふぅ……マフィアの協力者の方も、ツテを当たってみるか」


 膨大な事務手続きの合間、パトリックさん案件を思い出した私は、

 以前知り合った王国警察の警部にひそかに魔法通信を繋ぐのだった。

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